ニッポンの真逆行く世田谷区-人口膨張、保育や災害が悩みの種

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  • それでも住みたい「ステータス」、東京一極集中に石破大臣は警鐘
  • 参院選で東京、愛知などは定数増、鳥取・島根、徳島・高知が合区

日本全国とちょうど反対の現象が起きている-。東京都世田谷区長の保坂展人氏(60)は6月、ブルームバーグのインタビューでこう語った。東京23区の南西部に位置し、人口は89万人。日本は人口減少時代に突入しているが、同区はこの10カ月で人口が1万人増えたという。

  30~50代の世帯の転入が多い世田谷区は、高齢化率が2割程度で横ばいを保っており、少子高齢化に悩む全国の地方自治体とは真逆の状況にある。保育施設に入所できない待機児童数は4月時点で1198人で、保坂氏は「全国で一番多い数字を発表している」と話す。施設整備を急いでいるが、「まだ伸びる傾向なので保育園が足りないという問題が深刻になっている」という。

  通勤通学のラッシュも過酷だ。国土交通省がまとめた「東京圏における主要区間の混雑率」(2014年度)の調査によると、世田谷区民も多く利用する小田急小田原線の世田谷代田-下北沢間は189%、東急田園都市線の池尻大橋-渋谷間は185%。

  「適正人口がどれくらいかというと非常に難しい」と語る保坂氏。「大地震に耐えられる安全な都市だと今の5分の1くらい」と指摘するが、「でも多くの人が住んでいる。100万人になるという予想もある」と人口増への対応に悩む。

  総務省統計局の人口推計によると、日本の人口は1月1日現在、1億2704万3000人で前年同月比14万9000人減少。これに対し、東京都の人口は同日現在、1350万7347人と1年間で11万人以上増加している。

家族連れ

  6月下旬の週末、世田谷区内で近年大規模住宅の建設など再開発が進む二子玉川地区の公園は、多くの家族連れで賑(にぎ)わっていた。

二子玉川の公園

Photographer: Yuya Shino/Bloomberg

  「ステータス。東京に住むのは主人の憧れだった」と話すのは、9歳の息子、5歳の娘とピクニックを楽しんでいた城田明子さん。千葉県から引っ越してきた。世田谷区を選んだ理由としては、「中学校や高校が多い。子どもたちの選択肢はある」と教育環境の充実を挙げた。「年を取ったら地方に住みたくなるかもしれない」と話すが、公園があり、緑の多い世田谷区の居住環境が気に入っているという。

  ショッピングモールで生後7カ月の息子と遊んでいた鈴木美鈴さんも、「世田谷区は公園が多い」と笑顔を見せた。今は育児休暇中。職場復帰を考えているが、待機児童数の多さに「認可保育園はないだろう。しばらく無認可に預けるが、経済的な負担になる」と不安ものぞかせた。

自治体間交流

  「認可保育園を増やした分、また待機児童が増える。その繰り返し」と世田谷区長の保坂氏は話す。現在建設計画を進めている5施設では反対運動が起きている地域もある。世田谷区役所区長室の竹内明彦副参事によると、区全体では計約40施設を増やす計画がある。騒音や朝夕の送り迎えの時間帯の交通問題などを理由に子育てを終えた世代から反対の声が上がることが多いという。

  全国40カ所の小規模な市町村との交流を重視している。年に1回の祭りで各地方の特産品を販売するほか、自治体の連携を考える首長会談を実施している。地方との連携には子どもたちの交流などの目的もあるが、それ以上に災害時の備えにつなげるという展望がある。

  保坂氏は「熊本規模の地震が世田谷区であったら、逃げ出す所がない。避難するところも人が多過ぎて溢(あふ)れてしまう」と危機感を示す。「地方での仕事が生まれるような仕事おこしを手伝いながらネットワークを進める」とも述べ、「災害時には付き合いのある自治体にいったん逃げたりというようなことも考えながら交流を大事にしている」と力を込めた。今後は、地方の暮らしに関心のある住民を対象に、交流のある市町村への移住を橋渡しすることも考えているという。

保坂展人世田谷区長

Source: Setagaya Ward

  
  独り勝ちのように見える東京にとっても、地方の衰退は無関係でないと保坂氏は指摘する。「都市の生活も豊かな農産物とか漁業で成り立っている。地方が人口減少で壊れていくと担い手がいないということになる。都市の生活も輸入品で賄わないといけないような傾向がもっと強まるだろう」と話す。

地方創生

  「東京の一極集中がこのまま進めば、やがて日本はなくなる」と語るのは石破茂地方創生担当相。6月のブルームバーグのインタビューで、将来の高齢化に対応する医療や介護施設の不足、さらには大規模災害の際の脆弱(ぜいじゃく)性を挙げ、「東京は人口の増加に対応できない」と懸念を示した。

  東京の一極集中を解消し、地方を活性化しようと始められた「地方創生」。昨年度までの2年間で、合計2700億円の交付金を使って地域産業の育成や観光振興などで全国の自治体の自主的な取り組みを支援。今年度も1000億円(事業費ベース2000億円)の規模の関係交付金を予算計上している。石破氏は、地方創生は「着実に進んでいる」というが、「急に東京から人が地方に移動するというようなことが起こったら、それはマジックですよ」とも続けた。

  石破氏の地元である鳥取県の推計人口は約57万人。世田谷区よりも30万人以上少なく、杉並区より少し多い数だ。日本は既に人口減少時代に入っているが、そのスピードは東京と地方で大きく異なっている。

  参院選で鳥取、島根両県と徳島、高知両県がそれぞれ1つの選挙区として合区されたほか、宮城、新潟、長野各県も定数が減った。東京都、愛知、福岡両県などの定数は逆に増えた。東京では定数がこれまでの5から6に増え、自民、民進両党が2人の公認候補を擁立したほか、公明、共産、おおさか維新の会など各党が独自候補を擁立。10日の投開票に向け、しのぎを削っている。

(第9段落に保育施設建設計画の詳細を追加します.)
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