追い詰められる国内投資家、もはや神のみぞ知るマイナス金利の終着点

更新日時
  • 新発40年債利回りが過去最低の0.065%に低下、全年限で0.1%割れ
  • 金利低下と売りにくさのスパイラル-SMBC日興

英国の欧州連合(EU)離脱ショックに見舞われた直後、財務省が開いた国債市場関係者との定例会合。そこで議論が集中したのは、日本銀行の異次元緩和とマイナス金利政策下で発生した自己増殖的とも言うべき金利低下のメカニズムだった。

  財務省の資料によれば、低金利で運用難に苦しむ国内勢は、利回りがわずかながらもプラス圏にある超長期債や外国債券への資金配分を拡大。これが超長期金利の低下を加速するとともに、手持ちのドルを有利な条件で円と交換した海外勢の資金流入で中期債のマイナス利回りを深めている。国債利回りは発行残高の9割近くに当たる残存18年程度までゼロ%を割り込み、40年債までの全年限で0.1%を下回っている。

  SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは、国債利回りが「どこまで低下するかは、もはや『神のみぞ知る』だ。需給が引き締まる中で20年債はゼロ%がめどだし、30年債や40年債がそうなっても不思議ではない」と分析。国内勢は「ますます追い詰められつつある。売ってしまうと次に買う物に困るので、売るに売れない。金利低下と売りにくさのスパイラルで、売り手不在に拍車が掛かっている」と言う。

  長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは29日にマイナス0.24%、5年債もマイナス0.32%と過去最低を記録。前日には20年債が0.04%、30年債が0.05%、40年債が0.065%、2年債もマイナス0.30%といずれも最低を更新した。

  債券運用指標の一つ、NOMURAボンド・パフォーマンス・インデックスによれば、国債に関する投資収益指数は前月末から17.69%上昇。うち金利収入は1%だけで、16.68%が値上がり益だった。

  英EU離脱派の勝利が伝わった24日午後の国債市場特別参加者(プライマリーディーラー)会合では、全年限がマイナス金利になってしまうとの恐怖感を抱く顧客もあり、そうした見方も含めて相場が形成されていくとの意見が出た。プラスの金利を求める国内勢による投資対象年限の長期化でイールドカーブはフラット化した一方、海外勢は国内金融機関のドル調達需要で拡大したベーシススワップを用いてマイナス金利の中期ゾーンを購入しているとの指摘もあった。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、10年債が当面マイナス0.3%、20年債はゼロ%まで下がると読む。「売り手がいないので、利回りはどんどん下がらざるを得ない。イールドカーブはほとんど平らだが、さらにフラット化する可能性がある」と分析。「やや行き過ぎの感はあるが、40年債まで全てマイナス圏に突入する可能性も否定できない」とみる。

  財務省が27日開いた国債投資家懇談会では、出席者が国内勢による為替ヘッジ付き外債などの増加が海外国債の利回り低下とヘッジコストの上昇につながり、外債投資の収益率が低下していると説明した。その半面、海外勢はベーシススワップ取引で円を安く調達できるため、深いマイナス金利の短中期債を買っても利益が上がると指摘。国内勢のコストが膨らむ一方で、マイナス金利政策の恩恵を海外勢が享受しているのは望ましくないとの意見もあった。

何を買うにも割高

  国内勢が円を元手に購入する外債の為替差損を回避するヘッジコストの目安は、円と外貨のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の差や、クロス通貨ベーシススワップが映す両通貨の需要格差に基づく上乗せ金利で見極めることができる。

  ドルと円の金利差は3カ月物で65ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)程度と1年前の約3.5倍。ブルームバーグのデータによると、ドルと円の資金を一定期間交換することが条件のベーシススワップ取引の3カ月物は英EU離脱派が勝利した24日に一時88.25bpと、少なくとも2011年以降でドルの調達コストが円を最も大幅に上回った。

  一方、ブルームバーグの利回り・スプレッド分析データによれば、利回りがマイナス0.295%の日本国債2年物はドルが元手の海外勢がスワップ取引などを通じて運用すれば、同年限の米国債より75bp前後も高いプラス1.36%程度に一変する。米5年債は足元で0.61%台。09年8月を最後に1.36%に達していない。

  メリルリンチ日本証の大崎氏は「ベーシススワップの拡大と海外金利の低下で、日本人にとっては何を買うにも高値となり、もはや利回りが取れないのにリスクだけは付いてくる」と指摘。「ベーシススワップが武器になる外国人からみると、日本国債はまだ妙味がある水準だ。国内勢にとっての悪循環は異次元緩和とマイナス金利政策の下では終わりそうにない」とみている。

  英EU離脱派の勝利を受け、ドル・円相場は24日に1ドル=99円02銭と13年8月以来の水準まで円が急騰。異次元緩和の導入直前の水準まで6円余りに迫り、企業収益やインフレ率の下押し圧力となりかねない情勢だ。昨年6月には125円86銭と13年ぶりの水準までドル高・円安が進んでいた。日経平均株価は1万5000円の大台を割り込み、追加緩和前に当たる14年10月以来の水準まで下げた。

  政府は29日、週末を挟み4日連続で安倍晋三首相、麻生太郎財務相と日銀首脳を含めた会議を開催。麻生財務相は会合後記者団に対し、安倍首相から引き続き金融市場の動きを注視し、必要な対応を機動的に取るよう指示があったと説明。黒田東彦日銀総裁は、邦銀の外貨調達に問題は生じていないとの認識を示した。日銀が英EU離脱決定後初めて実施した28日の定例ドル供給オペでは、金融機関の応札額が14億7500万ドルと前回の200万ドルを大幅に上回り、14年12月以来の高水準となった。

  プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパンの坂口憲治取締役投資運用本部長は、債券市場は追加緩和を織り込みつつあると指摘。次回の決定会合で付利の一部をマイナス0.3%に引き下げる可能性があると読む。超長期ゾーンなどの投資家は「どこまでマイナスに沈むかという恐怖があるので、プラスの金利のものを早めに確保しておかなければという動きが出やすい」とみる。

  SMBC日興証の竹山氏は「全ての国債利回りがゼロ%まで下がってしまうと、日銀が追加緩和しても金利の大幅な低下が見込めない」と指摘。そうなると「緩和期待の剥落や国債買い入れ減額の観測が浮上してくるので、利回り低下の一つの分岐点になるだろう」とみている。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE