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英EU残留でも1ドル=100円突破へ、離脱なら「大惨事」-榊原氏

更新日時
  • 円高基調がしばらく続く、もう120円や125円はない
  • 90円を目指すような展開になれば、米国も介入で合意

どちらが勝っても円相場は1ドル=100円を突破する可能性が高い-。英国の欧州連合(EU)の残留・離脱を問う国民投票の結果による違いは円高進行の速さにすぎない、と榊原英資元財務官はみる。

  青山学院大学教授の榊原氏(75)は20日のインタビューで、「投票日が近づくと、人々は現実的になる。恐らく残留派が勝つ。市場も残留をメーンシナリオとして織り込みつつある」と述べた。「本当に離脱になったら驚きだし、大惨事になる。絶対に離脱してはいけない」と指摘。「英国にとってのデメリットはあまりにも大きい。金融都市としてのロンドンの地位が揺らぐし、英国経由で欧州にアクセスする理由がなくなる」と説明した。

  円の対ドル相場は23日の英国民投票で残留派が勝利しても、「107円や108円には下がり得る」が、日米の金融政策の変化を踏まえると「円安基調への回帰は難しい」と分析。「今は100-105円のレンジにあるが、6カ月から1年以内に100円を突破する可能性が高い」と読む。「どの相場も、いったんトレンドが形成されると速く動く傾向がある。何らかのきっかけがあれば、来月に100円を切っても驚かない」と語った。

  英国民投票に関する世論調査で残留派と離脱派の支持が拮抗(きっこう)する中、主要10通貨のドルに対する年初来の騰落率では、円が約15%高と最大の上昇となっている。16日には103円55銭と2014年8月以来の高値を記録。主な貿易相手国の通貨に対する円の総合的な強弱を示す名目実効為替レートは今月17日、日本銀行が異次元緩和を始める直前に当たる13年3月以来の水準まで上昇した。昨年6月には約8年ぶりの安値を付けていた。

円安効果吹き飛ぶ

  円相場は昨年6月に125円86銭と13年ぶりの安値を付け、今年は120円台で取引を開始。市場関係者は戦後最長となる5年連続の円安を予想していたが、世界的な景気減速懸念、原油安による人民元相場や新興国の動揺、米大統領選や英国民投票をめぐる不透明感などを背景に円高が進んできた。榊原氏は118円前後で推移していた1月、取引レンジが110-115円へ移ると予想。3月には105-110円に、4月にも100-105円にシフトするとの見方を示した。

INDIA-ECONOMY-IMF

Eisuke Sakakibara

Photographer:Prakash Signh/AFP via Getty Images

  榊原氏は、英国民投票で仮にEU離脱派が勝った場合には「市場の反応は予想し難い。ポンドもユーロも相当大きく落ちる」と予想。「主要7カ国(G7)の協力が重要になるが、協調介入するかは不透明だ。通貨の暴落時に効くかどうか分からない」とみる。域内各国政府の対応も読みにくく、「欧州の危機、世界経済の危機」になりかねないと懸念を示した。

  「円相場の100円突破は十分あり得る。為替介入は相手国が合意しないとできないので、政府は米通貨当局と本格的な話し合いを始める」と、榊原氏は予想。「今のドル安は米経済にマイナスではないため、米大統領選の前は介入しにくい」とする一方、「相当急速に円高・ドル安が進んで90円を目指すような展開になれば、米国も過度なドル安に危機感を持ち、合意するだろう」と読む。

市場は円高に備え

  通貨を売買する権利を取引するオプション市場では、ドルと円の需要格差を映すリスクリバーサル(3カ月物)が16日に一時マイナス2.965%と、超円高だった10年6月以来の水準に低下。円を買う権利の需要が円売りを上回る。米商品先物取引委員会(CFTC)の統計では、ヘッジファンドや大口投機家による円の買越幅が14日時点で5万5690枚に増加し、約1カ月ぶりの高水準となった。

  今月に入り円高が一段と加速する中、日本政府要人によるけん制発言が相次いでいる。麻生太郎財務相は17日の記者会見で、「一方に偏ったかつ急激な投機的な動きが見られている」「極めて憂慮している」と懸念を表明。菅義偉官房長官も前日に、為替市場で急激で投機的な動きが見られていると指摘し、必要な時にはしっかり対応したいと述べた。

  榊原氏は、当局者によるけん制発言が多過ぎると言う。「実施してから口先介入すれば『またやるかもしれない』と効果的だが、やらないで、発言ばかりだと市場に見透かされて効かない」と説明。自身の現役時代は多くの介入実績があったので、口先介入も効いたと語った。

  榊原氏は1995年4月に円相場が当時の戦後最高値79円75銭を付けた後、大蔵省(現財務省)の国際金融局長に就任した。米欧との協調介入、米利上げや日銀の利下げなどで、同年9月には100円の大台を回復。アジア経済危機が発生した97年7月からは財務官を務め、日本経済が金融危機に苦しむ中で巨額の円買い介入も実施した。

  財務省の為替介入実績によると、政府・日銀は円相場が75円35銭と戦後最高値を更新した2011年10月31日に過去最大となる8兆722億円の円売り・ドル買い介入を実施。翌月4日まで続けた後、足元まで介入を行っていない。米財務省は4月末に公表した外国為替報告書で、日中独などは不公正な為替政策の可能性がある三基準の二つに抵触すると指摘した。

  榊原氏は「世界経済の流れを考慮すると、もう120円や125円はあり得ない。円高基調はしばらく続く」と予想。米利上げ観測の後退と日本銀行の黒田東彦総裁が導入した「金融緩和の効果が徐々に薄れてきている」ためだ。米利上げは「今年は1回、多くても2回」だが、もし米経済が失速すれば1回だけで打ち止めもあり得ると分析。日銀が指数連動型上場投資信託(ETF)の増額など積極的な追加緩和を実施しても「円高が多少止まる」程度だとみる。

日銀は流動性供給か

  英EU離脱派が勝利した場合、世界経済に打撃となるため、日銀の緊急会合もあり得ると、榊原氏は分析。ただ、流動性供給などの非常時対応に重点を置き、積極的な追加緩和は残留・離脱のいずれの場合でも、「政府の今年度補正予算と平仄(ひょうそく)を合わせて秋以降、年末にかけて」実施すると読む。

  2%の物価目標を掲げる日銀は、13年4月に導入した国債買い入れなどでマネタリーベースを積み増す量的・質的金融緩和に加え、今年2月からはマイナス金利政策も併用している。しかし、消費者物価の押し上げには至っておらず、当初2年程度としていた目標達成時期は先延ばしが続き、現在では「17年度中」となっている。

  日銀の企業短期経済観測調査(短観、3月調査)では、大企業・製造業が事業計画の前提とする今年度の想定レートは117円46銭。内閣府経済社会総合研究所の調査では、輸出企業の採算レートは103円20銭だ。

  SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストと渡辺浩志シニアエコノミストは、円高が1円進むと上場企業・製造業の経常利益は2463億円減少すると試算。年間を通して100円になった場合、16年度は2兆4615億円減り、現時点の見通しである0.7%増益から12.2%の大幅な減益に陥ると言う。

  榊原氏は、円相場の上値余地は「日米の当局者がどういう対応を取るかによる」と指摘。「何もしなければ、円高・ドル安が続くだろう。米国とどういう合意ができるかだ」と語った。

(2つ目の中見出し以降を追加して更新します.)
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