企業買収は「花嫁の父」の立場で、経験重ねた手法-ブリヂストン社長

  • 米ペップボーイズめぐる買収合戦、引き際を市場好感
  • 買収は結婚、熱い思いは必要、追いかけ過ぎは禁物-津谷社長

昨年暮れ、ブリヂストンの津谷正明最高経営責任者(CEO)は、1ドル単位で提示価格を引き上げる激しい買収合戦からの撤退を発表した。最終決定に際して経営陣に異論はなく、買収断念の発表は取締役会すら開かず速やかだった。

  買収劇が始まったのは昨年12月。ブリヂストンと1株当たり15ドルで買収に合意していた自動車部品小売会社の米ペップ・ボーイズに対し、資産家のカール・アイカーン氏が1株15.5ドルでの買収案を提示した。津谷氏は、この知らせを携帯端末に入った米国子会社トップからのメールで受け、「ああ、そうか」とつぶやいた。アクティビストでもあるアイカーン氏がペップ・ボーイズ株12.1%を保有していることは把握しており、「こういう事態があり得る」と想定していた。

  「買収の成功は、無事に買うことでなく戦略的に正しいかどうかだ」ー。津谷氏は、戦略には買収価格や買収後の事業統合の方法が含まれており、ペップ・ボーイズのケースでは米国内の販売網の弱い地域を補完する方法として、5年以上も前から議論してきたとインタビューで語った。

  その上で、合併・買収(M&A)を結婚に例え、「この人じゃなきゃという熱い思いがなければ踏み出せないが、熱くなり過ぎるといけない」と述べた。大柄で朗らかな語り口の津谷氏は、自身の結婚生活は極めて順調だと前置きした上で、それでも、「競争相手が出ると追いかけ過ぎてしまうのが人間の常」であり、買収が絡むビジネスでは熱くなり過ぎないことが鍵だと語った。

  アイカーン氏の買収提案の4日後、ブリヂストンは買収価格を1株当たり50セント引き上げたが、その3日後にはアイカーン氏が16.5ドルを提示。幾度かの応酬を経た昨年12月28日、アイカーン氏が18.5ドルを提示すると、ブリヂストンは翌日、「追加提案はしない」と発表した。

  ペップ・ボーイズは米国30州余りに約800店舗を展開しており、ブリヂストンは米国で販売網の強化を目指している。ブリヂストンの米国子会社は現在約2200店舗の直営店を持つ。

第2の創業を経験

  津谷氏は1976年に入社以来、国際渉外に関わる仕事を長くしてきており、88年に米ファイアストンを買収したときは、課長になる前の若手として提携チームに参加した。当初、ブリヂストンは米国への本格進出を目指してファイアストンとの合弁会社設立を目指したが、突然タイヤメーカーの伊ピレリが1株58ドルの公開買付を発表して事態が急変。ピレリの発表から1週間後、ブリヂストンの取締役会は対抗オファー実施を決定し、1株80ドルで応えることとなった。

  この経緯をつぶさに見ていたという津谷氏は「今思えば、知見がなかった」と振り返った。合弁事業で米国進出を本格化させるという戦略は間違ってなかったが、第三者が買収合戦に入ってきて「一発で決めたい」という思いが生じたという。当時の家入昭社長は「ファイアストンをピレリに取られたら永久にチャンスを失うと考え時間を買った」と後に述べている。

  ファイアストンの買収をブリヂストンは「第2の創業」と位置づけ事業の融合に取り組んだが、買収前には把握できていなかった事業環境の悪さなどから、あらめて3年間で15億ドルを投資する結果となった。

花嫁の父

  こうした経験を経て、津谷氏はM&Aに対する姿勢を「花嫁の父の立場」と位置付けた。経営者は企業買収に取り組む実動部隊をできるだけ冷静に観察し、「本当にその選択は正しいのか」と問いただし続けるべきだという。今回の買収では、日米とも各10人程度がチームとなり端末上で常時情報を共有していたが、事業性の見極めを優先し、買収価格に一定の上限を設けていた。

  ゴールドマンサックス証券の湯澤康太アナリストは、ブリヂストンの対応について、綿密な準備の上で進められたディールだったと評価した上で、津谷氏がファイアストン買収を経験していたことから妥当な価格をしっかり押さえていたのだろうと述べた。

  ブリヂストンは世界最大の市場シェアを持つタイヤメーカーで、150カ国以上で事業を展開している。市場別売上げ高は米州が約51%で最大。16年度の営業利益目標は前年度比微増の5200億円、13.9%の利益率を目指している。

何年かに1度はM&Aを

  津谷氏は企業買収を「グローバル化の中では、もはや普通のビジネス手法」として今後も積極的に取り組む姿勢を示している。今回得られなかった米国販売網の拡大は、直接投資などで対応していくほか、「新たにペップ・ボーイズが市場に出たらあらためて検討する」と述べた。また、戦略的なM&Aを展開するには、「何年かに1度、大きなM&Aをやっていないとだめだ」とし、傾向や交渉手法を学び続ける必要があると語った。

  欧州については5月30日、新たにフランスで自動車整備やタイヤ販売を手掛けるスピーディ・フランスを買収すると発表。事業拡大に弾みをつけた。ムーディーズは6日付のリポートで、この買収によりブリヂストンはフランスでの販売網を現在の300から800に増やし、ブランド認知度も高まるだろうとの見解を示し、「クレジット・ポジティブ」とした。

融合によるグローバル化

   世界各国でM&Aを機動的に展開してきたブリヂストンだが、15年10月に発表した中期経営計画ではあらためて「グローバル化」を重点に推進している。米国で知名度の高いファイアストンとブリヂストンそれぞれのブランドの生かし方や、人材の育成、企業統治(ガバナンス)体制の構築に取り組むことで買収を経て大きくなった企業の融合を図る。

  1988年、ファイアストンの買収を手掛けた当時の家入社長は「それぞれの企業体質や主体性、文化を尊重し、最終的には結合から融合に至ることが大事だ」と語った。この中計でブリヂストン流のM&Aの仕上げを追求していくことになる。

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