遠のく原爆の記憶、米大統領訪問実現も、核廃絶の厳しさ向き合う広島

  • 北朝鮮など核保有国は増加、米国は7260個の核弾頭を保有
  • 原爆投下「やむを得なかった」広島市民の4割超に増加-NHK調査

広島市に住む坪井直(すなお)さん(91)は米国のオバマ大統領の就任直後、広島訪問を要請する書簡を送った。それから7年。オバマ氏は今週、現職の米大統領として原子爆弾投下後初めて広島を訪問する。

  「難しいところを押して広島に来てくれることに感謝」と、坪井さんはさまざまな問題を乗り越えて広島訪問を実現したオバマ大統領への思いを語る。原爆に恋人を奪われ、自身は今も顔などにやけどの跡が残る。因果関係は不明だが、複数のがんも患っているという。それでも「大歓迎します」という。

  原爆投下から71年。国際社会は東西対立による冷戦、民族主義や宗教宗派による対立を重ね、核兵器廃絶どころか保有国は増加し、拡散の一途をたどる。日本を取り巻く安全保障環境も、保有国の中国や核開発を進める北朝鮮との緊張関係が続き、米国の核の傘に依存する。11日の共同通信によると、日米両政府はオバマ大統領が広島で核兵器廃絶に向けての演説や声明発表を行う方向で調整を始めたとしているが、被爆者たちは核兵器のない世の中への壁の高さを思い知り、なおできることを懸命に模索する。

坪井直さん

Photographer: Yuriko Nakao/Bloomberg

桁外れの破壊力

  1945年8月6日。広島工業専門学校(現在の広島大工学部)の学生だった坪井さんは登校途中に市中心部で被爆、桁外れの破壊力を目の当たりにした。全身やけどで耳はちぎれて垂れ下がり、助けを求めて壊滅状態の街をさまよった。再び自力で歩けるようになるまで1年かかった。2009年にプラハで核廃絶を呼び掛ける演説を行ったオバマ大統領に広島を訪れて被害の実態を知ってほしいと訴える書簡を送ったが、直接の返事はなく、米国大使館からの断りの連絡が届いただけだったという。

  坪井さんは被爆者として謝罪を望む気持ちはあるが、それよりも「今後の世界をどうするかが一番大事」と話す。望むのは、自らのような被爆者に会い「わずかでいいから、見たり話を聞いたり」してもらうことだという。

  ストックホルム国際平和研究所によると、米国は昨年の時点で7260個の核弾頭を保有し、7500個のロシアに次いで世界2位の核保有国だ。日本が提出した核兵器廃絶決議案は、昨年12月の国連総会で採択されたが、米国は英仏とともに棄権した。

  唯一の被爆国である日本でも核に対する意識は変わりつつある。NHKが15年に行った意識調査によると、米国の原爆投下が「やむを得なかった」とする広島市民の割合は44%で、40年前と比べて13ポイント上昇。原爆のことを話題にするかとの問いに「ある」と答えた人の割合は32%と18ポイント下がっていた。

被爆者の高齢化

  原爆を直接体験した世代の高齢化も進む。記憶を継承する人が年々少なくなっていることを受け、広島市では12年から被爆者の体験談を若い世代のボランティアに受け継いで広めていく「被爆体験伝承者養成事業」を始めた。被爆2世の大中伸一さん(65)は募集に応じ、広島平和記念資料館などで入館者に体験談を語る1人だ。

原爆死没者慰霊碑

Photographer: Yuriko Nakao/Bloomberg

  大中さんはオバマ大統領が「来ることはいいこと」と評価しながら、大統領としての任期切れが来年1月に迫っていることに触れ、核廃絶につながるような具体的な政策を「実行してくれるかは未知数」と話した。

  フリーランスのディレクターとして地元テレビ局向けの番組を制作している福島芳栄さん(44)は、小さいころから両親に被爆体験を聞いて育った。同じ立場の知人と「2世の会」に参加し、定期的に語り合う場を持っている。原爆の怖さは放射能の影響が遺伝子レベルで何世代にもわたって残る懸念があることだという。

「広島を考えるきっかけ」

  福島さんは、米大統領の広島訪問は難しいと考えていただけに「ようやく来てくれた」という感慨を持つ。ただ、オバマ氏は任期切れが近いこともあり政治や世の中の状況が「変化するとは思ってない」という。国内外の多くの人に「広島を考えるきっかけ、知るきっかけになるという意味では絶対にいい」と話した。

  ホワイトハウスはオバマ大統領が今月27日に広島を訪問すると発表。オバマ氏は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席した後、広島平和記念公園を訪れる。大統領は原爆の使用をめぐり謝罪はしない。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE