無人タクシー供給へ、僧侶が目指す「人のため」-ZMP社長(訂正)

訂正済み
  • 「割り切り」で実現する無人運転、幹線道路のみで右折なし
  • 課題は法改正、ロビイストとして政治家に直談判

姫路市内にある薬師如来を祭る寺の住職長男として生まれた谷口恒氏は、小さなころ、「世のため、人のため」という言葉が苦手だった。自分の興味があるもの、自分が楽しめるものが優先で、ある日、家に帰ったら音楽を運んできてくれるロボットがあればいいのに、と考えた。

  谷口氏はそこで、無線LANを使って音楽を再生するロボットを作り、それに自律移動機能を搭載した。車輪の移動距離や内蔵カメラの映像から現在位置を特定し、障害物を避けながらゴロゴロと転がって目的地に向かう。2001年に起業したZMP(東京・文京区)から発売したこの音楽ロボットは、その後、自動運転につながる技術となった。

Hisashi Taniguchi

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  音楽ロボットをきっかけに、自動運転技術開発用のプラットフォームや、センサーシステムを開発し販売することとなったZMPは、15年5月、インターネット事業を手掛けるディー・エヌ・エー(DeNA)と合弁会社を設立した。20年には東京のタクシーが5000台程度不足するという調査があることから、無人運転タクシー(ロボットタクシー)を供給することで補っていきたいと考えている。

  「自動車メーカーはドライバーの安全のために自動運転技術を提供し、僕らは運転ができない人のために技術を提供する」ー。谷口氏は、高齢で運転免許を返納した人や、地方で公共交通機関が使えない子供、障害を持つ人たちを顧客層に挙げ、「その人たちの切実なニーズに応えたい」と語った。「人のため」は苦手だったはずだが、交通不便な実家の寺で、近所のお年寄りと話すうちに「この人たちに技術を届けて初めて充足感が得られる」と思ったという。谷口氏は、修行を経て今は天台宗の僧侶で弟子を持つことができる「阿闍梨」の位を持つ。

  ZMPは、ロボットタクシー実現に向けて今年中にも上場する計画だと、情報が公になっていないことを理由に関係者1人が匿名で明らかにした。アドバンストリサーチジャパンの遠藤功治アナリストは、他にはないビジネスモデルで注目度の高い企業であり、上場による資金の調達規模は2000億ー3000億円になるのではないかと語った。ZMPの広報担当者は、IPOについては「現時点で伝えられることはない」とコメントした。

「実現したいから」

  谷口氏が実現を目指すロボットタクシーは、さまざまな面で「割り切り」がある。一つは、歩道と車道が分かれている幹線道路に限った運行を計画していること。歩行者と自動車が混在する道での認識・判断は非常に難しいが、センターラインや信号機などが決まった位置にあり環境の変化が少ない幹線道路であれば安全な運行を目指せる。

Taniguchi as a monk.

Source: Hisashi Taniguchi

  二つ目は、右折をしないこと。横断歩道を左右から渡る人や対向車など複雑な判断を要求される右折は避け、目的地には左折を複数回繰り返して向かう。こうして実現が難しいものを排除していくと、利用者の自宅に最も近い幹線道路に送迎をする「10メートルごとに停留所があるバスのイメージ」がロボットタクシーとなった。

  谷口氏は、「複雑なことをしないのは、実現させたいから」と語った。できない言い訳を探すといくらでも見つかるが、できることを探そうという理由で、自ら「ロビイスト」の役割も買ってでた。

ロビイスト

  15年5月のロボットタクシー会社立ち上げの後、谷口氏は矢継ぎ早に当時内閣府大臣政務官だった小泉進次郎氏や神奈川県の黒岩祐治知事と面会。10月には内閣府と神奈川県と共同で、一般利用者を乗せて走行する自動運転タクシーの運行実験を行うと発表した。同日、内閣府は国家戦略特区の取り組みとして、完全自動走行(レベル4)に向けたプロジェクトを発表している。

  国内ではそれまでドライバーが危険時に介入できる形での自動走行(レベル3)の普及は20年代前半を見込み、ドライバーが全く介入しないレベル4については20年代後半以後の実現としていた。

  翌11月、政府の「未来投資に向けた官民対話」に出席した谷口氏は、安倍晋三首相が成長戦略の中で「モルモット精神あふれる企業に大きなチャンスを与えたい」と語った言葉を引用し、「私は自動運転において、モルモットになりたい」と訴え、東京五輪・パラリンピックで無人運転タクシーを使えるよう規制緩和を求めた。

ZMP’s autonomous driving technology inside a Toyota Estima.

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  この席で、安倍首相は五輪での無人自動走行による移動サービスなどが可能になるよう、17年までに必要な実証実験を可能とすることを含め、制度やインフラを整備すると答えた

法整備面で課題

  20年の実現に向けて、最も大きな課題となるのは法律や制度の変更が間に合うかという点だ。遠藤アナリストは、政府もスピード感が大事だと理解はしているが警察庁の反対などもあり20年までの環境整備は難しいとみている。事故が起きたときの保険の適用など他業界を巻き込んで調整すべき点も多い。

  遠藤氏はまた、法整備の不透明さからZMPの上場にもブレーキがかかる可能性を指摘した。遠藤氏はZMPの現在の売上げ高を約30億円と予想しており、20年までに1000億円達成というZMPの掲げる目標が現実的かどうかに懐疑的な見方があると述べた。

提携戦略

  ZMPは現在、自動運転技術開発用の車載コンピューターや、センシングや計測に関わる機器販売に加え、新たに物流支援ロボットの取り組みで売り上げを伸ばしている。前を歩く人や物体に追従する機能を持つ「キャリロ」は、工場での運搬業務などで需要が高まっており、またドローン(小型無人機)を使ったビジネスでは、東日本大震災で被災した南三陸町の測量を受注するなど利益貢献が進んでいる。

  事業展開には、JVCケンウッドソニーハーツユナイテッドグループなど他分野での提携をしている。谷口氏は、人的リソースやアセットの利用の面で提携はうまくいっており、今後もいっそう進める方針を示している。その上で、「売り上げも年々上がっており、資金は十分ある」として、新規事業の投資をしながらロボットタクシー実現への道を固めると述べた。

(6月22日送信の記事で、会社側の要請により、タイトルの台数目標と第3段落最終行で20年の台数計画を市場予想に訂正.)
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