米シティで懲戒解雇の東京外為トレーダー、「私はスケープゴート」

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  • 外為取引指標を操作する試みは重大な行動規範違反-シティ証
  • 市場慣行上の「通常の取引」で解雇は不当、東京地裁に提訴-元社員

シティグループの日本法人の元社員が、外国為替取引指標の操作を試みたとして懲戒解雇されたのは不当だとして、地位確認を求める訴訟を提起していることが分かった。元社員は同行為は上司らも承知していた通常の取引で、会社は責任追及を逃れるため自身を「スケープゴート」にしたと主張している。

  シティグループ証券の外国為替スポットトレーダーだったこの男性は、問題となった取引はシティのシンガポールの女性トレーダーが会社の利益のために出した注文を単純に執行したもので、会社からは何ら警告はなかったと主張している。原告が東京地裁にこれまでに提出した3月23日付の20ページにわたる書面を含む資料をブルームバーグが裁判所の許可の下閲覧した。

  世界の外為市場では不正操作をめぐる行政処分や、それを受け順守すべき行動規範の作成が行われる中、シティグループで失職した複数のトレーダーらはこうした行為はシティでは通常の取引であったとしてロンドンやシンガポールで訴訟を起こしている。金融当局が外為相場の不正操作などを摘発した例がない日本で、同社に対して訴訟が提起されたのは今回が初めて。世界の大手銀行は不正行為により当局から合計100億ドル規模の制裁金を科せられている。

  シティグループ証は、元社員が2011年から13年の間にシンガポール拠点の同僚オプショントレーダーとの間で交わした電子的コミュニケーション(チャット)の内容が問題だとして15年1月に原告を解雇、その後元社員は東京地裁に提訴した。また、シンガポールの同トレーダーも解雇され、8月に提訴している。

チャットに「不適正な」意図

  ブルームバーグが閲覧した米シティの懲戒解雇通告書や答弁書によれば、元社員らのチャットには、シンガポールのトレーダーが持つデジタルオプション取引のリファレンスレートとして用いられた外為取引指標(日本時間午後3時のフィキシングプライス)に影響を与えようという「不適正な」意図が現れていたという。また、この行為は金融商品の市場を操作する試みに該当し同社の行動規範の重大な違反になると主張している。

  解雇されたこの元社員は15年2月、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認するよう東京地裁に訴状を提出した。原告は日本の大手銀行でも外為トレーダーを長年務めるなど、シティグループを合わせ外為取引で15年の経験を持っている。

「スケープゴート」に

  原告は16年3月に提出した書面の中で、当時の行為は行動規範違反には該当しないとしている。こうした取引の禁止が従業員に周知徹底されていなかったことや、悪質性はなく具体的損害が生じていない点を指摘。また、シティは当時米国規制当局などからトレーダー管理のずさんさを指摘されており、上司も同様の発注を通常の業務として行っていたが管理体制の強化を外部に示す必要に迫られていたため、原告だけをスケープゴートとして処分したと主張している。

  日本で法人業務を手掛けるシティグループ証は、ブルームバーグの取材に電子メールで宛てた文書で、「シティのFX(外為)に関連する調査の一環として、当社は不正行為に関与したと認定した従業員を解雇した。個人が説明責任を果たすことは当社にとって重要で、このような主張を行っている。当社は従業員に最も高い倫理基準を順守することを期待している」と述べた。

  解雇されたシティグループ証の元外為トレーダーに取材を試みたが、コメントは得られていない。原告の代理人はブルームバーグの取材に対し、訴訟が継続中のためコメントできないとファクスで回答した。

外為取引指標に影響

  日本の金融当局である金融庁と証券取引等監視委員会はこれまでのところ、世界に広がった外国為替の不正操作に関して摘発や行政処分は行っていない。英国では13年に複数の金融機関が「WM/ロイター」と呼ばれる為替指標を不正に操作していたことが明るみ出たが、日本では各行が取引価格を個別に公表しているため海外とは仕組みが異なる。

  今回、問題となったのは「CitiFX Benchmark」や「JPNU」という外為取引指標に影響を与えようとした取引。米シティのシンガポールのオプショントレーダーが行っていたデジタルオプションに係る取引では、ストライクプライスに達するか否かを判定するための基準にこれらの指標がリファレンスレートとして参照されており、その数値により権利を行使できるか否かが決まっていた。

  日本銀行によれば、外為取引指標は特定時刻の価格情報や実取引データに基づき算出され、機関投資家や企業などに幅広く利用されている。「CitiFX Benchmark」は、算出時刻直前のビッドとオファーを基に指標の数値が決められている。

  被告のシティ証が裁判所に提出した準備書面によれば、これらは公正かつ客観的な指標として長年公表され利用されており、シンガポールでのオプション取引の相手方には大口の機関投資家などがいたという。同僚のオプショントレーダーは彼らの利益を顧みることなくフィキシングプライスを自己の有利な水準とすることでオプション取引で利益を上げようし、元社員はその意図を理解した上でスポット取引におよび、指標に影響を与えようとしたとしている。

当時は「市場慣行」、今は「グレー」

  こうしたシティの主張に対し、東京や香港で現役で働く複数の外国為替トレーダーなどによる陳述書が提出されている。それらによれば、元社員らが行った取引はシティで普通に行われていただけでなく、11年から13年当時は「市場慣行上の通常の取引」だった。複数の外資系金融機関では問題になったこともなかったという。一方で、今は「なるべく避けるべき取引」との意見や、「黒」に近い「グレー」な取引だとの声もある。

  公益財団法人の日本証券経済研究所理事で東京国際大学大学院の講師も務める佐賀卓雄氏はブルームバーグとのインタビューで、同取引について「マーケットの透明性、公平性という観点であってはならない慣習」であり、「各金融機関はそうした事象が過去にあったか、現在はどうかを点検、検証すべきだ」と述べた。その上で日本の金融当局も「外為のガイドラインが守られているかどうか、検査などで監視していく必要がある」と指摘した。

  東京外国為替市場委員会は昨年4月、海外での不正操作問題を受け、順守すべき行動規範などを示した「外国為替取引ガイドライン」(2015年版)を公表した。「ドルと円のベンチマークが高めに設定されることを意図して、ベンチマーク設定前にドルを買い相場を上昇させる」ことは相場操縦に当たるなど不正行為を具体的に解説している。

厳正な市場監視

  証券監視委はブルームバーグの取材に対し3月23日付の文書で、「個別の調査などについてはお答えを差し控えたい」とする一方、「証券市場の公正性および投資家保護の確保のため、厳正に市場を監視しているところであり、金融商品取引法の法令違反に該当する事実がある場合には、法令にのっとり、厳正に対処する」と回答した。 

  英国では外為操作のスキャンダルが広がる中、不当解雇で銀行を訴えた複数の元トレーダーに勝訴判決が下されている。しかし、裁判所は行為自体を批判、報酬を受け取るのは正当でないとしている。

  米シティを解雇された元為替トレーダーのペリー・スティンプソン氏は、ロンドンの雇用審判所が不当解雇を認定し、5万8774ポンド(約940万円)の支払い命令を勝ち取ったが、かつての年収の半分に満たなかった。

英文記事: Fired Citigroup FX Trader Tells Tokyo Court He Was a Scapegoat (1)