「日本では靴を脱がないと上がれない」。運用会社スパークス・グループの阿部修平社長による対話型アクティビスト(物言う株主)ファンドの基本だ。投資先企業に土足で踏み込まず、信頼関係を重視し成長に向け話し合う。総会シーズンを控えた今、内部留保を吐き出させ「利益が出ただけですぐに売却しようと思っているならアクティビストと名乗らない方がいい」と主張する。

  安倍晋三政権の成長戦略の一環として、株主権利の向上を目指すコーポレートガバナンス・コードが導入されてから1年。物言う株主の影響力が増しつつある中、長期的成長を犠牲にしてまで短期的利益を追求するようになれば、行き過ぎだと懸念する声も出てきた。

アクティビストのあり方が問われている
アクティビストのあり方が問われている
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  大和総研の集計によると、昨年以降これまでに日本のほか、米国や英国、香港など海外を含め延べ13のアクティビストが投資先の日本企業に対し、増配や自社株買い、不振事業の分離・売却を要求したり、株主提案したりしている。ブルームバーグのデータによると2016年3月期の東証1部上場企業の配当総額と自己株式取得額を合わせた株主還元は15兆4700億円と前年度比で23%増加した。

  阿部氏は、「投資家には還元すべきだが、規律をもってやるべきだ。長期的に株主資本利益率(ROE)が上がる経営をしてもらうことが必要」と述べ、成長あっての株主還元と話す。本来のアクティビストのあるべき姿は「企業に敬意を払って長期のパートナーとなって経営陣と意思疎通を図る腹づもりがある投資家」と言う。

  青山学院大学大学院の北川哲雄教授は、企業が「中長期でどういう投資をするか経営戦略を明確にした上でキャッシュフローの状況をみて配当を増やすというのは分かる」とする半面、「単に投資家の歓心を買うために行動するとしたら全く見当違いだ」と指摘する。そうした例として、株主から圧力があるからという理由だけで増配したり、配当原資確保のためだけに借金するケースまであることを挙げ、成長のため資金を設備投資や買収などに回し配当を抑えることがあってもいいという。

短期志向

  米国では、デジタルカメラの誕生で写真フィルムの先細りに直面したイーストマン・コダックが、内部留保を生き残りのための事業多角化に充てるのではなく、株主の圧力から行き過ぎた還元策を実施。一時、経営破たんに追い込まれている。

  年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が4月に公表した、JPX日経インデックス400の構成企業を対象にしたアンケート結果では、企業が機関投資家に期待するのは「中長期的な視点」(回答者の61.5%)や「より深い企業理解」(36.1%)などが多い。GPIFは、投資家の短期志向が企業のイノベーション投資を妨げ、中長期的な競争力を阻害することなどを懸念している。

投資まで5年待つ

  阿部氏の運用するスパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンドの投資対象は経営者が優秀で、収益性が高いか、高くなり得る事業をやっている企業だ。株価が十分割安かどうかも決め手になる。この1年間の運用結果はマイナス0.53%(5月末時点)で、TOPIX(東証株価指数)のマイナス17.6%を大きく上回っている。

  同様に対話型を目指している、あすかコーポレートアドバイザリーの田中喜博取締役は「企業を変えようとするのは思い上がり。われわれは変化を強制しない。企業が自ら変化していく」と話す。同社が助言するファンドでは、経営者と対話を重ね、同じ方向を向いて中長期的に企業価値向上を目指すと確信できた後に投資する。

  5年間注目し続けた末に昨年投資を開始した施設介護サービス会社のケースでは、投資準備にスライド200枚分の分析資料を作成し、計400時間を費やした。経営陣は、「費やした時間と愛の深さを感じて考えが変わってくる」と田中氏は話す。

  これに対し、大和総研・金融調査部の鈴木裕氏は、「長期か短期かの問題は永遠のテーマ。短期が積み上がって長期。短期の利益が果たして長期の利益を損なっているかというと疑問なところがある」と指摘する。海外では、アクティビストの行動が少なくとも5-6年は企業価値を上げているとの研究もあると言う。

権利行使より対話

  日本の会社法では、株主総会決議が最高の決定権限機関で、過半数の決議により取締役を解任でき、株主提案は決議されれば米国と違い法的拘束力がある。ブラックロック・ジャパンのインベストメント・スチュワードシップ・チームの江良明嗣氏は、日本の株主の権利は「世界最強といっても過言ではない」と指摘する。

  しかし、解消が進みつつあるとはいえ、株式持ち合いは残り、争いを好まない日本人気質がある。取締役解任などの株主権利を行使する意識は高くなく、江良氏は「権利は強いが実態は弱いというのが今までの経緯」と説明する。スパークスの阿部氏は、「本当に良い会社は訴訟なんてしなくても、しっかり対話すれば理解していただける」と言う。

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