海外勢が日本国債に輝き与える魔法の杖、米利上げ観測でますます威力

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  • ドルの出し手は円との交換で一段と有利に
  • 7月までの米利上げ、市場の織り込みが5割超える

日本国債のマイナス利回りで運用難に苦しむ国内勢を尻目に、外国人投資家は魔法の杖を使って高い収益を上げることが可能だ。その威力は米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ観測の再燃でさらに強まっている。

  ブルームバーグの利回り・スプレッド分析データによれば、債券利回りがマイナス0.225%の日本国債の5年物をスワップ取引などを通じてドルを元手に運用した場合、同年限の米国債より80ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)前後も高いプラス2.2%の金利運用に変えることができる。

  ドル資金に対する上乗せ金利が円資金をはるかに超える需要に伴い発生していることなどが主な要因だが、ドルを保有する外国投資家にとっては、現在の米国債5年物の利回り1.4%台を超える運用が見込めることになる。同5年物利回りが2.2%を超えていたのは、2011年4月が最後だ。

  日本証券業協会の統計では、外国人による中期国債の買越額は4月に前年比4.2倍の2兆7271億円と14年9月以来の大きさに達した。年初来では8兆951億円と、過去最高の13兆1400億円だった昨年全体の6割超に上る。財務省の統計では、海外勢は日本の中長期債を直近の8日-14日まで7週連続で合計2兆5934億円買い越している。

  今月19日には米ニューヨーク連銀のダドリー総裁が経済が腰折れしない限り、6月か7月に追加利上げするのが妥当だと述べるなど、FRB要人から利上げ観測を後押しするような発言がこのところ相次いでいる。フェデラルファンド(FF)金利先物を基に算出した7月までの追加利上げ確率は足元で、約2カ月ぶりに5割を突破している。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは「海外勢からの問い合わせはベーシススワップと日銀の追加緩和に集中している。日本人には最悪の運用環境だが、ベーシススワップを使える外国人にとっては5年債を満期保有しても悪くない楽勝なトレードだ」と説明。「現物の為替市場では円高・ドル安気味だが、スワップ市場では円の需要はほとんどない」と言う。

  ブルームバーグのデータによると、ドルと円を一定期間交換するベーシススワップ取引の5年物は、ドルに対する上乗せ金利が3月に109bpと過去最大を記録した。4月は米利上げ観測の後退を反映して縮小したが、今月19日には91bpと約1カ月ぶりの大きさに戻した。
 
  内閣府の資料に基づけば、ドル換算した日本国債の運用収益率は、円金利スワップとドル・円ベーシススワップでドル建ての変動金利にした後、ドル金利スワップで固定金利化すれば、米国債との比較が可能になる。日本国債の運用収益率がドル換算すると高くなるのは、日米金利予測などから来るリスクプレミアムが反映されているためだ。

  バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、ドル建ての固定金利に換算した日本国債の5年物利回りは金融取引の実務上は、同年限の米国債利回りにドルの3カ月物ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)と円の5年物スワップスプレッドを加えた水準に近いと言う。前者は足元で66bpと09年5月以来の高水準。銀行間取引金利に基づく邦銀の信用リスクを映す後者は14bp前後だ。

「6月利上げ」へ地ならし

  ドルが元手の海外勢にさらなる追い風となっているのは米利上げ観測と日本銀行による追加緩和の思惑だ。ブルームバーグがフェデラルファンド(FF)金利先物を基に算出した7月までの追加利上げ確率は、足元では約54%。今月前半の15%前後から急に上昇している。少なくとも年内1回の利上げ確率は約8割に達している。

  FRBは昨年12月に06年6月以来となる利上げを実施したが、年明け以降はドルの一段高や世界経済の減速、市場の混乱に直面。3月は利上げを見送り、年内の実施見通しを2回に半減させた。イエレン議長は同月末、利上げは海外経済の動向も考慮して慎重に進めると指摘。4月27日の連邦公開市場委員会(FOMC)でも利上げは行わなかった。

  ところが、FRBが先週19日公表した4月の連邦公開市場委員会FOMC議事録で、大半の政策当局者が経済の改善が続いた場合は6月の利上げが適切になるとの認識を共有していたことが判明。ダドリー総裁に加え、最近1週間では、リッチモンド連銀のラッカー総裁とセントルイス連銀のブラード総裁、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁から利上げに前向きな発言が相次いだ。イエレン議長は27日に講演する予定だ。

  一方、日銀は、資金供給量を積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入して以降も、緩和政策を積極的に進めている。14年10月末の追加緩和では国債保有増を年80兆円に拡大した。1月末には金融機関の当座預金の一部に0.1%のマイナス金利適用を決めた。

  長期金利の指標となる新発10年物国債利回りはマイナス0.1%前後と3月に付けた過去最低のマイナス0.135%付近での推移が続いている。国債利回りは発行残高の約8割に当たる残存13年程度までゼロ%を下回る。国内勢の資金は超長期債に集中して利回りの過去最低を更新する一方で、4月の都市銀行による利付国債の売越額は4兆4051億円と4年ぶりの大きさに膨らんだ。

  日銀の黒田東彦総裁が金融政策を現状維持にとどめると、金融市場では大幅な円高・株安が進んだ。今月13日の講演では追加緩和はマイナス金利政策の「効果がはっきりするまで待つということでは全くない」と述べた。総裁は異次元緩和の導入直後から、投資家を国債から株式や外債などリスクがより高い資産に向かわせる「ポートフォリオ・リバランス」効果を波及経路の一つに挙げている。

ヘッジファンドの読み

  米ヘッジファンドのコモンウェルス・オポチュニティー・キャピタルのアダム・フッシャー最高投資責任者(CIO)は5日、ニューヨークでの投資家コンファレンスで、日本の30年債はたぶん地球上で最も割高だと指摘した。一方で、日銀のマイナス金利拡大に備えて5年債を保有していると話した。

  財務省が先週実施した5年債入札では、平均・最高落札利回りが4カ月連続でゼロ%を下回り、投資家需要の強弱を示す応札倍率は最近1年間で3番目の高さとなった。プライマリーディーラー(国債市場特別参加者)向けの第2非価格競争入札での落札額も3495億円と年初来で2番目に多かった。先月27日の2年債入札でも平均・最高落札利回りがともに過去最低を更新した。

  新発5年債利回りはマイナス0.20%台前半と、2月にマイナス0.265%の過去最低を記録した後も低水準で推移。2年債もマイナス0.20%台での推移が続いている。同年限の米国債利回りが足元にかけて上昇する中でも低位安定を続け、日米金利差は24日に114bpと08年9月末以来の水準に拡大した。

  バークレイズ証の押久保氏は「海外勢による日本国債の中期債買いはベーシススワップ絡みの需要が強く、引き続き活発だ。日銀の追加緩和観測による面もある」と指摘。一方、超長期債は「行き過ぎたフラット化の局面で残高を落とした」とみている。

  財務省の統計では、海外勢による中長期債の買越額は4月に2兆7764億円と1年前の3.2倍で、世界的な金融危機の兆しが生じた07年8月以来の高水準。国内勢の海外中長期債の買越額は3月に5兆2098億円と最大を記録し、4月も10カ月連続の買い越しだった。

  メリルリンチ日本証の大崎氏は、ベーシススワップの拡大は「日本人の外貨需要が旺盛なのと、米国での金融規制強化で米金融機関がドルを出しにくくなっているためだ」と指摘。「国内勢がスワップ取引で外貨を求めるのでベーシススワップが拡大し、有利な条件で円を手にした外国人の日本国債買いが入ってくるという流れが明確だ」と話した。