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円高呼ぶ「ブラックスワン」襲来、市場は英EU離脱でドル95円も視野

更新日時
  • 英EU離脱は「ブラックスワン的」と松川氏
  • HSBCやGCIアセットは95円まで円高進行を予想

最近の円高は日銀にとって「まるで悪夢」だ-。独アリアンツの主任経済アドバイザー、モハメド・エラリアン氏がこう表現した当時の円相場は1ドル=106円台だった。それから3週間でここまで円高が加速すると、誰が想像できただろう。

  円は24日に対ドルで99円02銭を付けた。朝方の安値からの上昇幅は8円近くに達し、変動相場制に移行した1973年2月以降で最大を記録した。欧州連合(EU)離脱・残留の是非を問う英国民投票で、最終的には残留派が勝利するという憶測とは反対の出来事が起きていることへの驚きを市場は円高という形で表現した。日銀の黒田東彦総裁が過度な円高とデフレの悪循環から脱却するために2013年4月に異次元緩和を導入した直前の水準まで、あと6円余りに迫った。

"Antifragile: Things That Gain From Disorder" Author Nassim Taleb Interview

「ブラック・スワン」著者のナシーム・タレブ氏

Photographer: Scott Eells/Bloomberg

  通貨オプション市場では、ドルと円の需要格差を映すリスク・リバーサル(1カ月物)が24日に約6年ぶりの水準に低下。円を買う権利の需要が急増している。英銀HSBCホールディングスやGCIアセット・マネジメントは95円までの円高進行、野村証券は当面の上値めどを96円としている。

金融政策道半ば

  パインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長は「予想外の離脱というブラックスワン的なイベントが起こってしまった」と指摘し、相場では年内の米利上げ観測がさらに後退し、日銀の追加緩和をより意識した展開になると予想する。残留を見込んで金利上昇時の押し目買いを狙っていた向きの買いも出てくるため、債券相場は支えられると言う。 

  実際、英EU離脱派の勝利を受けてリスク回避の動きが強まった24日の国債市場では、長期金利の指標となる新発10年物利回りがマイナス0.215%と過去最低を更新。金利の下げ圧力は利回り曲線全体に広がった。「ブラックスワン」を起こした英国のポンドは対ドルで1985年以来の安値を付け、ユーロは99年の導入以降で最大の下落率を記録した。

  エラリアン氏は英国民のEU離脱選択を受けた電話インタビューで、「脆弱(ぜいじゃく)な経済と人為的な金融市場に、突然多大な不透明性が重なった。経済と金融、政治に大きな混乱が生じかねない」と指摘した。三井住友アセットマネジメントの深代潤債券運用グループヘッドは、「国民投票の怖さだ。肌感覚では分からないので、常識の範囲内でみていた。リスク資産から安全な円債に一気に戻っている」と語った。

  戦後最長の5年連続円安を見込んでいた市場関係者は、見直しを余儀なくされている。円は対ドルで昨年6月に125円86銭と13年ぶりの安値を記録。今年初めも120円台で推移していた。しかし、世界的な景気減速懸念や原油安、人民元相場や新興国の動揺、英国民投票結果などのリスクイベントが発生するたびに相場は円買いに走っている。

  ブルームバーグが集計した市場関係者の年末ドル・円レートの予想は112円(中央値)と、年初のころの予想125円から円高方向に傾いている。足元の水準は102円前後となっている。

さらなる円高予想、相次ぐ

  HSBCのデービッド・ブルーム氏らは24日の顧客向けリポートで、英EU離脱の選択を受けた年末時点のポンド・ドル相場を1ポンド=1.20ドル、円・ドル相場を従来の115円から20円円高に予想変更した。GCIAMの岩重竜宏チーフFXストラテジストは、リスク回避の動きから一段と円高が進み、数週間内に「95円程度になっても驚かない」と述べた。

  榊原英資元財務官は英国民投票前に行った先週のインタビューで、離脱派が勝ったら「大惨事になる。欧州の危機、世界経済の危機」になりかねないと述べ、円相場の「100円突破は十分あり得る。ポンドもユーロも相当大きく落ちる」と予想していた。G7の協力が重要になるが、協調介入するかは不透明だとの見方を示していた。

  麻生太郎財務相は24日午後に離脱派の勝利が濃厚になると直ちに記者会見を開き、「必要な時にはしっかりと対応する」と円高進行をけん制しものの、協調介入や足元の為替相場についてはコメントを控えた。黒田総裁も「流動性の供給に万全を期すことを通じ、金融市場の安定確保に努めていく」との声明を発表した。

  野村証の池田雄之輔チーフ為替ストラテジストは、麻生財務相から「ファンダメンタルズを反映していない」「無秩序な動き」といった踏み込んだ発言がなかったと指摘した上で、米当局が同意しなかったとみられ、仮に96円程度まで円高が進んでも介入はないと読む。当面は「100円を中心に、96-104円が基本レンジ」と予想し、介入なしで105円を超える円安は難しい半面、米国の「利下げ」を本格的に織り込むような事態に至らない限り、さらなる一方的な円高も考えにくいとみる。

  主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁は24日夜に電話会談し、市場の不測の混乱に備えて緊密に協議し適切に協力する決意を表明した共同声明を発表。英国民の意思を尊重するとした上で、「市場動向を注視している」と明記。「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再認識する」とともに、「市場の動向と金融の安定を緊密に協議し、適切に協力する」とした。  

新しい均衡点を模索

  G7の共同声明とは別に財務相・日銀総裁が発表した共同談話では、「財務省としては、為替市場の動向をこれまで以上に注視し、必要に応じて対応を行う」とした。浅川雅嗣財務官は25日、財務省と日銀、金融庁の会合後に記者団に対し、「市場は新しい均衡点を探して、いろんな動きがあると思うから、そこのところは注意深く見ていかないといけない」と述べ、週明け27日以降の市場の動きに備えて情報を共有したと説明した。

  マスミューチュアル生命保険運用戦略部の嶋村哲金利統括グループ長は、英EU離脱の選択は「かつての基軸通貨国が凋落に向かう大きな岐路になる。スコットランドの国民投票が再燃する可能性が高いし、英国は普通の国になっていく」と予想。「英国の離脱で大陸欧州がどうなっていくかの方が日本経済への影響は大きい」と指摘した。

  日銀が2%の物価目標を定め、資金供給量を積み増す「量的・質的金融緩和」を導入したのは13年4月。その後の追加緩和やオペ見直しなどで、買い入れる国債の平均残存期間は7-12年程度に長期化し、今年中のグロスベースの購入額は約120兆円に増加する見込みだ。1月末には金融機関の当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用することも決めた。

  それでも、インフレ率はゼロ%前後での低迷が続いている。実質国内総生産(GDP)は異次元緩和後の12四半期で5回マイナス成長に陥った。企業短期経済観測調査(短観、3月調査)では、大企業・製造業が事業計画の前提とする今年度の想定レートは117円46銭。内閣府経済社会総合研究所の調査では、輸出企業の採算レートは103円20銭だ。

  クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、英EU離脱派の勝利は「日本の実体経済への直接的な影響は限定的だろうが、株安による逆資産効果や円高を受けた企業センチメントの悪化から影響が及ぶ可能性がある」と分析。日銀の追加緩和は年度内はないとみていたが、英国民投票の結果を受けて「年度内の可能性が高まった」と考えている。  

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