上ってきた階段転落の三菱自、不正に企業風土-支援企業も問われる

  • 波風を立てない優秀な社員、これまでも虚偽報告
  • ムラ社会の病理構造、支援側の企業も厳しく結果責任問われる

5月の大型連休が明けて間もない夜、三菱自動車の益子修会長は国土交通省5階の会見室で、300人近い報道陣やテレビカメラに向かって頭を下げた。燃費不正に関連して同社が会見を開いたのはこれが3回目。不正の全容や対象車種が明らかにされないことに記者たちはいら立ちを隠さず、正面に座る経営陣を責め立てた。

  日産自動車が三菱自の株式34%を取得すると発表したのは、翌日の12日。燃費不正があった軽自動車4車種は、2011年に設立した日産自との合弁会社で開発・生産していたもので、両社首脳は会見で、5年間協業をする中で、いずれ資本提携も含めた協力関係を意識していたと強調した。

  三菱自はその後、現在販売している9車種についても、ミラージュなど数車種を除いて机上計算や恣意(しい)的な数値の組み合わせなど不適切な測定があったと明らかにした。相川哲郎社長は責任をとり6月の株主総会で辞任し、益子氏は新体制に移行するまでの間、日産自との交渉や再発防止策などに取り組む。

  三菱自は1970年に独立するまで三菱重工業の自動車部として開発・生産をしており、独立後も140年の歴史を持つグループの一員として多面的な支援を受けてきた。グループ企業に守られる形だった同社にとって、日産自との提携は生き残りをかけた決断でもあった。益子会長は「開発部門に日産自の技術者を迎えることで、これまでガバナンス意識が届かなかったところを新しい目で見てもらえる」と不正根絶に向けた意欲を示した。

  三菱自は2000年に発覚したリコール隠し問題で当時の幹部が書類送検され、ダイムラー・クライスラーから出資を受けた経緯がある。その後、内部改革に取り組む中で2度目のリコール隠しが発覚。ダイムラー・クライスラーは資本関係を解消し、代わりに三菱重をはじめとするグループ3社が出資して経営を支援する形となった。益子氏は、このときに三菱自の再生を託されて三菱商事から移ってきた。

  不採算工場の閉鎖や車種の削減を経て、グループに引き受けてもらった優先株の処理と公募増資にこぎつけるまでに10年をかけた。13年度には復配も果たし、これからブランド再構築という時に発覚した不祥事だった。日産自との提携を発表した後のインタビューで益子氏は、「グループ3社の協力を得て、せっかくある程度まで階段を上ってきたのに、またかという思い」と悔しさをにじませ、「自分が現役でいる間にまたこんなことに会うとは思わなかった」と語った。

企業風土

  不正が繰り返される原因として、2人の社員は古くからの企業風土を挙げる。以前は部署間の異動が少なく同じ職場で10年以上仕事をすることも多かったため、広い視野が持てなかったという。直属の上司を飛び越えたり、他部署の部長と意見交換したりすることは裏切り行為であり、波風を立てずに仕事をすることが優秀だという認識があったと、匿名を条件に語った。

  2000年代の不正で転職を考えたという別の社員は、多くの優秀な人材が去っていったことで残された社員の士気が下がっていたと述べた。2度目の不祥事の後、ダイムラー・クライスラーが去り三菱グループの支援が決まったときは、もう海外のスタンダードに従わず、三菱の文化に守られるんだという妙な安心感があったと語った。

   度重なる不祥事の対策として、三菱自は04年、外部有識者からなる企業倫理委員会を取締役会の諮問機関として設置した。法令順守(コンプライアンス)意識の浸透に向けて、外部の目による指導や助言を働かせようというものだ。06年には内部通報制度に関する業務基準を制定し、最近では顧客目線での業務を通じて意識改革に取り組む「カスタマーファースト・プログラム」を立ち上げた。

  しかし、こうした取り組みは開発部門までは浸透しなかった。益子氏は、開発部門は専門知識も必要で入っていくのが難しかったとした上で、恐らく内部では「正しいと思ってやったことが、正しくなかったという結果ではないか」と述べた。これは「悪いことだと認識しているより深刻」で、だからこそ外部の目を持ち込む必要があると述べた。一方、他の部署では不祥事が起きておらず、意識改革は一定の成果を挙げているとの認識を示した。

言わない

  今回の不正発覚を予感させる出来事は昨年、露呈していた。16年度に予定していたSUV車「RVR」の新型を投入するタイミングが突然遅れることになったのだ。背景には開発責任者が車両の重量を最終段階まで適切に報告していなかったことがある。部長級だった2人の担当者は諭旨退職処分となった。

  今回の不正でも相川社長は、記者発表の1週間前まで燃費データの問題を知らされていなかったと4月20日の会見で述べている。昨年11月には日産自が実燃費との間にかい離があることを三菱自に伝えており、相川社長に情報が伝わったのは5カ月後だったことになる。

  ジェフリーズ証券のズヘール・カーン調査部長は「こんなにも長く情報が上部組織に上がらなかったことは、リスク管理が全くできていないことを示している」と述べた。悪い情報であればあるほど、速やかに上部へ報告がなされるべきであり大きな問題だと語った。

  幹部の1人によると、益子氏はコミュニケーションを非常に大事にして常に詳細な報告を求めていたという。しかし、矛盾点を見つけると納得できるまで突き詰めて質問するため、中には責められていると感じたり、敬遠してしまう社員がいたかもしれないと、この幹部は語った。

  企業統治(ガバナンス)面では、三菱自の役員構成の問題も指摘されている。取締役13人のうち社外取締役は4人。本来は会計や法律の知識を持つ人材に外部の目で経営を見てもらうべきところ、うち3人が三菱商事や三菱重など三菱グループの出身者となっている。残る1人は78歳の元官僚だ。カーン氏は、常任役員にも三菱商事、三菱重、三菱東京UFJ銀行など三菱グループからの人材がいることから、外部役員との間に緊張感が持てず、経営判断に異議を唱えたり自浄作用が働いたりすることが難しくなると指摘した。

支援企業も問われる

  三菱自への出資を決めた日産自のカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)は提携発表会見で、三菱自の「直面する課題解決を支援し、燃費にかかる信用の回復に力を注ぐ」と述べた。三菱自の開発部門のトップには日産自から人材を送ることで合意しているという。

  金融庁のコーポレートガバナンスに関する審議会のメンバーで経営共創基盤CEOの冨山和彦氏は、「表面的に内部統制を強化したり、取締役会の体裁を整えてもだめ」だと語った。問題の本質は、「半径5メートルのムラ社会の同調圧力を長期的な企業の繁栄よりも優先する病理構造」にあり、特に歴史ある日本の大企業で起こりやすいと指摘した。

  その上で、「三菱自を支援するのであれば、自らのステークホルダーへの信認義務を果たす上での合理性を説明」する必要があり、その結果責任を厳しく問われることを前提にすべきだと述べた。

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