岸田外相:ポスト安倍へ、オバマ氏広島訪問で非核外交リード

  • G7外相の原爆ドーム訪問は「ケリー氏の配慮」-木原外務副大臣
  • 安倍首相の禅譲受けるなら適役、積極性も必要-拓大・川上氏

原爆投下から71年。広島を訪れたオバマ米大統領を安倍晋三首相と共に迎えたのは岸田文雄外相だった。岸田氏はその後の臨時記者会見で、「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんの生涯や原爆ドームについて自らが説明し、オバマ氏はこの一帯は平和にとって大変重要な場所だ、と応じたことを明らかにした。

  自民党国対委員長などを歴任し、自民党内で自らの派閥を率いる岸田氏。被爆地・衆院広島1区選出でもあるため、「核兵器のない世界」は最も独自色を示すことができる分野だ。今回のオバマ氏の訪問は、20年以上の政治人生の中で大きな見せ場となり、ポスト安倍としての存在感を発揮する機会ともなった。

  岸田氏は27日、同市内で記者団に対し、オバマ氏の広島訪問は自身の政治家人生のターニングポイントにもなったのではないかとの質問に、「この訪問がゴールではない。これから核兵器のない世界に向けて、私の立場から、政治家の立場から、現実的、実践的な取り組みを進めていかなければならない」と答えた。

広島平和公園で献花するオバマ大統領

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  拓殖大学海外事情研究所の川上高司所長は、オバマ氏の広島訪問を「戦後70年の日米関係の集大成」と評価し、岸田氏は首相候補の「大きな資格」を得たとの見方を示した。岸田氏がポスト安倍を狙うなら、「もっと積極的にこれは自分の功績でもあるとアピールするべきだ」とも語った。

ハト派の外務大臣

オバマ氏訪問に先立つ4月10-11日、主要7カ国(G7)は広島市で外相会合を開催。各国外相による原爆ドームの見学は当初の予定にはなかったが、ケリー米国務長官の提案で急きょ実現した。ケリー氏は広島訪問について「胸がえぐられるようだった」と表現し、オバマ氏の訪問も呼び掛けた。

  木原誠二外務副大臣は岸田氏について「被爆地出身の外相として3年5カ月。核不拡散、核軍縮になみなみならぬ執念を見せてきた」と振り返り、広島での外相会合開催は岸田氏の決断だったと明かした。ケリー氏と岸田氏の間には「個人的な信頼関係」があると語り、原爆ドームの見学を提案したのは、ケリー氏の岸田氏への配慮だったとの見方を示した。

  集団的自衛権行使の一部容認に踏み切るなどタカ派の印象が強い安倍政権だが、その外交実績を見ると、リベラルな側面も目立つ。2014年11月には民主党政権時代から途絶えていた日中首脳会談が実現。15年12月には慰安婦問題について韓国政府と「最終的かつ不可逆的」な解決での合意にこぎ着けた。

  日本大学の岩井泰信教授は、「安倍首相はタカ派と思われているから、岸田氏のようなハト派の外相が閣内にいるとバランスが取れる」と指摘。さらに、「岸田氏は勝手に動くタイプでもないから、安倍首相は安心していられる」との見方も示す。同時に、岸田氏は経済担当の要職に就いた経験がなく、経済政策の方向性は見えないと話した。

名門・宏池会

  岸田氏は12年、岸田派(正式名称・宏池会)の会長に就任。1957年に池田勇人氏が創設し、池田、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一の4人の首相を輩出した名門派閥だ。

  同派に所属する武井俊輔衆院議員も岸田氏を首相とする宏池会政権の樹立を目指す1人だ。岸田氏のことを「怒ったところを見たことがない。帝王学に満ちているようなところがある」と評し、オバマ氏の広島訪問についても「過度に自分がやったと言わないところが岸田氏の魅力だ」と語る。その分、自らを含む若手議員が宏池会の存在感を高めるために汗をかき、「結果として岸田会長の存在感を高めていく」との決意を示した。

  武井氏は宏池会の政治理念について「軽武装とか、憲法を大事にするとか、現実に即した立場での政治」と説明し、憲法9条をめぐっては「宏池会として大きく思いを打ち出していかないといけない」と語る。

  岸田氏は、安全保障法制や安倍首相の靖国神社参拝には、表向き異論を挟むことはなかった。昨年9月の自民党総裁選でも岸田氏は出馬せず、安倍首相の再選支持に回った。

禅譲

  宏池会前会長の古賀誠元自民党幹事長は、岸田氏について「タイプが僕と違うことは間違いない。だからこそ彼に会長を託した」と明かす。「絶対けんかしない。言葉も優し過ぎる」と述べ、「あえて言えば、欠点のないことが欠点であって、敵のいないことが欠点だ」と語った。

岸田外相

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  川上氏は岸田氏について、「安倍首相の禅譲を受けるということではぴったりだが、いざポストを奪い取っていくということでは、もっと積極性がほしい」と評した。古賀氏は、そうした判断については「会長自ら決めていかなければいけない」と述べた。

  「自分が総理になって何をやりたいのか、何ができるのかを国民にきちんと説明できるということが大事。これからの岸田さんには特にそのことが非常に重要になってくるのではないか」とも指摘する古賀氏。昨年の総裁選で宏池会には所属していない野田聖子前総務会長擁立を模索した経緯があるが、今でも岸田氏は外遊する度に、ワインなどを手土産に自民党本部近くにある古賀氏の事務所を自ら訪れるという。古賀氏は「本当にまじめすぎる。律義な人だ。もったいないと思っている」と語った。