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「焼け石に水」と国債市場は諦めムード、黒田日銀に妙案はあるのか

更新日時
  • 主要な金融機関の国債売買高が5月に過去最低を記録
  • 業界として成り立たなくなる恐れ、とSMBC日興証

国債利回りがマイナス圏に沈み、売買高はかつてないほど細っている。このような事態を招いた日本銀行は市場関係者との意見交換に努めているが、打開策はあるのか-。

  異次元緩和の下で大規模な国債買い入れが長引く中、日銀は昨年から市場参加者との意見交換会を年2回程度の頻度で開催、流通市場の機能度に関する調査結果や市場の流動性指標も四半期ごとに公表している。黒田東彦総裁は市場の動きを丹念に点検していると主張するが、利回りがゼロ%を下回る国債の運用は、より深いマイナス金利で転売できなければ損失を被るという厳しい環境だ。

  日本証券業協会の統計によると、都市銀行と信託銀行、生損保の国債売買高は5月に合計10兆885億円とデータでさかのぼれる2004年以降で最低を記録。日銀が5月に実施した債券市場サーベイでは、市場機能度が「さほど高くない」と「低い」が合計9割超に上った。国債市場は今週、発行残高の85%前後に当たる残存年数18年程度までの利回りがゼロ%を割り込み、全ての年限が0.1%以下の状態に直面した。

Japan bond market meetings

  SMBC日興証券の末沢豪謙金融財政アナリストは、日銀の巨額購入で「民間同士の取引は減り、市場の流動性は細る一方だ。売りも買いもないので、トレーダーらは不要になり、業界として成り立たなくなってしまう。国債市場は死に絶えつつある」と指摘。「国債がもう物理的に市場からなくなっているので、対話しても何をやっても『焼け石に水』だ。当局も分かっているだろうが」と続けた。  

  長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは今週、マイナス0.255%、20年債は0.04%、30年債は0.05%、40年債は0.065%といずれも過去最低を記録。2年債はマイナス0.335%、5年債もマイナス0.355%と最低を更新した。

  英国民投票での欧州連合(EU)離脱派の勝利が伝わった先月24日、財務省は国債市場特別参加者(プライマリーディーラー)との定例会合を開催。主な証券会社や銀行から、全ての年限がマイナス金利になってしまうとの恐怖感を抱く顧客もあり、そうした見方も含めて相場が形成されていくことを理解しなければならないとの意見が出た。

歩調を合わせて低下

  5月の都銀と信託銀、生損保の国債売買高は、異次元緩和が始まる直前の13年3月に比べ約7割減少。特に都銀は2兆34億円と最低を更新した。国債等の発行残高は3月末に過去最大の1075兆円。うち、日銀は364兆円と1年間で32.7%も増え、全体の33.9%を占めた。

  みずほ証券の末広徹シニアマーケットエコノミストは、国債利回りはこのところ低下したが、「取引は活性化していない。保有目的の投資には全然見合わない水準まで下がり、利ざや稼ぎの短期売買でなければ取引に入っていく必要がない」と指摘。「本当に運用難だ。日銀の巨額買い入れが続く限り、市場流動性の改善は想定できない」とみる。

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流動性は犠牲に

  日銀の債券市場サーベイで、3カ月前と比べて取引頻度が「減少した」との回答は5割に達し、「さほど増加していない」も4割に上った。日銀金融市場局が先月6、7日に開いた債券市場参加者会合では、金融機関から不満が噴出。マイナス金利政策の下で「取引は低調で『縮小均衡』のような状態」「現在の金利水準での国債運用は極めて困難」といった声のほか、黒田日銀の金融緩和策は「市場の流動性を犠牲にしてでも金利を押し下げて景気を刺激するもの。流動性の低下は政策の効果だ」との指摘もあった。

  三菱東京UFJ銀行がプライマリーディーラー(PD)資格の返上を検討中との報道があったのは翌8日。PDは財務省との会合で発行計画の情報を得られるなどの特権がある半面、入札では発行予定額の4%以上を応札する義務がある。英銀ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS)の証券子会社など外資系金融機関で前例があるが、国内勢では04年10月の制度導入以降、返上した例はない。

  黒田総裁は先月16日の記者会見で、市場参加者と密接に意見交換しながら、オペの運営面を工夫するなど、市場の安定に努めていると説明。国債買い入れオペは「円滑に行われている」と主張した。一方、過去に例のない大規模な金融緩和で「国債市場が影響を受けるのは間違いない」としながらも、長年デフレが続いてきた日本経済では、現在の金融緩和を続けていくことが「何より重要だ」と訴えた。

  みずほ証の末広氏は「日銀は国債取引の低迷は異次元緩和とマイナス金利政策の副作用と割り切っており、市場への配慮は期待できない」と指摘。市場関係者との意見交換会では、「最初のころは質問なども出ていたが、最近は諦めムードが漂っているようだ」と言う。

  2%の物価目標を掲げる日銀は、13年4月に導入した「量的・質的金融緩和」での国債買い入れを、翌年10月末には保有残高が年80兆円増となるペースへ拡大。今年2月半ばには、金融機関の日銀当座預金の一部に対し0.1%のマイナス金利の適用も始めた。それでもインフレ率は低迷を続けており、当初2年程度だった目標達成時期は徐々に先送りされ、現在では「17年度中」となっている。

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  日銀が2月から3月にかけて個人を対象に行った生活意識に関する四半期ごとのアンケート調査で、1年後の収入が「減る」との回答が37.6%と14年12月調査以来の水準に上昇し、支出を「減らす」とした人は51%と4期ぶりの高水準となった。1年後の物価が現在と比べて上がるとの見方は75.7%と、前回から1.9ポイント減少した。

  新生銀行が4月に実施した調査によれば、男性会社員の小遣いは1カ月平均で前年比231円増の3万7873円と、1979年の調査開始以来3番目に低い水準となった。14年4月の消費増税から2年たったが、増税の負担を感じるとの回答が男性で74.4%、女性会社員は82.5%に上った。

  SMBC日興証の末沢氏は、デフレからの完全脱却を狙う黒田緩和は「国策と言えば国策だが、市場から毎年50兆円も国債がなくなり、残存15年程度まで利回りがマイナスで、40年債でも0.1%しかなく、しかも当座預金に積んだらマイナス0.1%だ」と指摘。「日銀の国債買い入れは儲けが目的ではないが、投資家は儲けるのが使命で、損したら自己責任だ。非対称的な構図で、対話がうまくいくわけがない」とみる。

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