「地球上で最も割高」な日本の超長期債、海外投資家は着々と売り抜け

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  • 超長期債は年初来の収益率が22%、きょう30年債入札
  • 米ヘッジファンドやゴールドマンは過大評価だと分析

日本銀行の異次元緩和とマイナス金利政策下で、投資家が運用難に直面している日本国債市場。わずかなプラスの利回りを求めている国内勢を尻目に、海外勢は30年物などの超長期国債を世界一割高だとして売り抜けている。

  現在の国債利回りは発行残高の約8割に当たる残存13年程度までゼロ%を下回る。30年債は4月21日に0.265%と過去最低を記録。今月9日にも同水準に並んだ。米国債との格差は2日に246ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と2011年2月以来、ドイツ国債とも71bpと約2年1カ月ぶりの水準に拡大。

  財務省がこの日実施した30年利付国債(50回債)の入札では、平均落札利回りと最高落札利回りがともに過去最低を更新した。ただ、最低落札価格は112円70銭と、ブルームバーグがプライマリーディーラー12社に聞き取り調査した事前の予想中央値を20銭下回った。

  日本の超長期債は年初来の収益率が22.2%に上る。ただ、米ヘッジファンドのコモンウェルス・オポチュニティー・キャピタルのアダム・フッシャー最高投資責任者(CIO)は5日、ニューヨークで開かれた投資家コンファレンスで、日本の30年債はたぶん地球上で最も割高だと指摘する一方、日銀のマイナス金利拡大に備えて5年債を保有していると話した。

  日本証券業協会の統計によると、海外勢は3月に中長期債を買い越す一方、超長期債は8527億円売り越した。売越額はリーマンショック直後に世界規模で投資資金の巻き戻しが生じた08年10月以来の大きさ。昨年11月からの5カ月間で合計1兆6690億円を売り越し、それまでの1年間の買越額をほぼ吐き出した。

  パインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長は、30年債の魅力度を10年債との利回り格差で測ると、米国の80bp強、ドイツは60bp前後に対し、日本は「今年初めには100bpと米独より魅力的だったが、マイナス金利の導入で40bp前後までフラット化し、追い越してしまった」と指摘。「どう考えても割高で、もはや魅力的だとは言えない。ただ、需給面ではまだかなりタイトだ」と言う。

  利回り曲線が右肩上がりとなっている期間部分の国債を保有している場合、その金利格差が大きければ大きいほど、残存期間の短期化に伴い評価額の上昇が期待できる。日本国債の10年物と30年物の利回り格差は4月に16年ぶりの低水準となる38bp前後まで縮小。一方、米国債は2月末に88bpと約2年ぶりの大きさとなり、足元でも85bp前後で推移している。

  長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは3月にマイナス0.135%と過去最低を記録。その後も同水準に並ぶ場面が見られている。超長期債にはプラスの利回りを求める投資家の買い意欲がうかがえる。20年債は1月末からの利回り低下幅が約70bp、30年債は約90bp、40年債は100bp近く下げた。

BNPパリバも現金化

  日本の超長期債に高値警戒感を抱くのは米コモンウェルスのフィッシャー氏だけではない。運用・助言する資産残高が全世界で5210億ドルに上るBNPパリバ・インベストメントで日本の債券責任者を務める中村成己氏は、超長期債の保有額を先月と今月に圧縮して現金に換えた。この水準ではポジションを増やす気には全くならないと言う。

  米ゴールドマン・サックス・グループの世界マクロ・市場調査共同責任者、フランチェスコ・ガルザレリ氏も日本国債が過大評価されているようだと指摘。政府・日銀が政策金利の引き下げから距離を置きながら、財政と金融による景気刺激措置を拡大した場合、一斉売りの引き金を引くリスクがあると分析する。

  日銀が2%の物価目標を達成するためマネタリーベースを積み増す「量的・質的金融緩和」を導入してから3年余りが経った。その間の金融政策の見直しで、国債保有増のペースは年80兆円、買い入れの平均残存期間は7-12年程度に達している。2月中旬からは金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を適用するなど、日銀は市場金利の下げ圧力が全体に広がる政策を積極的に取っている。

  日銀が国債の保有残高を年80兆円に増やすのに必要な今年の買入額は約120兆円と昨年より10兆円多く、政府の今年度の利付国債の市中発行額122兆円にほぼ匹敵する。それでも、日本のインフレ率は依然として低迷しており、日銀は先月末に物価見通しを下方修正し、2%目標への到達時期を「17年度中」に先送りした。

  国債等の発行残高に占める日銀の保有割合は約3分の1に達し、国債市場の需給逼迫(ひっぱく)が恒常化している。海外勢が売り抜けを進めても、日銀の巨額買い入れと国内投資家による償還分の再投資で、利回り曲線は超長期の大きな下振れで平たん化が進んでいる。生損保は3月に超長期債を7430億円、農林系金融機関は4301億円、都市銀行は3686億円買い越した。20年債利回りは今月9日に0.22%、40年債も先月22日に0.27%と最低を更新した。

  三井住友トラスト・アセットマネジメント債券運用部の栗木英明チーフファンドマネジャーは、日銀の大規模な買い入れを背景に国債利回りは上がらないと予想。同社も含めた国内投資家は残存20年以上の超長期債を買わないわけにはいかないと話す。

ブラックロックの提案

  日銀はオペで残存25年超の国債を月8000億円程度買い入れている。パインブリッジの松川氏によると、40年債入札がない月には30年債の発行額を丸のみできる規模だ。「相場はモメンタムで動き、強い人や流れに従う。われわれも売りたくても売れないし、売られるまでは売らない。相場が弱ってくれば売るが、今はまだ強い」と言う。

  黒田東彦総裁は異次元緩和の導入直後から、投資家を国債から株式や外債などリスクがより高い資産に向かわせる「ポートフォリオ・リバランス」効果が波及経路の一つだと指摘している。運用会社などからは、日本投資家に対して外国資産での運用を提案する新たな動きも出ている。

  世界最大の資産運用会社である米ブラックロックは今月、日本初となる円建て為替ヘッジ付きの米国債ETF(指数連動型上場投資信託)の販売に乗り出す。シティ米国債7-10年セレクト・インデックス(円ヘッジ)の構成に基づいて値動きを連動させるETFで、残存期間7年以上8年未満と8年以上9年未満、9年以上10年未満をそれぞれ30%前後ずつ保有するラダー型の構成だ。

  ブラックロック・ジャパンのiシェアーズ事業部門ヴァイスプレジデント、増岡博史氏は10日のインタビューで、「ラダー型の米国債投資はシンプルで需要が高く、銀行や生保、地銀など、さまざまな投資家が私募投信などで慣れ親しんでいる」と説明。ヘッジ外債は「日本の投資家から強い需要がある上、為替相場の値動きは足元で非常に激しくなっており、受け入れられる好機ではないか」と述べた。

  増岡氏は「今回の東証上場は日銀のマイナス金利導入があったから、狙ってぶつけたわけではない。米利上げの行方がどうなるにせよ、日本の投資家が期間収益を求める需要は恒常的に存在する」と指摘。低金利が続く中では「超長期の日本国債でデュレーションリスクを取るか、高配当が見込める株式で安定的な利回りを狙うか、海外の国債や社債、モーゲージ債などの外債を買う選択肢がある」と語った。

  ブルームバーグによると、30年物の米国債利回りが2.6%前後に対して、ドルのスワップ金利は同年限で2.10%と低く推移している。一方、日本では国債利回りが0.3%前後で、円のスワップ金利は0.5%台だ。

  SMBC日興証券の野地慎為替・外債ストラテジストは10日付のリポートで、アセットスワップが割安な米30年債の場合、フルヘッジしても6カ月物円LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)マイナス10bp弱で済み、円30年物のスワップを受けて固定化すれば、同年限の日本国債を上回る0.5%弱の利回りを得られると指摘。30年の負債を持つ国内投資家にとっては魅力的な投資先だとしていた。