【コラム】米雇用統計に市場は過剰反応したのではないか-エラリアン

3日の急激な米国債利回り低下は、失望を誘った米雇用統計の解釈をめぐり、米経済の需要が失速していると市場が受け止めたことを示している。米金融当局が今夏に利上げするとの市場の期待が大幅に後退し、世界中で利回りが下がった。

  このような反応は理解できるが、3日公表の5月の雇用統計から導き出し得る三つの結論の一つにすぎない。残る二つはそれほど決定的ではないが、需要についてと、賃金およびインフレ見通しに関しての仮説だ。これら3つの可能性はどれも裏付けとなる証拠が幾つかあるため、有力なのはこれだと特定すべきではない。少なくとも現時点ではそうだ。ということは、3日の市場の反応は過剰反応だったことを示していると言えそうだ。

  5月の雇用創出が失望を誘う内容だったことは間違いない。非農業部門雇用者数は前月比3万8000人増加と、市場コンセンサスの16万人増をはるかに下回った。さらにひどいことには、3月と4月の数字が下方修正され、その引き下げ分は合わせて5万9000人だった。

  2年物と⒑年物双方の米国債利回りは10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)前後の大幅低下となり、債券市場は即座に米国での需要、従って経済成長とインフレ見通しをめぐって著しい懸念を示した。その結果、6月の利上げシナリオはすっかり消え、今後の利上げの時期や頻度についての期待も大幅に先送りされた。そもそも米当局はそれまでに、世界経済の脆弱(ぜいじゃく)性やその結果生じる米経済への逆風について懸念を既に表明していた。

  しかしこの分析は、需要が抑圧されているという仮説の正しさが証明されて初めて通用する内容だ。弱かった雇用統計を説明し得る残る二つのシナリオも、場合によって市場の結論を修正することになる。

  1カ月だけの数字で転換点を確認することはできない。本質的に変動の激しい月次雇用データについては特にそうだ。さらには、絶好調には程遠いものの、米経済の前進継続を示唆するデータは複数ある。データの変わりやすさは、3日の雇用統計の影響に関して過度に決定的な結論を下すことへの注意につながるべきだろう。それ以前の月次雇用データの多くに見られた傾向に矛盾しているのだから、なおさらだ。

  三つ目は、失望を誘った雇用統計が需要よりも供給に関係していた可能性だ。既に低迷していた労働参加率は0.2ポイント低下して62.6%となったが、これは過去最低に近い。と同時に、5月の平均時給は前月比0.2%上昇し、前年同月比の伸び率は2.5%。これは米雇用市場でスキルのミスマッチが起き始めているとの見方に一致する新たな兆候だ。ただし、これに関するデータは極度に部分的なままで、あくまで事例証拠なものだ。

  今のところ、これら三つの仮説のどれが最終的に正しいのかを決める情報は不十分である。実際は三つのどれもが影響している可能性があり、米金融当局者が直面する「異例な不透明感」を増幅させているかもしれない。

  来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げがあるかもしれないと言うつもりはない。利上げはないだろう。来週実施の可能性は既に、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う今月下旬の国民投票をめぐる不透明感によって封じ込められている。

  それでも、市場が5月の雇用統計だけで年内の米金利見通しを劇的に変えたのは早まった判断だったのではないか。そして、そのような早急な結論に達したのなら、米金融当局の行動をめぐる期待の変化に伴って、金利見通しが大幅に変動する状況が年内続くだろう。

(モハメド・エラリアン氏は、ブルームバーグ・ビューのコラムニ ストです。このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません。)

原題:Markets May Have Overreacted to Jobs Report: Mohamed A. El-Erian(抜粋)

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