「日本は救われた」7&i前会長辞任の夜、Mr.ROEにメール届く

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「今日は歴史に残る日本が救われた日だ」。一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授に企業統治(ガバナンス)を憂う国内投資家から1通のメールが届いた。セブン&アイ・ホールディングスの当時の鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)からの人事案が否決され、自ら引退を決めた4月7日の夜だった。

  7&iHDの社外取締役で指名報酬委員会委員長も務める伊藤氏はブルームバーグのインタビューで、この人事案は取締役会に先立ち指名委に諮られ、同氏を含む社外取締役2人の反対で認められなかったと述べた。鈴木氏は取締役会の直後に辞任を発表した。伊藤氏は50通超に上る激励のメールに勇気づけられたという。

  伊藤氏は日本の上場企業に効率的な資本活用で利益拡大を追求する株主資本利益率(ROE)の向上を求め「ミスターROE」として知られる。

伊藤邦雄特任教授

Photographer: Akio Kon/ Bloomberg

  企業経営の透明性を高め投資を呼び込もうと安倍晋三政権が2015年6月に企業統治の規範(コーポレートガバナンスコード)を導入して丸1年。伊藤氏は、投資家らの「形は整ったが、実質は本当に伴うのか」との疑念を感じていただけに、7&iの人事騒動が結果的にそれを拭い去り、日本企業のガバナンスが機能したと安堵(あんど)した。 

  7&iのカリスマ的存在で長期間トップに君臨した鈴木氏はセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長(当時)を交代させる人事案を提起していた。鈴木氏は井阪氏の手腕に不満だったというが、伊藤氏は指名委で「5期連続増益の会社の社長が退任、事実上の更迭というのは極端だ」と異を唱えたという。

  鈴木敏文氏は、7&i広報を通じてブルームバーグに対し、一連の人事騒動についてコメントを控えると述べた。7&iHDの株価は4月7日以降、約7%下落している。

鈴木敏文氏

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

社外取締役の影響力

  東京証券取引所によると、コードが奨励する2人以上の独立社外取締役を導入した1部上場企業の比率は前年の48%から78%(16年6月時点)へ大幅に増えた。しかし、日本では昨春に自ら先行して社外取締役を導入していた東芝で不適切会計問題が発覚するなどガバナンス強化の実効性が問われていた。

  7&iは会社法に基づく指名委員会等設置会社ではなく、指名委設置は義務ではないが、伊藤氏は数人からなる任意の指名委でも「運営の仕方によってガバナンス上ある種の効果を発揮できることを示した」と自己も含め評価。株主総会で出席株主の過半数の賛成などを得る必要があるのに比べれば容易だ。

サード・ポイント

  こうした一方で伊藤氏は、騒動の渦中に井阪氏退任に反対だった米サード・ポイントのダニエル・ローブ氏から面会を求めるEメールを受け取ったが、面会を断ったことも明かした。「平時ならいいが、事態が先鋭化していた。自分の判断にバイアスがかかると困る」と認識し、公正性に配慮した。

  サード・ポイントはイトーヨーカドーの縮小と再編、そごう・西武の売却などを求めている。伊藤氏は収益性が高いコンビニエンス事業と他業態のチャネルの「組み合わせで新たな流通革命に結びつく可能性もある」とし、会社が投資家の意見を時に取り入れながら「提案されている案を超える案を作る」ことに期待を示した。

  7&iHDの16年2月期のROEは6.9%。伊藤氏は「ROEは今のままでは低い。もっと資本生産性を高めないといけない」と指摘する。前期は日米のセブンイレブンで過去最高益を更新した一方で、ヨーカドー、そごう・西武、ニッセンホールディングスは減益や赤字だった。

ダニエル・ローブ氏

Photographer: Simon Dawson/Bloomberg

  日本電産の創業社長でソフトバンクグループの社外取締役でもある永守重信氏は、ブルームバーグの取材に、自らが大株主の孫正義社長なら、その後の居場所を気にすることなく「社外役員から異議が出たら恐らく提案を引っ込めるだろう」と指摘。鈴木氏が自分の案を撤回しなかったことが問題を大きくしたとみている。

(第10、11段落に伊藤氏の見解などを追加しました.)
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