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8年連続勝利への切り札はデリバティブ、マイナス金利と闘う津本氏

更新日時
  • マイナス金利政策の下でも、収益機会はなお十分にある
  • 金利スワップやCDSの機動的な活用が有効

7年連続で代表的な債券指標の「野村BPI」を上回る収益を稼いだファンドマネジャー。マニュライフ・アセット・マネジメントの津本啓介取締役債券運用部長は、利回りが高めの社債やデリバティブ(金融派生商品)の活用で今年度も勝てると踏んでいる。

  カナダ最大手の生命保険会社の日本部門、マニュライフAMで「日本債券ストラテジック・アクティブ」などを運用する津本氏は、電力債や金融債を選好している。15日までのインタビューでは、国債や社債の割安・割高に着目した取引からの収益を増やすため、金利スワップやクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の機動的な活用が有効だとも述べた。

  津本氏は「マイナス金利政策の下でも、収益機会は十分にある」とし、「チャンスを実際の収益に結び付けるには、現物債の取引に加え、投資対象の拡大と機動的な活用が重要だ」と指摘。自らが運用責任者を務める円債ファンドでは、今年も年初来と年度初め以降の両方で、プラスの超過収益を出していると言う。

野村BPIの推移

  日本銀行の異次元緩和とマイナス金利政策を受け、国債利回りは発行残高の約8割に当たる残存15年程度までゼロ%を下回っている。高格付け社債は利回りが事実上の下限とされるゼロ%近くに低迷。日銀はこの日開く会合で、当面の金融政策方針を決める。ブルームバーグが先週実施したエコノミスト調査では40人中33人が来月までの追加緩和を予想した。

  ファンドの成績を評価する際、運用者の技量で市場平均を超えることができた収益を表す指数がアルファ。一方、ベータは市場にどれだけ追随、または連動しているかを示す。

  13日の講演で津本氏は、アクティブマネジャーは超過収益を生み出す「アルファの源泉を多様化するとともに、見つけたアルファを収益に結びつけられる確率を上げる」必要があると指摘。「野球に例えると、打席に多く立つことと、打率を上げることに当たる」と説明した。

  マニュライフAMが手掛ける円債ファンド「ストラテジック・アクティブ」の昨年度の収益率は5.62%と2006年の設定以来で最高を記録。運用報酬控除前の超過収益は0.21%ポイントだった。津本氏が同社に加入した09年度から運用指標を上回り続け、直近5年間の平均は年率0.74%ポイントとなっている。11-14年度はクレジット要因の貢献度が大きかったが、昨年度は金利要因が超過収益を生み出した。

  一方、債券運用で代表的な指標となっている野村BPI(円債・総合)は昨年度に5.4%上昇。足元は、マイナス金利政策の導入などの影響で、年初来5.67%、今年度初め以降では1.80%上昇となっている。

  国債利回りは、英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票に備える世界的なリスク回避の流れや追加緩和観測などを背景に一段と低下。この日は、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りがマイナス0.21%、新発5年債がマイナス0.305%、20年債が0.095%、30年債が0.15%と、いずれも過去最低を更新した。

  津本氏は、債券市場は日銀の追加緩和を織り込んでは肩すかしを食らう展開を何度か繰り返す中で、金利がさらに下がる可能性もあると指摘。「マイナス金利の債券を今すぐ売却する必要はない。それなりにベータに期待して良い」とみている。 

スプレッドの拡大

  債券市場では、異次元緩和政策下にもかかわらず、国債と高格付け社債の利回りスプレッドが拡大する珍現象が発生している。金融機関の取引が中心の国債利回りはマイナス化が超長期ゾーンにまで拡大している半面、社債利回りはゼロ%割れを前に下げ渋っているためだ。

  津本氏はスプレッドの拡大で「同年限の国債利回りと比べたキャリーはそれなりに高い」と指摘。ただ、価格形成機能の不全でもあり、「銘柄選択でアルファを生み出す余地は低下している」と言う。

  トヨタ自動車の金融子会社であるトヨタファイナンスは7日、3年債を200億円発行。表面利率は0.001%と国内民間企業の普通社債で過去最低だったものの、同年限の国債利回りを20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上回った。同社が昨年4月に5年債を300億円発行した際には表面利率は0.171%だったが、スプレッドは9bpに過ぎなかった。

  大和証券の大橋俊安チーフクレジットアナリストは、こうした現象について、「根本的な原因は日銀にある。金利やクレジットの市場を壊してしまった」と指摘。利回りを確保するには「どんなものにでも投資しないといけない」が、20年物や30年物の社債は将来的な価格下落があり得ないとは言えないとし、「保有年限はできるだけ短くしておき、クレジットリスクで利回りを稼ぐような」投資対象が望ましいと述べた。

  過去に例を見ない低金利環境が長期化する中、津本氏は、超過収益の源泉として国債や社債に関するデリバティブ取引に注目している。今週の講演では「デリバティブには慎重な投資家も多いが、投資対象を分散する『打席数』増と、ポートフォリオ構築の柔軟性が高まる『打率』上昇の効果が期待出来る」と訴えた。

  例えば、残存5年ゾーンが割高だとした場合、現物債だけでアンダーウエートすると野村BPIの構成比である5%程度が限度。だが、デリバティブを使えば「運用ガイドライン次第だが10-20%でも、確度が高いと思う戦略を効率的に取れる」と津本氏は言う。社債のCDSなら「利回りのゼロフロアがないし、ショートポジションも構築可能だ。買い推奨の銘柄をロング、売り推奨をショートにして収益を狙うことができる」と説明した。

GPIFからも受託

  マニュライフAMの円債アクティブ・ファンドは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が12年10月に実施した国内債運用の委託先見直しで採用された。昨年3月末の時価総額は4307億円。国内債アクティブの分野には3メガバンク直系の信託銀行や世界的な債券ファンドである米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)、米保険会社2位のプルデンシャル・ファイナンシャルの日本部門などがひしめいている。

  GPIFがこれら9社に委託した国内債アクティブ運用の収益率は14年度に3.10%と、運用指標を0.11%ポイント上回った。マニュライフAMがGPIFから受託した資産を運用する「日本債券アクティブ・コア」は「ストラテジック・アクティブ」より保守的に運用しており、代表的な顧客口座の収益率は同年度に3.08%だった。

  大和証の大橋氏は、日本企業の信用力について「そう大きく心配はしていない」と言う。円高や経済の停滞が長期化すれば企業業績の下押し圧力になり得るが「バランスシートを保守的にしっかり管理しているので、クレジットリスクが大きく顕在化するとは考えていない」とし、投資対象とする「格付けは下のほうへ広げていっても良いのではないか」と語った。

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