胸なで下ろす住宅や小売り業界も、消費者冷ややか-消費増税延期

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  • 大和ハウス工業会長:増税後の住宅需要落ち込みへの心配なくなった
  • 「上向きの力が出てこないので引き続き消費厳しい」-エコノミスト

安倍晋三首相は、来年4月に予定していた消費増税を2年半延期する方針を発表した。高額消費の代表である住宅市場では増税後に需要が落ち込む懸念が当面なくなり、小売各社も消費者心理の改善を期待して安堵(あんど)感が広がるが、街の声は冷ややかだ。

  少子高齢化で住宅市場の縮小が続く中、大和ハウス工業の樋口武男会長は、消費増税の先送りについて「需要が落ち込むという心配がなくなり、安堵の要素だ」と述べた。ミサワホームの竹中宣雄社長は、「増税前のタイミングで買う必要がなくなったので商談が長期化する」との見方を示したうえで、駆け込み需要発生の可能性がなくなり、「今年度の住宅着工は減るだろう」と述べた。

  政府は1月、16年度の実質経済成長率を1.7%程度とする政府経済見通しを閣議決定。民間住宅投資については「消費税率引き上げ前の増加が見込まれる」として3.8%増程度との見通しを発表していたが、みずほ証券の石沢卓志上級研究員は、「駆け込み需要を織り込んでいたので、この伸びは達成できない可能性がある」と指摘する。

内需の腰を折りかねない

  消費税率をめぐっては、安倍首相が14年に10%への引き上げ予定を15年10月から17年4月まで延期した経緯があった。首相は、1日の自民党代議士会であいさつし、消費増税を2年半延期することを決断したと述べた。同日夕方に記者会見を開いた安倍首相は、内需の腰を折りかねない消費税の引き上げは延期すべきだと判断したと説明した。

  消費増税後は住宅需要が落ち込む傾向が過去にみられている。新設住宅着工件数は5%に引き上げられた97年度は前年比約18%のマイナス、8%に引き上げられた14年度は5年ぶりに減少に転じた。

財布のひもは固く

  一方、消費者は財布のひもを固く締めたままだ。経済産業省の商業動態統計によると、小売業販売額は4月に前年同月比0.8%減。15年11月以降では、今年2月に同0.4%増だったのを除いて、落ち込みが続く。前回消費増税が行われた14年4月には4.3%減となった。

  銀座で買い物をしていた井上侑幸子さんは「節約していますよ。高級な物なんて買わない。今、必要な物だけ安く買う」と話す。「安くてそこそこのものが手に入りますからね」という。

  歯科クリニックを経営する安藤大輔さん(38)は「今は延期した方がいい」と話す。消費税率が「10という数字は大きい」ため、消費に二の足を踏むようになるからだという。

  母親と買い物をしていた中村淳子さん(54)は「増税前にと、トイレットペーパーやらティッシュペーパーやらシャンプーやら、すでにまとめ買いして押し入れに入れてある」と言う。「ぜいたく品なんて買わないし、必要な物だけ買う。消費増税が延期されても一緒」と述べた。

  さらに買い控えるという声もある。出口ひろ美さん(40)は「高い物を買うなら増税前にと、この間パソコンを買い換えてしまった。そしたら延期ということになったので、急ぐ必要はないんだなと」感じたという。

「決定を歓迎」

  消費の最前線にある各社は、増税延期を好感を持って受け止めている。国内コンビニ最大手のセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長は、消費増税延期の「決定を歓迎したい」とのコメントを発表。国内の消費環境は「過去の増税影響などにより、大変厳しい状況」が続いているとしている。ローソンの竹増貞信社長は「政府が決めたなら、われわれもその判断を尊重して、しっかり準備」するとインタビューで述べた。

  国内ビールシェア首位のアサヒグループホールディングスの小路明善社長は「決定は購買心理にプラスの影響をもたらす」とコメント。サントリーホールディングスの新浪剛史社長は「総理の決断を評価したい」とした上で、「国民生活の向上を目指した構造改革に腰を据えて取り組んでいただきたい」などとする声明を発表した。

  第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、消費増税の延期が、弱くなっている消費を上向きにすることはないと指摘する。「短期的には企業にとって懸念材料が遠のいたけれども、冷静に頭を冷やしてみると、全然上向きの力が出てこないので引き続き消費は厳しい」と話す。値下げ競争に陥りがちな日本の消費産業には「デフレ体質が根強く残存」しており、「これをどう打開するかは、20年来の問題になっているということ」だと述べた。

(企業トップのコメントを第11段落以降に追加します.)
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