クックパド価値4割減、レシピ見えず新体制に不信-社外取課題も

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料理レシピサイト運営のクックパッドは、創業者と経営陣の対立が表面化した年初から株価が急落、企業価値を表す株式時価総額を4割失った。創業者が経営関与を強めた新体制に市場の不信感は強く、好業績を確認した中でも投資家は再評価へのレシピをまとめ切れずにいる。

  クックパドは1月19日、創業者で44%の株式を持つ佐野陽光氏から自身を除く取締役6人全員の交代を要求する株主提案を受けた、と発表。翌20日に株価はストップ安、下落率23%は2009年7月の株式公開以来で最大となった。その後佐野氏、当時の穐田誉輝代表執行役との間で人事案の一本化が図られ、3月の株主総会では両氏のほか、佐野氏が推す岩田林平氏と社外新任4人、社外留任2人の計9人を取締役に選任、総会後の取締役会で穐田氏から岩田氏への代表執行役の交代が決まった。

  株価は2月5日に約1年ぶりの安値となる1372円を付けた後、一時900円近く戻したが、総会後に再度下落し、5月16日時点で1509円。時価総額は1616億円と、昨年末時点の2771億円から42%減少している。年初来の株価パフォーマンスはTOPIXに採用される1946銘柄中、下落率で23位。同社よりも下げが大きい企業には、エアバッグ事故問題を抱えるタカタ、羽田空港滑走路の施工不良が発覚した東亜建設工業、燃費データ不正問題の三菱自動車などだ。

  ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは、「非常に残念。今回の件で大きく企業価値も減り、市場からみると、評価できる状況にはない」とし、取締役会は「穐田氏の処遇がいかに企業価値にとって大切か、1月からの流れの中で十分理解していたはずだ」と話す。結果的に株価が大きく下落する判断がなされ、株安傾向が続くなら、代表執行役の交代に「賛成を投じた方の責任が問われる」との認識を示した。

多角化進めた穐田体制、海外強化狙う創業者

  穐田氏が代表執行役に就いた12年5月以降、会員事業や広告事業、小売店向けの特売情報事業の拡大を図るとともに、結婚式場の口コミサイト「みんなのウェディング」などを買収し、事業の多角化を進めてきた。その結果、15年12月期の連結営業利益は65億4400万円と過去最高を更新。16年12月期の1ー3月期(第1四半期)も前年同期比73%増の20億7100万円と伸びたが、「あくまでも旧経営体制での実行力の結果であり、今後は新経営体制の手腕が問われよう」と風早氏は指摘する。

  順風満帆に見えた経営にさざ波が立ち始めたのは昨年11月の取締役会だ。ことし2月の監査報告書によるとこの時、執行部による事業遂行が利益を損ねていると佐野氏が主張。その後会社側は社外取締役による特別委員会を設置、シティグループ証券が財務アドバイザーとなり、現在進む経営計画のほか、現計画を段階的に見直し、会員事業と海外事業に経営資源を集中する佐野氏案を精査した。特別委は現計画の推進を勧告し、取締役会がこれを承認した経緯がある。

  新体制への考えを当時の社外取締役から求められていたが、これに明確に回答しなかったとし、3月22日の取締役会で佐野氏は執行役を解任された。しかし、2日後の株主総会と取締役会を経て執行役に復帰、穐田氏の代表執行役退任とともに株式市場で経営体制の混迷があらためて認識されることになる。

全保有株売却のファンドも

  「持っていた株は全部売った。利益も随分と伸び、事業の多角化が良いと思っていたが、突然でびっくりした」と話すのは、シオズミアセットマネジメントの塩住秀夫社長だ。ガバナンスの課題もあり、株価が割安になったとしても買い戻すことはないと手厳しい。

  11日の第1四半期決算の発表時には、複数の未上場子会社の売却検討と特売情報事業などの会社分割も表明。クックパド株の投資判断を3段階評価中、最下位の「3(アンダーパフォーム)」としているSMBC日興証券の金森都シニアアナリストは、穐田氏管轄事業の縮小を意味し、経営体制への不透明感が残ることを再確認したとリポートで言及。経営プレミアムの復活は難しい、とみる。半面、元経営コンサルタントの岩田代表執行役が佐野、穐田両氏のバランスを取った体制を整える可能性もあり、ディスカウントは必要ないとの見解も示す。

  議決権行使助言会社のISSは3月総会時に株主に対し、佐野氏の取締役再任に反対するよう推奨した。ISSの石田猛行代表取締役は、「佐野氏は自分の提案にされたことが気に入らず、新しい取締役案を出した。44%持っている株主は理論上、こういう動きはできるが、普通はやらない」と指摘。多くの株主権利を1人が持つことは「大きなリスクファクター。今回のような件があると、今後何か起きた場合に佐野氏がどう対処するか分からず、新しく投資をする人は慎重になる」と言う。

覚悟問われる社外取締役

  昨年導入されたコーポレートガバナンス・コードでは、少数株主には実質的な平等性の確保に課題が生じやすいとし、上場企業に対し配慮を求めた。また、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するよう、社外取締役は2人以上選任すべきとしている。日本取引所グループの調査では、2人以上の独立社外取締役がいる東証1部・2部上場企業は昨年末時点で1858社中、58%に当たる1069社だった。

  クックパドは07年から指名委員会等設置会社へ移行し、取締役の数で社外が社内を上回る先進的なガバナンス体制は市場で評価されていた。ドイツ証の風早氏は、今回の同社の混乱で社外取締役全体の課題が浮き彫りになったと捉えている。「社外取締役が誰に選ばれたかで意見がずれている可能性があり、それは問題。少数株主がおざなりにされないよう、大株主1人の意見で全て決まらぬように役員会はある」と指摘。特にオーナー企業の多い日本では、「より社外取締役の責任は重くなる。あらためて社外取締役になることの覚悟が問われる」とした。

  ことしに入り、社外取締役が経営判断に大きな影響を与えるケースがみられている。セブン&アイ・ホールディングスでは、鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)による人事案が可決に必要な過半数に届かず、鈴木会長は辞意を表明。同社では、4人が社外取締役だった。不正会計問題を受けた東芝は、再発防止に向け企業統治を強化するため、社内取締役4人の倍近い7人の社外取締役を起用している。

  クックパドはブルームバーグ・ニュースの取材に対し、「組織の調整を行っている現段階では、取材を受けることが難しい状況」とメールで回答した。

  17日のクックパド株は、前日比2.7%高の1549円と3営業日ぶりに反発して終了。売買高は71万株と、5月月間の1日当たり平均135万株を下回った。

(文末に17日の株価、売買高情報を追記します.)
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