日本銀行は金融機関が資金を預ける当座預金の一部にマイナス金利を適用しているが、金融機関に対する貸し出しに対しても、マイナス金利の適用を検討する案が浮上している。

  日銀は成長基盤強化と貸し出し増加に向けた取り組みを支援するため、貸出支援基金を設けて金融機関に対して現在0%で資金供給を行っている。複数の関係者によると、今後、日銀当座預金の一部に適用している0.1%のマイナス金利(政策金利)を拡大する際は、市場金利のさらなる引き下げを狙って、貸出支援基金による貸出金利をマイナスにすることを検討する可能性がある。

  複数の関係者によると、これにより市場金利の一層の低下を促し、経済全体を押し上げる効果が見込まれる。一方で、マイナス金利での貸し出しは金融機関への補助金ではないかという批判を招くリスクがあるほか、金利全般の低下により収益悪化懸念が強まっている金融機関にとっては、企業から一段と低利での貸し出しを求められる可能性もあるため、日銀は導入の是非を慎重に検討する方針という。

  貸し出し増加を支援するための資金供給の残高は現在24.4兆円。日銀はこのほか、成長基盤強化を支援するための資金供給と被災地金融機関を支援するための資金供給を行っており、前者の残高が5.6兆円、後者は4212億円。

  午後の東京株式相場は上昇に転換。銀行株は急伸し、三菱UFJフィナンシャル・グループが一時8.2%高、三井住友フィナンシャルグループが同6.9%高、みずほフィナンシャルグループが同7.2%高などとなった。ドル・円相場も1ドル110円台を回復した。

追加緩和予想もマイナス金利拡大は困難か

  日銀は27、28日に金融政策決定会合を開く。エコノミスト41人を対象に15-21日実施した調査で、追加緩和予想が23人(56%)と、量的・質的緩和が導入された2013年4月3日会合以降では最も高くなった。手段については、マイナス金利に対する国民の不安感や、日銀の当座預金へのマイナス金利適用でコストを負担する金融機関の反発もあり、マイナス金利の拡大は困難との見方が強い。

  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「今会合での追加緩和の有無とは別に、熊本地震を受けて、被災地の金融機関を対象に何らかの支援策が実施される可能性は高い」と指摘。具体的には「復興資金をマイナス金利で供給する、あるいは、実質的に同じことだが、復興資金をゼロ金利で貸し出し、それに見合う分の当座預金に対して0.1%の付利を与えるといった可能性が考えられる」という。

  河野氏は「将来的には、被災地に限らず、貸し出し増加支援策として、こうした政策がとられる可能性もある」とみている。

  クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは「4月会合を現状維持とすることは困難であり、何らかの追加緩和措置の決定は不可避」と指摘。手段としては「量的緩和拡大の可能性は極めて低く、質的緩和(資産購入)拡大、マイナス金利引き下げが基本的なオプション」とした上で、「貸出支援基金オペの金利を0%からマイナス0.1%ないしマイナス0.2%に引き下げる措置と同時での決定」を予想する。

金融機関へのボーナス

  マイナス金利での貸し出しはいわば日銀による金融機関へのボーナス。こうした政策に関心が広がっている背景に欧州中央銀行(ECB)の決定がある。ECBは3月10日の理事会でマイナス金利を0.3%から0.4%に拡大。同時に、これによる銀行収益の圧迫懸念に配慮し、ベンチマーク対比で貸し出しを増やした銀行に、その程度に応じてECBからの貸し出しに最大マイナス0.4%まで金利を付与することを決めた。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは8日付のリポートで、今会合で「マイナス金利のコストを負担している金融機関の軽減を狙った措置も検討されるかもれない」と指摘。「日銀も同様にマイナス金利ボーナスを付ければ、金融機関にとって政策金利残高に適用されるマイナス金利のコストを相殺できるオプションが生まれる」と指摘する。

  大和証券の永井靖敏チーフエコノミストは21日のリポートで、日銀としても「ゼロ回答という選択肢はなさそうだ。何もしないと、日銀の危機対応能力に対する疑念が浮上する」とみる。もっとも、追加緩和余地は乏しく、金利、量、質による追加緩和のハードルは依然高いとした上で、被災地支援や成長基盤強化、貸出支援基金の貸出金利を「マイナス圏に引き下げることもあり得る」と予想する。
 

貸出マイナス金利に懐疑論も

  一方、マイナス金利での貸し出しには懐疑論もある。ドイツ証券の山下周チーフ金利ストラテジストは13日付のリポートで「市場では、日銀がECBに倣って一部マイナス金利が適用される貸出支援基金オペを導入するとの見方もあるようだ」とした上で、「意味のある政策とは思えない。日本での貸し出し需要の低迷は借り入れ需要にあることは明白だ。企業は金利が低ければ借りるわけではなかろう」としている。

  みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストも「補助金が出ると分かってしまえば、貸出金利自体がその分下がるので、結果的に銀行の収益基盤が痛むという流れは変わらない」と指摘。経済、物価に与える影響は「あまり大した効果はない。需要の問題であり、補助金をつけて金利を下げさせれば何とかなるというのは、発想として無理がある」としている。

  UBS証券の青木大樹シニアエコノミストは「そもそも企業の借り入れ意欲自体が弱い。企業が借り入れをしようとしなければ、銀行としても貸し出し先がない。経済への影響は限定的だろう」と指摘。日銀が単独で政策対応しても、成果を得るのは難しく、「補正予算や成長戦略といった形で需要を作る政策と組み合わせないと効果は出てこないだろう」としている。

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