GPIFは国内債減や日本株増加速せず、マイナス金利でも-高橋氏

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  • マイナス金利の債券は買うなとか、個別に細かい指示をしてはいない
  • 金利低下で「住宅投資や消費にプラスの効果が出てくる部分もある」

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の高橋則広理事長は、日本銀行のマイナス金利政策を受けて変化した現在の投資環境下でも、国内債券をさらに大幅に減らして日本株などを急増させたりはしない方針だ。

  今月1日に就任した高橋理事長(58)は26日のインタビューで、GPIFの基本ポートフォリオは年1回の検証中だが、目標値などは変更しない見通しだと述べた。乖離(かいり)許容幅の活用についても、「金利がマイナスだから国内債を急に減らすとか、日本株を増やすことは考えていない」と説明。資産構成の目標値にほぼ到達しているので「足元のポートフォリオの状況を尊重しながら」運用していくと語った。

Norihiro Takahashi, president of the Government Pension Investment Fund (GPIF).

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  政府・日銀が目指すデフレ脱却については、「方向性そのものは変わっていない」と述べ、政策手段として導入したマイナス金利は「効果が表れるまで半年から1年半程度のタイムラグを伴う。いつ出るかも一つの大きな注目点だ」と語った。今は効果の浸透度合いを見ている段階で、まだ「軽々に判断できない」と言う。

  GPIFは厚生年金と国民年金の運用資産約140兆円を抱える世界最大の年金基金。第2次安倍晋三内閣がデフレ脱却と経済活性化を掲げる中、2014年10月末に資産構成を大幅に変更した。国内債の目標値を60%から35%に下げた一方、内外株式はそれぞれ12%から25%に、外国債券は11%から15%へ引き上げた。国内資産6割・外貨建て資産4割という分散型になっている。

  運用資産に年金特会の約2.1兆円を含めた積立金全体に占める国内債の割合は、昨年末に約38%と最低を記録。国内株は23%、外債は14%とそれぞれ過去2番目の高さとなった。外株は23%と最高を更新。4資産ともそれぞれの目標値に迫った。

  円の対ドル相場は昨年6月に13年ぶり安値1ドル=125円86銭まで下げて以降、基調を徐々に変え、今年4月には14年10月下旬以来の円高値を付けるなど、GPIFが保有する外貨建て資産の評価額を下げかねない要因となっている。高橋理事長は、為替差損を回避(ヘッジ)するための金融取引はすでに小規模で実施していると説明。特定の通貨ではなく全体的な為替リスクの抑制が狙いで、ヘッジ比率の目標や増加余地などは今後の検討課題だと述べた。

マイナス金利の債券

  GPIFは目標値からの乖離許容幅も資産構成の見直し時に変えている。国内債は従来の上下8%から10%に、国内株は6%から9%に、外株は5%から8%に拡大。一方、外債は5%から4%に縮小した。昨年発表した15-19年度の中期計画では、投機的でなく確度が高い見通しに限るが、許容幅の中で「機動的な運用ができる」と記している。

  高橋理事長は国内債の委託先に「マイナス金利の債券は買うなとか、個別に細かい指示をしてはいない」と指摘した上で、「基本的に買いにくいとは思う」が、国債利回りは「残存13年程度まではマイナスでも15年や20年はプラスなので、そこを多めに買って短いゾーンを少なめに買えば、全体の収益はプラスになる」と述べた。「GPIFがマイナス金利に投資しているということではなく、全体としてはプラスの収益になるように運用してくるようになると思う」と言う。

  日銀の黒田東彦総裁が導入した巨額の国債買い入れとマイナス金利政策を受け、国債発行残高の約7割が利回りゼロ%を割り込むなど、国債投資の運用環境は一段と悪化。先週は長期金利の指標となる新発10年物国債利回りがマイナス0.135%と過去最低に並んだほか、20年債と30年債、40年債はいずれも最低を更新した。

  GPIFは、債券・株式と価格変動の相関性が低いとされるインフラ投資やプライベートエクイティ(PE、未公開株)、不動産などオルタナティブ(代替)投資を資産全体の5%まで保有できるが、昨年末は0.04%にとどめていた。高橋理事長は「ある程度あった方が全体のリスクリターン特性が向上するのは事実だが、その前に何より国民が大丈夫かと心配している」と指摘。リスク管理の手法や枠組みを作るのが先決だと述べた。

  現在は、「リスク管理、資産、人材の3つを少しずつ底上げしていく段階」にあり、内外の債券・株式と並ぶ独立した資産クラスへの格上げを検討する状況には至っていないと説明。「非常にダウンサイドリスクの少ない優良な案件については、検討して少しずつ入れていく」が、現時点では対象外のヘッジファンド投資は当面は難しいとの見方を示した。

長期投資家の長期ビュー

  日銀は1月末に金融機関の当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用すると決定。国内の金融市場では、国債価格の大幅な上昇(債券利回りは低下)を招いたが、昨年のような株高や円安にはつながっていない。

  高橋理事長は、マイナス金利の導入で市場や消費者に驚きと混乱が広がったが、長期金利の低下で「住宅投資や消費にプラスの効果が出てくる部分もある」と指摘。景気の持ち直しを反映して債券利回りの回復や株価上昇の可能性があるとみている。GPIFの資産構成は「日本経済として次第に物価や金利が上がるだろうという前提」で作っており、マイナス金利で「長期投資家としての長期ビュー」を見直す必要はないとしている。

  政府・日銀が副作用のあるマイナス金利の導入までして日本経済を活性化しようという姿勢が「年金運用の前提となっている」とも指摘。短中期的な景気・物価の下振れはあったとしても、長期的に物価は上がっていくという方向感は妥当だと語った。

  高橋氏は、運用資産64.1兆円を抱える農林中央金庫の専務理事を昨年6月に退任し、JA三井リースの代表取締役兼社長執行役員を先月末まで務めていた。農林中金はブルームバーグ・マーケッツ誌が選ぶ「世界の最強銀行」年次ランキングで、昨年まで2年連続で2位に選ばれた。