G7の英ポンド救済、「なかなか厳しいのではないか」-行天氏

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  • 今は通貨危機も信用危機も生じていないと、行天氏
  • 暴落のきっかけとなり得るのは英国内政治の混迷か

外国為替市場では、欧州連合(EU)からの離脱を選んだ英国のポンド安が進行中だ。行天豊雄元財務官は仮に暴落が起きた場合、主要7カ国(G7)から条件抜きの協調救済を受けるのは難しいとみている。

  国際通貨研究所理事長を務める行天氏(85)は27日のインタビューで、イングランド銀行(英中央銀行)は1992年のポンド危機が「経験の一つとして脳裏に残っているはずだ」と指摘。「多国間の実物的な対応、つまり国際協調による一斉介入などもあり得るかもしれないが、まずはイングランド銀がどういう判断をするかだ」と述べた。

  週末24日の英国民投票では、EU離脱派が市場予想に反して勝利。ポンドの対ドル相場は一時、前日比11%超下げた。週明けの27日も下げ幅を広げ、85年以来のポンド安値を更新している。イングランド銀は92年9月、著名投資家のジョージ・ソロス氏らによるポンド売りに屈服。欧州の通貨統合に向けた域内の準・固定相場制からの脱退を余儀なくされた経緯がある。

  行天氏は、ポンドの暴落は「何かきっかけがなければ起こらない。当然、英国内の要因だろう」と指摘。政治的な混迷や次期首相の選出難航など「英国がもはや自浄能力を失っていると国際的に認識されてしまうかだ」と説明した。こうした危機的な状況が起きる可能性は低いとしながらも、仮に暴落した場合、それをもたらした原因が「全然改善していないか、改善のための努力がなされていないのに、他国が仕方ないから助けるのはなかなか厳しい」と指摘した。

  G7の財務相・中央銀行総裁は24日に電話会談し、市場の不測の混乱に備えて緊密に協議し適切に協力する決意を表明した共同声明を発表。英国民の意思を尊重するとした上で、「市場動向を注視している」と明記。「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再認識する」とともに、「市場の動向と金融の安定を緊密に協議し、適切に協力する」とした。

苦境に陥れば救済も

  行天氏は、「主要国通貨の一つがアタックされて苦境に陥っている時に、世界経済にとって好ましくないという認識は形成され得る」と指摘。「G7が協調して特定通貨の救済のために何かすることはあり得る」と述べた。

  米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは27日、英国の格付けを最上級から2段階引き下げ、フィッチ・レーティングスも上から2番目だった格付けを1段階下げた。スコットランド自治政府では独立を問う住民投票を再実施する可能性が浮上。一方、与党保守党はキャメロン首相辞任に伴う党首選の日程を9月2日と約1カ月早めた。英政府はEU離脱に向けた準備作業を担う部署を新設した。

  デフレ再燃につながりかねない円高に直面する政府・日本銀行が単独で円売り介入する可能性については、行天氏はコメントを控えた。ルー米財務長官は27日にCNBCとのインタビューで、英国がEU離脱を選択後も市場では秩序が維持されており、各国が為替介入する必要はないと発言。「単独の」介入は安定を脅かしかねないと続けた。

  行天氏は日米英独仏が米財政・経常赤字の是正を狙って大幅なドル安・円高を演出した85年のプラザ合意時に大蔵省(現財務省)の国際金融局長として、国際通貨体制の改革や安定化に従事。86-89年には通貨外交の実務を取り仕切る財務官を務め、87年10月の株価暴落「ブラックマンデー」などにも対処した。リーマンショック直後の2008年11月の金融サミット(首脳会議)に際しては麻生太郎首相の特使を務めた。

市場は過剰反応

  リーマンショックの引き金になった信用収縮は「皆が安定的に受け入れていた」サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンの資産価値が2007年に突然、消えてしまったのが原因だと、行天氏は指摘。市場は英EU離脱派の勝利にショックを受けて過剰反応しているが、信用収縮は生じていないし、企業や家計のバランスシートが07-08年当時のように崩壊・悪化する証拠は「今のところ全くない」と述べた。

  行天氏は、市場が「自らが作り出した影におびえて」信用収縮が起こるのではないかと思って対応してしまう恐れはあるため、当局は信用収縮を生じさせない方針を強調する必要があると言う。「何か兆しがあれば主要国が十分な流動性を供給する仕組みも整っているし、必要があればご遠慮なく」といった姿勢で市場の不安感を払拭(ふっしょく)すべきだと語った。

  正気を失って「不必要な混乱や不安定さ」に陥っている市場の混乱が米利上げに影響を及ぼす可能性もあると、行天氏は指摘。英EU離脱選択の米経済に対する影響は限定的だろうが、「7月利上げがなくなったのは仕方ない。9月にやるかどうかだ」と述べた。連邦準備制度理事会(FRB)は「年内にもう1回利上げしたいと考えているのではないか」と話した。

  英国民がEU離脱を選んだ背景には、1)英国内部のエリート層と一般庶民、2)EUを牛耳るブリュッセルの政治家や高級官僚と域内各国・国民、3)英国と大陸欧州-という三つの亀裂があったと、行天氏は分析。「英国とEUがどう考えるかが歴史的なイベントとして重要だ」と述べ、「亀裂の深刻さや悪影響の大きさを意識して動き始めれば、むしろ『災い転じて福と成す』となる可能性も決してないとは思わない」と続けた。

  行天氏は、EUの分裂や域内他国への波及は「ない」と予想。市場は過剰反応しているが、「まだ実態がどうなるか分からない。かなり冷静に考えなくてはならない。これから何が起こるか注視しないといけないという一言に尽きる」と語った。

(第7段落と第10段落以降を追加して更新します.)
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