スワップもマイナス金利、新規融資の重しに-黒田緩和が機能せず

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  • 3月の貸し出し3年ぶり低い伸び、スワップレートはマイナス5bp
  • 「スワップ機能がないと変動では貸しづらい」とクレディアグリコル

日本銀行のマイナス金利政策の影響で、金利変動リスクをヘッジするスワップ取引が機能しにくくなっている。企業が借り入れをためらうことにつながり、日銀が目指す貸し出し増加の阻害要因になる可能性がある。

  企業が変動型の借入金利を固定化する時に払うスワップレートの1年物は、1月29日のマイナス金利発表前には9ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)近辺で推移していたが、2月からマイナス圏に突入し現在マイナス5bp近辺。企業にはコスト負担が発生し、金利スワップ契約が困難になっている。

  日銀のマイナス金利政策は、民間銀行が預けている日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を適用、預けにくくし、銀行がその分を貸し出しに回すことを促している。しかし、日銀統計によると3月の銀行貸し出し残高は前年比2%増と、黒田日銀が量的・質的金融緩和を導入した直前(13年3月)以来の低い伸びにとどまっている。

  銀行は調達コストに応じた変動型で貸し出すことが多く、利払いを固定化したい企業は、変動で借りた金利を金利スワップでヘッジできないと利払い額が変動するリスクにさらされる。クレディ・アグリコル銀行シンジケーション部長の小田智之氏は、「金利スワップ機能がないと銀行は変動では貸せないので、固定貸しを迫られる」と話す。固定型は調達コストの変動次第で利ざやが縮小するため、「銀行は固定貸しが苦手だ」とし、現状では新規融資にちゅうちょしているとの見方を示した。

  三井住友信託銀行マーケット金融ビジネスユニット次長の小松建夫氏は、「スワップ取引が2月からマイナス金利の影響を受けて全体としてのアクティビティが下がっている」と指摘。企業のファイナンス動向について「変動借入を固定化するのは全体で減っているかもしれない」と述べた。

混乱

  利払い額を安定させるため、変動金利から固定金利に切り替えたい企業は、逆に変動型に切り替えたい他社との間で、金利部分を交換するスワップ取引を結ぶことが多い。しかし、マイナス金利下では、相手から受け取るはずの変動金利がマイナスになることで支払いが生じる。銀行への返済金利はゼロ以下にはできず、企業にはコスト負担が掛かる。

  三菱商事系の不動産ファンド会社、ダイヤモンド・リアルティ・マネジメントの神出創太郎リート事業部長は、スワップが今後の借り入れで活用できるかは「はっきりしない」としたうえで、「マイナス金利でうれしい、どんどんお金を借りよう、銀行も貸そうねという印象は感じられない」と話す。

  マイナス金利政策の下で、金利スワップ以外にもファイナンスの現場では混乱が起きているようだ。社債金利は、ベースとなる国債利回りに企業の信用力を表すスプレッドを加味して決まるが、同政策以降、年限10年以下の国債利回りはマイナス圏に陥っている。

  東急電鉄IR課の福島和芳氏は、社債を発行しようとしても「従来型の市場金利にスプレッドをプラスして価格を決めるというよりも、ゼロ以下にならないように価格を決める状況になっている」と話し、今後の借り入れも含めてマイナス金利への資金調達面での対応は定まっていないと語った。

  クレディ・スイス証券の三浦毅司アナリストは、銀行が融資の「量を拡大したいと思っている」とみているが、金利については「マイナスまでやっていっても融資を伸ばしたいというスタンスは取っていない」と話している。金融取引を専門とする弁護士・学者による金融法委員会は、基準金利にスプレッドを加えた貸出金利がマイナスになっても「特段の事情がない限り、貸付人の支払義務は発生しないと考えられる」としている。

会計処理

  三井住友信託銀行の小松氏は、金利スワップ取引が減っている理由について、固定金利の融資が増えていることに加えて、「金利スワップの特例処理に対する会計処理が最終決定されていないため、スワップ取引を見送っている顧客も多いのではないか」と推察している。

  企業の借り入れ時に使われる金利スワップは、会計上の「特例処理」が認められており、時価評価をする必要がなかった。一方、スワップレートがマイナスの状況では特例処理に必要な条件を満たさない可能性がある。企業会計基準委員会は、16年3月期までの金利スワップは特例処理を認めるものの、それ以降は未定としている。

(第10段落を加筆しました.)
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