地熱発電の日の丸プロジェクト始動、国立公園内で-地元同意がカギ

  • 国内には原発20基に相当する地熱資源-規制緩和で調査可能に
  • 30年度に地熱発電の出力規模を3倍に増やす政府目標

福島の復興をかけた「日の丸」地熱開発プロジェクトの調査が本格化している。原発稼働率の低下で二酸化炭素の排出(CO2)削減につながる再生可能エネルギーの重要性が高まっており、日本全体で原発20基分の資源があるとされる地熱発電のポテンシャルに注目が集まっている。

  磐梯朝日国立公園内の福島県磐梯山周辺で今秋、深さ2000メートル超の調査用の井戸の掘削が始まる。今回掘削する2本の井戸で、地下水の温度や流れのほか周辺の地層が地熱発電に適しているかどうかを調べる。再生可能エネルギーの利用拡大を目指した国立・国定公園内の開発規制の緩和により掘削調査ができるようになった区域で、出光興産と石油資源開発、三菱マテリアルが中心となり、地熱発電事業としては異例の11社で組成された福島地熱プロジェクトチームが推進する事業だ。

  日本は世界3位の地熱発電の資源量を誇るものの設備の出力規模は世界9位の52万キロワットにとどまる。多くの有望地が開発が規制された国立・国定公園内にあり、古くから地熱を利用してきた温泉業者の反対により開発に移行できていない。政府は2030年度に155万キロワットまで拡大することを目標に、国立・国定公園内の開発規制緩和や調査・開発への財政支援で後押ししている。

  政府のエネルギー政策の議論にも参加している東京理科大学イノベーション研究科の橘川武郎教授は「地熱は素晴らしいエネルギーでポテンシャルもある」と評価する。しかし、地元住民の強い反対にあう傾向もあり、政府の拡大目標は「地元と調整の成功のストーリーを作らないと絵に描いた餅になる」と指摘した。

相次ぐ規制緩和

  石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の資料によると、国内の地熱資源の約8割が各地の国立・国定公園内に分布。東日本大震災後に規制が徐々に緩和され、このうちの7割が開発可能となった。

  同プロジェクトチームは規制緩和を背景に国立公園内の磐梯山周辺3町村の首長から合意を得て、13年に地表の調査を開始し有望地域を磐梯山東麓に絞り込んだ。今年度から最低2年間の掘削調査で有望だと評価されれば発電出力など詳細を決める事業化調査を実施し、2020年代の運転開始を目指して発電所を建設する計画だ。各段階で地元住民の合意を得て進める。

  出光興産資源部地熱課の上滝尚史課長はブルームバーグのインタビューで、掘削地点の湯量や湯温は温泉用としては低いものの、掘る深さは地下2000メートルと温泉用井戸の2倍以上になると話した。磐梯山は新しい火山で熱源になるマグマも多く存在すると考えられることから、深く掘った場合には湯温が高めになることが期待できるとし、実際の発電にも転用が可能な大きさの調査用の井戸を掘る予定だ。

利害の一致

  猪苗代町企画財務課企画調整係の土屋伸氏によると、調査予定地は同町が保有する温泉跡地で、5月末に開催した地元住民向けの説明会では大きな反対は出なかった。「地熱を観光や農業に活用」する考えのほか、発電所を町内に持つことで国からの交付金や事業者からの固定資産税など歳入増も期待できるという。

  現段階では受け入れ側と開発側の利害調整が進み調査を実施している磐梯地域に対し、同プロジェクトチームが別な事業を計画している福島県の吾妻山や安達太良山の周辺地域では、地元温泉事業者の反対により調査を開始できていない。

  相次ぐ規制緩和に危機感を募らせた福島県と山形県の温泉事業者約40人で磐梯・吾妻・安達太良地熱開発対策委員会を発足。同対策委の遠藤淳一委員長によると15年8月、プロジェクトチームに対し吾妻・安達太良地域での調査計画の白紙撤回を要求した。

  遠藤氏は温泉の枯渇や地震が発生する可能性、採算性などに懸念を示し「まだ安全、安心のための資料がそろっていない」と指摘。原発事故の被害を受けた福島県で「せめて自然環境だけは壊さないでいただきたい」と述べた。

枯渇・地震・出力低下

  環境省の調査資料では、海外の地熱開発による周辺環境への影響の事例がまとめられている。ニュージーランドのワイラケイで1958年に開始した20万キロワット規模の地熱発電事業では温泉の枯渇を招いた。井戸からくみ出す温水と同量程度の水を地下に戻すための還元井が当時は設置されておらず、運転開始から約40年後に設置したものの枯渇した温泉は回復しなかった。スイスのバーゼルでは高温の岩体に水を注入して温水として取り出す方式がとられ、2006年に地下への注水を始めたところ地震が頻発し、開発が中止された。

  既存の国内地熱発電事業でも出力低下が相次いでいる。東北電力の柳津西山地熱発電所(福島県柳津町)は出力6万5000キロワットと、単一の発電機としては国内最大級の地熱発電設備として20年間稼働。東北電力広報担当の安住信也氏によると、20年前の想定とは異なり蒸気噴出量が減って2-3年前から設備利用率が5割を下回っている。来年6月の定期点検時にタービンを取り換え、出力を3万キロワットに減らす方針。

  国内の地熱発電所の出力規模は52万キロワット。設備利用率を8割と想定すると1年間の発電電力量を36億キロワット時となる。しかし、実際には15年度の発電電力量が25億キロワット時にとどまる。経産省の試算によると、地熱発電設備の出力1キロワット当たりの建設費は79万円。原子力の37万円、LNG火力の12万円、太陽光の36万4000円などを上回る初期投資の高さに加え、湯垢(ゆあか)による配管の詰まりや圧力の低下で蒸気量が減少し、採算性を圧迫する要因となる。

開発後にもアセスメントを

  遠藤氏は、開発前だけでなく開発後にも影響の評価が「絶対に必要」と指摘する。既存の地熱発電の周辺環境や地域経済への影響を調べ、「30年後はこうなりますよ」と先行事例を示すべきだと考える。地元との交渉については、プラス面だけでなくマイナス面も開示しなければ、「信頼関係が築けない」との認識を示した。

  日本最古の松川地熱発電所(岩手県八幡平市)は今年、運転開始から50周年を迎える。出力は当初の9500キロワットから2万3500キロワットまで拡大。しかし、同発電所を運営する東北自然エネルギーの八木誠地熱事業部長によると、蒸気の量が減少していることや装置のトラブルなどにより発電電力量は低下傾向にあるという。

  さらに八木氏は「地熱発電は作って終わりではない」と指摘する。同発電所は、近隣の松川温泉や八幡平市と共存共栄を図っていると話す。発電所開発以前からある温泉宿、松川荘は発電所から暖房や給湯用に蒸気供給を受けている。おかみの平栗カエ子さんは「今のところ温泉への影響はない」という。「道路も良くなり、八幡平温泉郷もできて本当に栄えた」と話す。地域経済の要だった硫黄鉱山が閉山した影響を最小限に食い止めることもできた。

代替井戸の費用負担制度も

  政府は、国内で地熱開発による温泉への科学的影響は確認されていないと主張している。温泉事業者の不安を解消するため、15年度から地熱発電の開発によって既存の温泉に影響が出た場合には、国が全額補助して代替の井戸を掘削する制度を設置。科学的な知識に乏しく地熱発電に二の足を踏む自治体に助言する専門委員会も立ち上げた。

  入社以来36年間地熱の開発に取り組んでいる出光の上滝氏は「石油や石炭と違って、基本的にはバランスよくやれば枯渇しない」と指摘する。同社の滝上発電所(大分県九重町)は当初の2万5000キロワットから2万7500キロワットに出力を上げ、20年経過した今も設備利用率は約95%で推移している。

  ただ吾妻・安達太良地域での開発については、「復興のためとはいえ、地元の人の反対を強引に無視して進めるわけにはいかない」とし、磐梯地域で成功事例を作り、今は反対している吾妻・安達太良の地域住民からも了承を得たいと話した。

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