貸出金利のマイナス化も、TIBORゼロ%割れ目前-日銀の一押しで

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  • 日銀のマイナス金利政策を受けTIBORは過去最低の6bpに低下
  • TIBOR次第で貸出金利もマイナス化の可能性-SMBC日興

マイナス金利政策の影響で、銀行融資の指標金利TIBOR(東京銀行間取引金利)が過去最低まで低下、ゼロ%割れ目前に迫っている。日本銀行が追加緩和に踏み切れば、民間銀行の貸出金利が一部マイナスになる可能性があるとの見方が出てきた。

  日銀は1月29日、当座預金の一部にマイナス0.1%の政策金利を課すマイナス金利政策を発表。ブルームバーグのデータによると、ユーロ円TIBOR3カ月物は、発表直前の17ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)から、4月26日には1998年3月に集計開始以来最低の6bpに下落した。5月9日も同水準で推移している。

  貸出金利はTIBORなど指標金利に対し、企業の信用力を示すスプレッド(上乗せ金利)を加味して決まるが、指標金利のマイナス幅がスプレッドを上回れば、計算上は銀行が貸しているのに金利を支払うことになる。こうした事態を嫌って銀行が融資ではなく現金保有を大きく増やした場合、日銀はマイナス金利の効果減殺を防ぐため、当座預金の金利ゼロ%適用分(マクロ加算残高)を減らすなどペナルティーを用意している。

  SMBC日興証券は、日銀がマイナス0.1%の政策金利を来年3月までにマイナス0.2%に引き下げると想定。これを受けて「TIBORがマイナスになったら、貸し出しもマイナス金利になっていくと思う」と、同社の中村真一郎シニアアナリストは述べた。特に大企業では「TIBORちょうどで借りている例はいくらでもある」とし、TIBOR次第で「銀行がお金を貸しているのにお金を払うということが生じる」との見方を示した。

  マイナス金利貸し出しの可能性について、弁護士や法学者らが金融取引ルールに関して提言を行う金融法委員会は2月、「考えにくい」との見解を発表。全国銀行協会の国部毅会長(三井住友銀行頭取)は4月の記者会見で、マイナス金利政策について「短期的にはマイナス影響が出てくると思うので、今の状態が続くとすれば、2016年度は銀行界にとっては難しい年になる」との見方を明らかにした。

LIBORは既にマイナス

  市場連動性の高い円LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)は既に3カ月以下がマイナス圏に沈んでいる。現状ではTIBORをベースに融資金利を決めることが多いが、ブルームバーグのデータによると武田薬品工業、東京急行電鉄、三菱商事、住友商事の各社は、円LIBOR3カ月物+1bpという条件で過去に契約した借入金がある。LIBOR3カ月物は6日現在マイナス2.3bpで推移しており、見直し時にもこの水準が続けば、資金を借りている企業が計算上は利息を受け取れる。

  クレディ・スイス証券の三浦毅司アナリストは、マイナス金利貸し出しが一般的になることはないとしたものの、「超優良企業のシンジケートローンなどでそうなる可能性がある」と話す。

  またブルームバーグ・ニュースは、複数の関係者の話として、日銀が今後政策金利のマイナス幅を拡大する際は、貸し出し支援基金による貸出金利もマイナスにすることを検討する可能性があると報じている。

  三浦氏は「日銀のマイナス金利貸し出しが実現すれば、かなり大きな事件になる」と指摘。民間銀行は調達コストがゼロ以上だったので、企業にゼロ以上で貸すという理屈が通じたとし、「今後調達手段にマイナス借り入れが加われば両方マイナスを考えないといけない」と話した。

  パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のアジア・クレジット調査責任者ラジャ・ムケルジー氏(香港在勤)は、「預金金利をマイナス化し顧客にコスト負担を強いるのは難しいため、銀行の利益を圧迫する」とリポートで指摘。手数料ビジネスや海外投資に注力することになるとの見方を示した。

日銀と欧州中銀

  日銀よりも2年早く欧州中央銀行(ECB)は14年6月、マイナス金利を導入したが、BNPパリバ証券の鮫島豊喜シニアアナリストは、「貸出金利はどこも下がっているが、それでマイナス金利に突っ込んだところはない」と述べた。その背景として「欧州ではマイナス金利をスタートする時の水準が日本と大きく異なる」と説明する。

  ECBがマイナス金利政策を決定した前月の企業向け平均貸出金利はドイツが2.85%、フランスが2.55%なのに対し、日本の長期プライムレート(最優遇貸出金利)は、日銀のマイナス金利決定前時点で1.1%だった。

副作用

  もっとも民間銀行による貸出金利のマイナス化には懐疑的な見方もある。BNPパリバの鮫島氏は「マイナスは出ないと思う」と述べ、野村証券の魚本敏宏チーフクレジットアナリストも「現時点ではあり得ない」と話す。

  長期国債や一部コマーシャルペーパー(CP)の利回りがマイナスに陥っているのは、金利は低くても「日銀が高く買ってくれる可能性があるという前提で市場が動くからだ」と魚本氏は説明。ローン債権については、こうした仕組みがない上、金融法委員会の考えを尊重し「銀行が融資先に金利を払うのは適切ではないという取り扱いとなっている」と話す。

  またマイナス金利貸し出しが実際に行われたとしても、その弊害を見る向きもある。SMBC日興の中村氏は、「信用リスクもあるのにお金を払わないといけないと貸さなくなる。銀行の信用仲介機能が壊れていき、日銀がやろうとしていることと逆行してくる」と指摘する。