「地震との競争」迫られる東京、震度6の備え急務-被害112兆円も

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  • 熊本地震の問題は復興の中心基地となる役所の倒壊-内閣官房参与
  • 南海トラフ地震は東京に震度6弱の揺れをもたらす-高知大教授

午後4時過ぎ、オフィス中の携帯電話が突然、鳴り出した。緊急地震速報の直後、大地震が発生。ドアが開かず逃げ惑う社員、渋谷でぼうぜんとする外国人、窓ガラスの破片が降ってくるー。東京都が昨年配布した防災ブック「東京防災」は、大地震のイメージを漫画でリアルに描き、こんなセリフが出てくる。「それはいつか来ると分かっていたはずなのに」

  東日本大震災からわずか5年で熊本地震が発生。日本の経済・政治の中枢である東京も、将来南海トラフ地震や首都直下地震が起きるとの予測があり、政府や自治体は耐震化などの対策が急務だと考えている。

  京都大学大学院教授で安倍内閣官房参与の藤井聡氏は、ブルームバーグのインタビューで「首都直下型地震や南海トラフ地震は当然来る、という前提で対策を図っていかないとならない」と述べた。「地震が来るまでに間に合うかが問われている。地震との競争だ」とし、地震対策を加速する必要を明らかにした。

  大学やデパート、高層ビルが立ち並ぶ池袋駅周辺は、東日本大震災時には帰宅困難者があふれ道路がふさがった。豊島区・防災危機管理課長の樫原猛氏は、大地震発生後の人々の動きを把握するため、「災害時の人々の動きを写す防災カメラを51カ所に設置した」と話す。木造家屋の密集地域が区の4割を占め災害時には火災延焼のリスクが高く、区画整理で道路の拡幅化を進めている。

Smoke rises over Tokyo following the earthquake in March 2011.

Photographer: Xinhua via Getty Images

  内閣府の資料によると、西日本の太平洋沿いの南海トラフ地震が30年以内にマグニチュード(M)8-9クラスで発生する確率は約70%、首都直下地震では南関東域で30年以内にM7クラスが発生する確率も約70%とされる。中央防災会議は2013年12月、首都直下地震が起きると死者が最大2.3万人に達するとの分析を発表。被害額は約112兆円と推計している。

  高知大学の岡村眞特任教授は、「南海トラフ地震が起こると東京でも震度6弱の揺れや3-4メートルの津波が起こる可能性がある」との見方を示した。

熊本の教訓

  熊本県中心に14日から発生した地震では、25日午前7時現在で48人が死亡、重傷者は282人、軽傷者は1095人。25日までに震度7が2回、震度6強が2回、震度6弱が3回など大規模な余震が続き、住宅のほか宇土市など一部の市役所でも建物が損傷し、避難勧告の対象は約11万人に上る。

  内閣官房参与の藤井氏は、熊本地震の教訓として災害復旧などの司令塔となる「役所の倒壊は深刻だ」と話す。今後東京を襲う可能性のある大地震への備えとして、被災地となる自治体の建物への被害抑制、物資の輸送や人々の移動の大動脈である首都高速道路や鉄道・橋などの強化に優先的に取り組む必要があるとの考えを示した。

  野村総合研究所の上級コンサルタントの浅野憲周氏は、東京で大地震が発生した場合について「数百万人が避難生活をするという今までに経験したことのないような事態になると予想される」と語る。地方出身者が多い東京の地域特性などを考慮して「大地震後は東京にとどまるよりも、地方への広域避難などいろいろな選択肢を用意して柔軟に対応する必要がある」との見方を示した。

自治体の対応

  都内の自治体では東京での地震発生に備えた対応を強化しつつある。豊島区では、救援物資の搬入や集配のためにヘリコプターが離発着できる場所を選定中。企業の本社や官公庁、観光スポットが集まる千代田区は、企業や大学キャンパスなどで約2.7万人の帰宅困難者の受け入れが可能としている。

Destroyed houses in Kumamoto on April 20.

Photographer: Taro Karibe/Getty Images

  同区災害対策・危機管理課の石綿賢一郎課長は、「大地震では約50万人の帰宅困難者が区内に滞留する可能性があるという想定で区は動いている」と語る。東京駅前に多くのオフィスビルを保有する三菱地所は、丸の内の十数棟のオフィスビルで帰宅困難者受け入れを行う計画だ。

  千代田区民の上川万里子さんは、熊本地震の発生後、区役所の防災課に足を運んだ。区が住民に対して確実にサポートをしてくれるのかどうか、一人暮らしのお年寄りを地震発生後に安否確認など見守りしてくれるのかどうか、確かめるためだ。防災意識は東日本大震災以降高まり、1週間分の水、電池やボンベなどを常時備えているという。「個人では地震対策をしっかりしていますけど、区が現実的にどんなサポートをするのか理解したいんです」と話す。

大都市機能

  東京に大地震が発生した場合の経済的ダメージについて、JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは、「東京の都市機能がまひして、避難難民が出るような状況というのは、非常に大きな経済的損失だ。その時の金融機能とかいろいろなものが阻害されてしまうと、日本だけでなく世界中に影響が及ぶ」と語った。

  日本取引所グループの広報・IR部の大藪将貴氏は、大地震発生時の対応に関して「大規模な災害が発生した場合にも清算は2時間以内、取引は24時間以内に業務を再開できる体制が整えられている」と電子メールで回答した。さらに「大規模災害の発生後の取引を継続するか否かはさまざまな事情を勘案して判断する」と説明した。

(第1段落を追加して更新しました.)
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