「サウジに売り込め」米国債の魅力-40余年前の秘話明らかに

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  • ソロモン出身伝説の元債券トレーダー、サイモン財務長官が極秘任務
  • 手ぶらでの帰国は論外だとニクソン大統領-長官側近が証言

失敗は許されなかった。

  1974年7月。新任のサイモン米財務長官と側近で財務次官補のジェリー・パースキー氏はアンドルーズ空軍基地から午前8時発の飛行機に乗り込んだ。夜明け前から霧雨が降り続いた空は雲に覆われ、機内のムードも張り詰めていた。この年、石油危機が米国を襲い、第4時中東戦争中の米国によるイスラエル軍事支援の報復としてアラブ諸国が禁輸措置を実施した結果、石油価格は4倍に高騰。インフレは高進し、株式相場は急落。米経済は急激に悪化していた。

  サイモン長官の2週間の外遊は公式には欧州や中東との経済外交とされていたが、ニクソン大統領の側近たちの間だけで極秘扱いだった真の任務は、サウジアラビアの紅海沿岸の都市ジッダでの4日間の乗り継ぎの際に予定されていた。

  その目標は原油を経済的武器として無力化し、敵対的なサウジが新たに手にしたオイルマネーという資産で米国の膨らむ財政赤字を穴埋めできるよう説得する方策を見いだすことだった。パースキー氏によると、ニクソン大統領は手ぶらでの帰国は論外だと明言した。失敗すれば米国の財政の健全性を危うくするだけでなく、ソビエト連邦がアラブ世界にさらに入り込む機会を与える恐れがあった。

  サウジとの協議でサイモン長官に同行した少数の当局者の1人であるパースキー氏(73)は、「できるかできないかの問題ではなかった」と振り返る。

Treasury Secretary William Simon, left, sits with Nancy Kissinger and Secretary of State Henry Kissinger as they listen to former President Nixon talk to his staff prior to leaving the White House for the last time, August 9, 1974.

Treasury Secretary William Simon, left, sits with Nancy Kissinger and Secretary of State Henry Kissinger as they listen to former President Nixon talk to his staff prior to leaving the White House for the last time, August 9, 1974.

Source: AP Photo

  一見したところ、サイモン長官はこうしたさじ加減の難しい外交には不向きだと見られていた。ニクソン大統領から財務長官に指名される前、サイモン氏はソロモン・ブラザーズで名高い米国債デスクを率いていた。キャリア官僚にとっては、自らをチンギスハンになぞらえるほど気が強いウォール街の債券トレーダーだったサイモン氏は、かんしゃく持ちで極めて自負心が強く、ワシントンにはとてもなじまないと受け止められていた。

  しかし、サイモン長官はほかの誰よりも米国債の魅力を理解し、オイルマネーを待機させる最も安全な場所が米国であるというアイデアをサウジに売り込む方法を会得していた。こうした見識は、その後約40年間にわたり米国・サウジの関係のあらゆる側面に影響することになる前代未聞の計画を生み出した(サイモン氏は2000年に72歳で死去した)。

  基本的な枠組みは至ってシンプルだった。米国がサウジから石油を買い、サウジに軍事的支援や武器を供与する。その代わりにサウジは多額の石油収入を米国債に投じ、米国の歳出を賄えるようにする内容だった。パースキー氏によると、全ての詳細がまとまるまでにその後複数回の慎重な協議が必要だったが、数カ月の協議の終わりに1つの重要な問題が残った。米国立公文書館のデータベースからブルームバーグが入手した外交記録によれば、サウジのファイサル国王は米国債購入を「極秘」のままとするよう要求したのだ。

  米財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)の一握りの当局者によってこの秘密はこれまで40年余りにわたり守られてきたが、財務省はブルームバーグ・ニュースが提出した米情報公開法(FOIA)に基づく要請に応じて今月、サウジの米国債保有額を初めて公表した。3月末時点の保有額は約1170億ドル(約13兆円)と、サウジは米国にとって諸外国で屈指の債権国となっている。

  サウジが極秘扱いにこだわったのは、主に政治的な理由によるものだ。当時は第4次中東戦争から10カ月後で、高度の緊張状態が続いていた上、アラブ世界ではイスラエルを支持する米国に対し、敵意が広がっていた。外交記録によると、ファイサル国王が最も恐れていたのは、サウジから環流したオイルマネーが米国からの支援拡大という形で最大の宿敵であるイスラエルを「直接的ないし間接的」に利するとの認識だった。

Drivers line up for fuel at a U.S. gas station, during the worldwide fuel shortages caused by the oil embargo imposed by OPEC, circa 1974.

Drivers line up for fuel at a U.S. gas station during the worldwide fuel shortages caused by the oil embargo imposed by OPEC, circa 1974.

Photographer: Pictorial Parade/Archive Photos/Getty Images
President Nixon shakes hands with Saudi King Faisal in June, 1974 in Saudi Arabia.

President Nixon shakes hands with Saudi King Faisal in June, 1974, in Saudi Arabia.

Photographer: Dirck Halstead/Liaison via AP Photo

  
原題:The Untold Story Behind Saudi Arabia’s 41-Year U.S. Debt Secret(抜粋)