貸出支援基金にマイナス金利適用が有効、日銀7月会合-早川元理事

  • 日銀はできれば追加緩和したくないが、7月せずに済むか厳しい
  • 同じ反発を受けても貸出金利マイナスの方が経済学的に意味がある

元日本銀行理事の早川英男氏は、日銀が7月末に開く金融政策決定会合で現状維持とするハードルの高さは6月までとは「全く異なる」と述べた。具体的な追加緩和の手段としては、マイナス金利の拡大には限界があり金融機関の反発も強いことから、日銀が金融機関に資金を供給する貸出支援基金にマイナス金利を適用することが有効との見方を示した。

  富士通総研エグゼクティブ・フェローの早川氏が29日、記者説明会で語った。7月会合前の臨時会合開催の可能性については「まずないだろう」と指摘。理由について、英国の欧州連合(EU)離脱で新規投資には影響するかもしれないが、生産などには波及しないことから、「短期的には何も変わらない」ことを挙げた。

  さらに、「日銀は口先で言っていることとは異なり、追加緩和の手段が相当限界に来ているのは誰の目にも明らかなので、できれば追加緩和はやりたくないと思っている」という。ただし、7月28、29日の金融政策決定会合については、「やらずに済むかと言うと、なかなか厳しい」とみる。

17年度2%どう考えても無理筋

  日銀は7月会合で経済・物価情勢の展望(展望リポート)を策定する。前回4月のリポートでは、2016年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)前年比の見通しを0.5%上昇、17年度を1.7%上昇に下方修正し、目標の2%に達する時期を「17年度中」と従来の「17年度前半ごろ」から先延ばしした。

  早川氏は「誰がどう考えても16年度の0.5%は0.1%あたりにしなければならないし、17年度の1.7%は無理筋だ。これらを下方修正すれば当然『17年度中の2%達成』というシナリオも壊れる。このシナリオが壊れれば、黒田総裁の任期を完全にまたいでしまうことになる」と指摘する。

物価の基調はしっかりと言えるのか

  日銀は物価の基調を見る上で、独自に公表するエネルギーと生鮮食品を除いたいわゆる日銀版コアCPIを重視している。4月分は0.9%上昇と前月(1.1%上昇)から伸びが鈍化した。7月1日には5月分、同29日には6月分が公表される。

  エネルギー価格は一頃より上昇しているが、日銀版コアCPIはエネルギーを除いていることに加え、過去の円安で上昇した食料品価格が下落に転じるため、「あと0.1-0.2%下がる」と予想。「そうすると一時期1.3%まで上昇したものが半分くらいになる。それで物価の基調はしっかりしていると言えるのか」と疑問を呈する。

  米国が早期に利上げできれば円高圧力も和らぐため、追加緩和を避けたい日銀にとって援軍になったはずだが、「英国のEU離脱で7月の利上げはほぼ消えた」と指摘。日銀にとって7月会合は「かなり厳しいものになる」と予想する。

マイナス金利拡大は限界ある

  黒田東彦総裁は4月28日の会見で、「必要があれば、まだまだいくらでもマイナス金利を深掘りすることができる」と語ったが、早川氏は「現金にマイナス金利が課せないため、マイナス金利の拡大には限界がある」と語る。

  日本は比較的治安が良いことに加え、先進国では珍しく現金決済の習慣が残っていることがその理由だ。「米国のスーパーマーケットで100ドル札を出すとまず受け取ってもらえない。1%近いマイナスになっていると言われる北欧諸国では米国より現金が使えない。だからこそ、マイナス1%も可能になる」と説明する。

  一方、「日本でマイナス0.5%や1.0%にすれば、さすがに金融機関は個人預金口座に手数料をかけるだろう。もし手数料をかけられたら現金にすれば良いので、そこで限界が来る。社会の習慣を無視して、外国がこのくらいだから日本もできる、というのはあまり意味のある議論ではない」と語る。

貸出支援基金にマイナス金利を

  そこで早川氏は「当座預金のマイナス幅を拡大するより、貸出支援基金にマイナス金利を適用する方が良い」という。日銀は同基金を通じて金融機関に資金を供給しており、現在利率は0%。日銀が金融機関にマイナス金利で資金を供給すると、「平均利ざやは下がるので金融機関は嫌がるだろうが、経済学的に考えると、限界的な利ざやは拡大するはずなので、基本的には効果を持つはずだ」とみる。

  金融機関の行動が基本的に限界金利によって動いていると考えれば、「融資のインセンティブは高まる」と指摘。金融機関の反発が想定されるが、日銀からすると「当座預金の金利を下げても反発される。同じ反発されても何らかの政策効果を追求する腹を決めれば、そちらの方が意味があると考えるに違いない」という。

  早川氏は「後は指数連動型上場投資信託(ETF)など質を多少増やすこともあるかもしれない」としつつも、「何をやっても確実に効果が出る芽があるかというと難しい」と語る。金融機関の反発も収まっておらず、国民の理解が進んだとも思えない中で、「何をやっても世間の批判を浴びる可能性もあるし、市場も素直に反応してくれるかどうかよく分からない。なかなかつらいところだ」としている。 

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