野村やソニー債をウォール街から逆輸入、SBIとPIMCOもタッグ

更新日時
  • 日系企業のドル建て社債発行は過去最高ペース
  • 日産のドル建て社債は為替ヘッジ後の利回りが円建ての約10倍

野村ホールディングスやソニーなどが発行したウォール街向け社債を逆輸入ー。日系企業によるドル建て債の発行額は過去最高を更新する勢いで、マイナス金利政策下で運用難に苦しむ日本の投資家にとっては、為替リスクを回避するヘッジコストを払っても高利回りで優良格付けの社債を購入できるチャンスが広がっている。

  SBIホールディングスはパシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)と提携し、日系企業のドル建て社債で運用する投資信託「SBI-PIMCOジャパン・ベターインカム・ファンド」の募集を7日開始した。類似の投信は三菱UFJ国際投信や大和証券グループもすでに販売している。

  SBIの説明資料によれば、組み入れ候補である日産自動車の5年物ドル建て債券は為替ヘッジのコストを差し引いた利回りが1.18%と円建て債券の約10倍に上る。 こうした投信を提供する背景には、日本国債が発行残高の約8割に当たる残存年数13年程度までゼロ%未満に低下していることや、個人向け国債の募集中止が相次ぎ、預金金利は0.001%まで下がっていることがある。

  バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、日系企業が社債発行で得たドルを円に換えた場合の妙味は「海外勢がマイナス利回りの日本国債を買ってももうかるのと仕組みは同じだ」と指摘。「国内の投資家や企業は運用難の打開や海外進出のためにドルを必要としており、米国は緩やかな利上げの流れ自体は変わらない。米金融規制もあり、ドルの供給が絞られると構造は変わらない」と説明する。  

  3カ月物の日米金利差は足元で71ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と2008年12月以来の高水準。ドルと円の資金を一定期間貸し借りするベーシススワップ取引の5年物では、円金利から90bp以上差し引いた調達コストで確保することが可能なため、計算上は、調達したドル資金を円に換えればマイナス金利での借り入れが可能だ。

  SBIボンド・インベストメント・マネジメントの堀井正孝社長は先週のインタビューで「安全な投資先と言っても、国債は利回りがマイナスなので、信用リスクを取る社債に行かざるを得ないが、社債の利回りも下がってしまった」と指摘。「日本を代表する企業なら大丈夫かどうか個人が肌感覚で分かるし、為替リスクを100%ヘッジしているのに仕上がりの利回りはかなり高くなる」と説明した。

  ブルームバーグのデータによれば、日系企業によるドル建て社債の発行額は年初来526億ドル。過去最高だった昨年通年の794億ドルを上回るペースだ。昨年は、国際的な金融規制強化への対応を迫られる金融機関が665億ドルと発行額の大半を占めた。今年も295億ドルとなお全体の5割超だが、海外展開を進める事業会社などの発行がより速いペースで増えている。

  堀井氏によると、SBIが30日に設定する投信は運用先を格付けA格以上の日系社債に限定し、為替リスクを伴わない。当初は20銘柄で、残高が膨らめば徐々に増やしていく方針だ。対象が金融機関に偏らないよう留意するが、細かい組み入れ比率より日本の優良企業であることを重視する。

  SBIの資料によれば、日系企業のドル建て債券20銘柄で構成する仮定のポートフォリオは平均デュレーション(残存期間)が4.50年で、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)取引も含めた利回りは2.61%。1カ月物を年率換算した為替ヘッジコストの0.87%を差し引くと、仕上がりの利回りは1.74%になる。堀井氏の試算によれば、同じ銘柄の円建て社債で組成すると0.2-0.3%にしかならない。

  発行する企業や年限などの条件が同じでも100%為替ヘッジのドル建て利回りが円建てを大幅に上回る理由は、グローバルな市場で求められる利回りの目線は国内より高く、競争相手も世界的な有力企業ばかりだからだと堀井氏は説明する。日系企業の発行規模はまだ16兆円程度とドル建て社債市場全体に比べると小さいため、海外勢から見た流動性の低さも利回り水準に影響していると言う。

 PIMCOのノウハウ

  日本国債の5年物利回りはマイナス圏。一方、社債がゼロ%未満の利回りで取引された例はほとんどない。堀井氏によると、社債市場の規模は60兆-70兆円あるが、発行はどんどん減っている。日系企業が発行利回りが高い海外市場に進出するのは「投資家層の分散という目的もある」と言う。

  SBIホールディングスは昨年末、PIMCOから10%の資本参加を受けてSBIボンド・インベストメント・マネジメントを設立。堀井氏は国際投信と三菱UFJ国際投信で「グローバル・ソブリン・オープン」の運用責任者を昨年末まで約11年間務め、今年1月にSBI入りした。

  ピムコジャパンの共同最高経営責任者(CEO)を務める松井昭憲会長と山本真一社長は、日本の投信市場では主な販路は当面は対面販売であり続けるが、SBIが強みを持つインターネット経由など「徐々に多様化し始めている」と指摘。PIMCOが持つ「債券運用を中心とした専門性を活かしつつ、新たな販路としてインターネットを通じてSBIの顧客に運用商品を提案する」方針だと言う。

  大和投資信託の「ダイワ外貨建て日本社債ファンド2014-03(為替ヘッジあり)」は日系企業がドル、ユーロ、豪ドル建てで発行したBBB格以上の社債に投資する。純資産総額は6日時点で75億7900万円、設定から2年余りでの収益率は8.2%だ。三菱UFJ国際投信の「米ドル建て日本社債ファンド(早期償還条項付)2014-11」はBBBマイナス格以上が対象。SBIとは異なり、いずれも設定後の運用期間中は追加購入できない「単位型」となっている。

突然の不祥事リスク

  有力企業の債券でも時価評価の下落に見舞われるケースがある。不正会計問題に揺れた東芝は、19年償還の社債が2月に額面価格の82%まで下落。現在も発行価格割れの状態が続いている。SBIは今回募集する投信で、信用リスク分散のため、1銘柄の組み入れ比率を1割までに抑える方針だ。

  米国の景気・物価指標が持ち直しに転じれば、利上げを織り込みを映した米金利の上昇で日本との金利差やベーシススワップが拡大し、為替ヘッジコストが増加する可能性がある。SBIの同投信は100%の為替ヘッジに1カ月物を使うため、市場でヘッジを再契約する度にコストが変わる可能性がある。

  金融機関の日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の金利が導入されたのを背景に、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りはマイナス0.135%と過去最低を付けるなど、国内の債券運用の環境は一段と厳しくなっている。財務省は2月から新型窓口販売方式による利付国債の募集を全ての年限で中止している。昨年12月末の家計の金融資産残高のうち、預金は902兆円で全体の52%近くを占め、投信は96兆円で5.5%にとどまっている。

  ピムコジャパンの松井会長と山本社長は、日本経済の持続的な成長を実現するには家計が抱える金融資産の有効活用、特に「預貯金の投資への促進が喫緊の課題」だと指摘。「資産運用ビジネスの社会的意義や責任が一段と増している」との認識から、同じ課題意識を持つ国内の資産運用会社とともに「預貯金から投資へのシフトに貢献していきたい」との見解を示した。

  堀井氏は日系企業のドル建て社債投信は「預金や国債は持っているが投資はハードルが高い」と感じる顧客層を想定して「より良い利息」と命名したと説明。アクティブ運用だが信託報酬を年0.572%に、収益の分配を年1回に抑えたため、長期的な資産運用に関心が高い30代から40代に適しているのではないかと語った。

(SBIボンド・インベストメント・マネジメント社長の名字の漢字表記は訂正済みです.)
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