日本国債が買えなくなる日、リアルマネーの限界はこうして決まる

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  • 「もうそろそろ限界に来ている」、と三菱UFJ国際投信
  • 10年債と20年債の利回りは過去最低を記録

長期運用が主流の投資家の資金を「リアルマネー」と呼ぶ。日本銀行のマイナス金利政策の下でリアルマネーは利回りがプラスの超長期国債へ流れていたが、ついに理論的に正当化できる限界が迫ってきているようだ。

  三菱UFJ国際投信の債券運用部の樋口達也チーフファンドマネジャーによると、20年物の国債は超長期ゾーンの中でも円滑な取引に必要な流動性の高い債券。10年先10年物のインプライド・フォワード金利で検証すると、20年物の利回りは「投資するか否かで悩むぎりぎりの水準まで下がっている」ため、日銀の追加利下げがない限り同国債を「さらに買い進めるのは難しい」と言う。

  こうした考え方の背景には、長めの金利は、将来の短めの金利の期待値で決まるという「純粋期待仮説」がある。例えば、20年物利回りは、足元の10年物利回りと市場が予想する10年後の10年物利回りであるフォーワード金利で構成されるという理論だ。債券運用で、マイナスの利回りを10年間我慢した後の10年債利回りが過去の平均より著しく低ければ、投資家は買い増しの見送りや売却に動く可能性がある。

  樋口氏は9日までのインタビューで、「20年債を買うのは10年債と10年先10年物のフォワード金利に投資するのと同じだ。これまでは同金利の部分に魅力があったため、20年債はマイナス利回りの10年債よりはましだった」と指摘。しかし、「リアルマネーにとっては、フォワード金利が0.5%台まで下がると、もうそろそろ限界に来ているのではないか」と述べた。

  20年物の国債利回りはこの日に0.17%と過去最低を更新し、1年前の1%台から7分1近い水準。10年物利回りは0.5%台からマイナス0.165%へと歴史的な低水準をさらに深め、10年先10年物のフォワード金利を2%台から0.5%台に引き下げる要因となっている。

  樋口氏によれば、このフォワード金利と実際の現物債利回りを比較することで、長期運用を行う投資家は、20年債への投資判断に役立てることができる。0.5%台のフォワード金利は「今後20年間の運用成績をいま固定する必要がないほどの低さだ」と言う。

  実際、10年物の国債利回りは量的緩和も含めた広義のゼロ金利政策が日本で定着した2000年ごろから現在までの平均が1.17%。リーマンショックの08年9月以降に限っても0.845%で、足元のフォワード金利は10年物と5年物のそれぞれの平均利回りの中間点付近まで低下している。

少し売却、収益鈍化

  20年物利回りの一段低下は、日銀がオペで買い入れる国債の平均残存年限を長期化した昨年12月から顕著になっている。金融機関の日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の金利適用が決まってからは、金利の下げ圧力が利回り曲線全体へと広がり、マイナス利回りの国債は発行残高の約8割に当たる残存14年程度まで広がっている。年金基金や生命保険会社など長期運用が中心の投資家の資金は利回りがプラスの超長期債に集中している。

  樋口氏は運用資産が13兆円に迫る三菱UFJ国際投信で、国内2位の債券ファンド「グローバル・ソブリン・オープン」の運用責任者を務める。3月のインタビューでは、利回りが当時0.3%程度で残存20年前後の国債は「リスクとリターンが一番見合っており、収益を上げられる可能性がある」と説明していた。しかし、先週7日には利回りが「いいところまで」下がった20年債を「少し」売却した。

  ブルームバーグの指数によれば、残存期間が20年以上の日本国債は年初来の収益率が20%を超え、利上げ局面にある米国債の12%台や、マイナス金利政策で先行するユーロ圏のドイツ国債の18%台をも上回っている。ただ、先月初めからの比較だと2%にも満たず、米国債や独国債の半分以下にとどまっている。

  SMBC日興証券の森田長太郎チーフ金利ストラテジストは10日付のリポートで、10年先10年物のフォワード金利は昨年末より110ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低いと指摘。本来は需給に左右されにくく、長期的なファンダメンタルズを映す均衡金利であるはずだが、もはやほとんど反映していないと言う。原因は巨額の国債を買い入れる異次元緩和とマイナス金利政策の枠組みそのものだと分析している。

  日銀は2%の物価目標を達成するため、国債保有増を年80兆円、買い入れの平均残存期間を7-12年程度とするオペを実施している。今年の残高目標の達成に必要な購入額は約120兆円と、政府の利付国債の今年度市中発行額122兆円にほぼ匹敵する規模だ。

  樋口氏は、銀行収益の押し下げ要因となるマイナス金利政策の「評判はまだ悪い。さらに深くするのは難しい。どう追加緩和するか、現実的には決め手に欠ける」と読む。円相場が「今くらいの水準なら大丈夫」だが、数年前に経験したような円高になった場合には、企業収益や税収が減り、株価も下がるなど、日本経済にとって良くないと指摘。「日銀は経済を支える必要が出てくる」とみる。

バブルではない

  計算上の10年先10年物のフォワード金利は、20年物の利回りが上がらなくても、10年物の利回りがさらに下がれば上昇する。樋口氏は「手前の金利が下がるか、後ろが上がれば、利幅が出て買える」と言う。

  国債等発行残高の約3分の1は、売却に転じる恐れが当面ない日銀が保有している。この割合は異次元緩和が続く限り、今後も上昇していく見通しだ。国債市場は「まだバブルではない。最大の買い手は日銀だ」と樋口氏は指摘する。しかも、景気・物価見通しが「5-10年を見渡しても」あまり強くなるとは考えにくく、投資家にとっては「バブルか否かによらず、どう稼げるかが問題だ」と話した。

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