円高は序の口、「リスクオンと言ってる場合でなくなる」と三菱UFJ銀

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  • 円は年初来、対ドルでの上昇率が主要10通貨中で最大
  • Brexitめぐる英国民投票や米大統領選への懸念で円選好も

年初から続く円高傾向に終わりが見えない。頼みの綱だった米国の利上げ再開の見通しが立たなくなっているからだ。英国の欧州連合(EU)離脱「Brexit」をめぐる国民投票や米国の大統領選の行方に対する不安も、円の選好につながっている。

  主要10通貨のドルに対する騰落率では、円は年初来12%高と最大の上昇となっている。ドル・円相場は5月に1ドル=105円55銭と約1年半ぶりの円高値を付けた後、米早期利上げ観測の高まりを背景に同月末にかけて111円台を回復。しかし、Brexit懸念が再燃したのに続き、米雇用の急減速で利上げ期待がしぼみ、先週には106円台まで円高が進んだ。

  三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの内田稔チーフアナリストは、5月の米雇用統計の失速は成熟期に達した米経済の勢いが次第に鈍っていく兆候と疑うべきで、先延ばしすれば利上げの環境が整うというよりも、時間がたつほどに利上げが困難になる可能性は高いと言う。米景気のピークアウトで世界景気警戒が強まれば、「利上げが遠のくのでリスクオンと言っている場合ではなくなってくる」と指摘。折からの日本の実質金利高止まりや経常黒字という円高圧力がある中で、ドル・円は年末までに1ドル=100円を試しにいくと予想する。

  オプション需給の傾きを示すリスクリバーサル率は5月末以降、円高警戒の強さを示唆するマイナス幅が拡大に転じている。ブルームバーグの為替レート予想モデルによると、ドル・円が年末までに100円ちょうどを付ける確率は46%。昨年末時点は6%だった。

  EU離脱の是非を問う英国民投票まで2週間を切ったが、世論調査では残留派と離脱派が拮抗(きっこう)。米国では当初泡沫(ほうまつ)候補とみられていたドナルド・トランプ氏の共和党大統領候補指名が確実となり、世論調査では民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官と互角の支持率を得ている。

  内田氏は、英国民投票も米大統領選も「相応に警戒しておくべきイベント」で、単純にリスク回避で円高という以上に「根が深い材料」とみる。その根底にある内向き志向、保護主義の帰結するところは世界的な交易量の減少、通貨でいえば自国通貨安志向の強まりであり、「ひと足先に通貨安に持っていって、今円高に向かいつつある日本にとっては不利な展開」と指摘。世界貿易の低迷は外需を通じて日本経済にマイナスの影響を与えるため、期待インフレを下げて実質金利を上げる方向に作用するという波及経路で円高になると言う。

Japanese yen banknotes of various denominations

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  三菱UFJフィナンシャル・グループは、ブルームバーグが集計した昨年のドル・円予想ランキングで日本の金融機関のトップだった。10日のドル・円相場は107円を挟んで推移している。

先高観が先高呼ぶ展開

  しんきんアセットマネジメントの加藤純ポートフォリオマネージャーは、「全体的な諸要因がみんな円高に向いているように思える」とし、ドル・円はここから上昇するよりも下落する可能性の方が高いとみる。「経常黒字が増えたからといっても全部が円転されないという論理もあるが、これだけ円高の要因が集まり、これから円が高くなるかもしれないと思えば、当然先に円転を多めにした方がいいという動きが出てくるはず」と指摘。「先高観が先高を呼ぶという動きも想定できる」と言う。

  モノやサービスを含む海外との総合的な取引を示す日本の経常収支は、4月は1兆8785億円のプラスだった。黒字は22カ月連続となる。

  日本銀行の異次元緩和などを背景に2012年末から大幅な円安が進んできたが、中国景気懸念や原油安といったリスクオフ要因で昨年末以降、円高が加速。1月末に日本銀行が突然導入を発表したマイナス金利政策も、円高に歯止めを掛けるには至らなかった。こうした中、ストラテジストからはドル・円相場の見通し修正が相次ぎ、ブルームバーグ調査の年末予想中央値は昨年末時点の125円から114円まで下がっている。

  三井住友銀行市場営業統括部副部長でヘッド・オブ・リサーチの山口曜一郎氏は、米国で緩やかな正常化への道が年終盤にかけて可能となれば、ドル・円は115円へ上昇できるが、金融市場全体がリスクオフに動く場合には、円は買わざるを得ないと指摘する。

  山口氏は、「欧米投資家のマインドとして日本はファーイースト。距離が遠くて、成長でなくて政治・経済状態が安定している国はどこかというと日本だ。かつ日本は一応経常黒字国、対外債権国であるので、イベントショック、リスクオフのときに円が買われてしまう」と語る。

  ブルームバーグ・コンポジットEU国民投票世論調査トラッカーによると、6日時点で離脱派が42%、残留派は43%。ナンバー・クランチャ一・ポリティックスのBrexit確率指数は24.4と5月24日時点の17.4から上昇している。

  米ハーバード大学のニーアル・ファーガソン教授(歴史学)は6日、ブルームバーグ・テレビのインタビューで、米大統領選でトランプ氏が勝利して次期大統領に就任する確率は市場が現在織り込んでいるよりも高く、「五分五分に非常に近い」との見方を示した。

  大和証券投資戦略部のチーフ為替ストラテジスト、今泉光雄氏は、足元の「Brexit相場」同様、11月の米大統領選に向けても「毎日日替わりメニューで右往左往という相場を9月の終わりぐらいからやるのではないか」と指摘。「毎日世論調査が怖くて寝ることもできないような相場になるのではないか」と予想している。

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