過去最大の外債爆買いでも進まぬ円安、為替ヘッジが黒田日銀の妨げに

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  • 国内金利の低下で、為替ヘッジした米国債の妙味が高まる
  • マイナス金利政策発表後、外債買越額は過去最大に

日本銀行のマイナス金利政策下で運用難に苦しむ国内投資家は、黒田東彦総裁の思惑通りに外国債券に活路を求めている。海外への資金流出は円安要因となり、物価上昇に寄与するはずだが、円高に備える為替ヘッジが妨げとなっている。

  円相場は黒田総裁がマイナス金利政策を導入した1月末から対ドルで約11%上昇。ブルームバーグがまとめた市場関係者の年末予測は中央値で1ドル=118円だが、100円から130円程度に分散している。米10年物国債利回りから為替ヘッジのコストを差し引くと0.67%前後。日本国債で最も残存期間が長い40年債の0.425%より6割高い収益率が見込める。

  市場利回りがゼロ%を下回る日本の国債は発行残高の約7割に及ぶ。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは先月マイナス0.135%と過去最低を記録。14日は2年債がマイナス0.26%、30年債が0.385%、40年債が0.405%といずれも最低を更新した。米10年債利回りは約5カ月間で約60ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下したが、米利上げペースの鈍化観測を受けて為替ヘッジコストはやや縮小しつつある。

  ニッセイアセットマネジメント債券運用部の三浦英一郎リードポートフォリオマネジャーは、国内では「超長期ゾーンでも一昔前の短期金利くらいの収益しか得られない」と指摘。投資家が「外債に目を向け、為替ヘッジ後でプラスの利回りを求める流れは継続する」と読む。為替ヘッジコストの縮小は「期末要因に加え、米利上げペースの鈍化観測も影響している。ただ、日本人の外債需要が旺盛なので、大幅な縮小は難しい」とみる。

  財務省の統計では、中長期債の買越額は3月に前年比2倍超の5兆2098億円とデータでさかのぼれる2005年以降で最大を記録。マイナス金利政策発表後の2カ月間では8兆7705億円と昨年度全体の54%を占めた。預金取扱機関は3月に2兆7058億円と第2次安倍晋三内閣の発足以降で3番目の大きさ、生命保険会社は1兆4153億円と2カ月連続で過去最大の買越額を更新した。

  ブルームバーグによると、海外中長期債の買越額は1月31日から3月26日までの8週間で8兆9239億円に達した。特に3月13-19日の週は2兆2769億円と最大を記録。季節的に期初の売りが膨らんだ直近2週間は合計2兆7308億円の売り越しに転じたが、売越額は過去最大だった前年3月29日-4月4日の3兆円強を1割余り下回った。

米利上げペースが影響

  円を元手に購入する外債の為替ヘッジコストの基となる円と外貨のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)では、ドルとの金利差が3カ月物で64bp程度と1年前に比べ約3.6倍に達している。米連邦準備制度理事会(FRB)が06年6月以来の利上げ局面に入る一方、日銀が異次元緩和とマイナス金利政策を推進していることが背景だ。

  ブルームバーグによると、ベーシススワップ取引を通じて円をドルに3カ月の間交換すると、現在は40bp台の上乗せ金利が求められる。2年前は10bp台だったが、FRBの量的緩和縮小や世界的な金融規制の強化を背景にドルへの需要が強まっている。米利上げ開始の観測が高まった昨年11月には80bpとデータでさかのぼれる11年8月以降で最大だった。ただ、イエレンFRB議長が、利上げは海外経済の動向も考慮して慎重に進める方針を示した先月29日には30bpまで一時縮小した。

  UBS証券の井川雄亮デスクアナリストは、3月は「日銀が追加緩和を見送る一方、FRBはよりハト派的になった」としながらも、ベーシススワップがドル調達の重荷になっている状況が解消されたわけではないと言う。

為替リスク量に限界

  日銀は2%の物価目標を達成するため、金融機関への資金供給量を年50兆円も積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。翌年10月末の追加緩和で年80兆円に拡大した。黒田総裁は導入直後から、投資家を国債から株式や外債などリスクがより高い資産に向かわせる「ポートフォリオ・リバランス」効果を波及経路の一つに挙げている。

  2月中旬からは金融機関の日銀当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用。イールドカーブの起点を押し下げ、巨額の国債購入とともに、金利全般により強い下押し圧力を加えている。黒田総裁は先月7日の講演で、マイナス金利政策は「株安・円高の方向に力を持っているはずだ」と説明。今週13日にはニューヨークで、導入していなかったら「日本の金融市場はいっそう悪くなっていただろう」と語った。

  デフレからの脱却を経済の最優先課題に掲げ、日銀に大胆な金融緩和を求めた安倍内閣が発足した12年12月。円の対ドル相場は85円前後だった。黒田総裁による量的・質的緩和の導入や追加緩和を経て、15年6月に125円86銭と13年ぶりの安値を記録。その後は世界経済の減速懸念や金融市場の混乱で円がリスク逃避先の対象として注目を浴び、日銀によるマイナス金利の導入にもかかわらず、今週11日には107円63銭と14年10月下旬以来の高値を付けた。

  SMBC日興証券の森田長太郎チーフ金利ストラテジストは、日銀の異次元緩和とマイナス金利政策は「機関投資家のポートフォリオ・リバランスに働きかけるのが波及経路」だが、「銀行や生保が取れる為替リスクには限界があり、外債投資を通じた円安は期待薄だ」と指摘。「銀行は外貨をファンディングするし、生保のヘッジ比率はそれほど大きくは変わらない」とも述べた。

期待とは投機のこと

  日銀が異次元緩和を導入してから3年余り経っている。だが、黒田総裁の当初の思惑とは裏腹に、インフレ率はゼロ%前後で低迷している。日銀企業短期経済観測調査(短観、3月調査)の企業物価見通しでは、1年後の予想値が0.8%と昨年12月の前回調査より0.2ポイント低下。日銀が今週公表した「生活意識に関するアンケート調査」によれば、1年後の物価が「上がる」との回答は75.7%と量的・質的緩和の導入直前の水準に逆戻りした。

  SMBC日興証の森田氏は、異次元緩和や追加緩和を受けた円安は「実際の投資資金が演出したというより、投機によるところが大きかった」と分析。「マネタリーベースが増えると円安になるという理屈自体が確固とした因果関係とは言えない。金融緩和で期待を円安方向に向けたが、その期待というのは投機のことだった」と話した。

  米商品先物取引委員会(CFTC)の統計では、ヘッジファンドや大口投機家による円の買越幅が5日時点で6万73枚と08年3月以来の高水準となった先月8日時点に迫った。ブルームバーグが先月実施したエコノミスト調査では40人中37人が年内の追加緩和を予想。具体的な手段ではマイナス金利の拡大が35人中28人で最も多かった。

  ニッセイAMの三浦氏は、米利上げが進んで日米金利差が拡大すれば「今年度後半には円安・ドル高の軌道に戻れる可能性がある」と言う。生保は「為替ヘッジした外債投資を続け、円高懸念が後退すればヘッジ外しの機会をうかがう」として、仮に「世界経済が景気後退に陥れば、ヘッジ付きのまま保有を続ける」という両にらみの姿勢で臨むとみている。

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