金融政策に悩む黒田総裁に新たな頭痛の種、国内最大銀のPD返上で

更新日時
  • 三菱UFJ銀が政策決定会合を前に国債特別参加者の資格返上を検討
  • 日銀内部ではPD返上問題で意見分かれる、市場では銀行界の声とも

円高傾向や物価停滞など難問が続く中、日本銀行の黒田東彦総裁に悩みの種がまた一つ増えることになった。日本最大の三菱東京UFJ銀行による国債市場特別参加者(プライマリーディーラー、PD)資格の返上検討だ。

  三菱東京UFJ銀行は日銀によるマイナス金利政策の導入以降、銀行収益や経済への影響に懸念を表明してきたが、マイナス金利で国債保有に損失が出かねないことなどから資格返上の検討に踏み切った。15日から始まる金融政策決定会合を前に、PD資格の返上検討はその1週間前の8日に伝わり、国債市場を混乱させた。

  日銀が掲げる2%の物価上昇は達成が遅れ、輸出企業の業績を左右する外国為替相場は円がドルに対して21カ月ぶりの高値水準にある。黒田総裁にプレッシャーがかかる中、今回の会合でマイナス金利幅を現在の0.1%からさらに拡大する可能性があると予想するエコノミストもいるが、それはさらに銀行収益の圧迫材料になる。

黒田東彦・日本銀行総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  BNPパリバ証券の白石洋シニアエコノミストは、三菱東京UFJ銀のPD資格返上について「日銀の政策のコストがメリットを本当に上回るのか懸念が増幅している」として「今回の件はデフレ脱却に向けての政府、日銀、民間での連携がほころび始めていることを示唆する」と述べた。

  15日の国債市場では長期金利が過去最低を更新。指標となる新発10年物国債の343回債利回りは一時マイナス0.19%まで下げた。一方、外国為替市場では年初来で円がドルに対して約12%上昇。株式市場ではTOPIX銀行株指数が同約34%下落している。

銀行界の声との見方も

  複数の関係者への取材によると、日銀内部では、三菱東京UFJ銀によるPD資格の返上が金融政策へ及ぼす影響について、見方が分かれている。

  日銀のマイナス金利導入や長期国債の大量買い入れなど金融政策運営に影響はなく、むしろ国債市場からの退出で銀行の余資が貸し出しやリスク資産に回ればかえってデフレ脱却に好都合、といった見方がある一方で、日銀の緩和政策に対する批判を強めかねないと懸念する声も一部で上がっている。

  クレディ・スイス証券の三浦毅司アナリストは「日本で一番大きい民間銀行がPD資格の返上に動くことは、市場では銀行界の声と捉えられている」と指摘。その上で今回の動きは「マイナス金利やマイナス幅の深掘りをけん制する意思表示の一つで、象徴的な動きと言える」という。

  エコノミスト40人を対象に6-10日に実施した調査で、日銀が15、16日の会合で追加緩和を行うとの予想は11人(28%)と少数派にとどまり、次回7月28、29日会合が22人(55%)と最も多かった。6、7月を合わせると33人(83%)と圧倒的多数を占めた。

平野発言の意図は

  三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の平野信行社長は4月の都内での講演で、マイナス金利政策は銀行にとって「短期的効果は明らかにネガティブだ」と指摘。「個人も企業も政策効果に懐疑的になっており、将来に対する不確実性が増すにつれて支出や投資計画を凍結している」と述べた。

  クレディSの三浦氏は、傘下の三菱東京UFJ銀がPD資格返上を検討するに至ったMUFGの平野社長の発言などについて「明確に反対とまで言っていないが、公式な場での発言としては画期的なこと」と評価する。政府や当局などの指示通りに動くのではなく、「経営者としてきちんと考えを発信していくことは重要なこと」とみている。

  安倍晋三首相と長年にわたってパイプを持つ元日本銀行審議委員の中原伸之氏は10日のインタビューで「これだけ大きな問題にしたのは不幸だ。金融政策に限界があるとか、日銀が今やっていることは財政ファイナンスだと批判する人たちにとって、ほれ見ろ、三菱がそう言っているではないかと、絶好の支援材料を与えてしまった」と懸念を示した。

(第5段落に国債、外為、株式市場の動きを追加しました.)
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