白井前日銀委員:マイナス金利拡大、今は全く考えるべきではない

  • 効果と副作用の見極めを、性急な判断は避けるべきだ-白井氏
  • 国債買い入れ、総裁任期の2年続くか疑問-慎重さ非常に必要

3月で日本銀行審議委員を退任した白井さゆり慶応義塾大特別招聘教授は、日銀の「マイナス金利付き量的・質的緩和」について、マイナス金利の拡大は今は考えるべきではないと述べるとともに、長期国債の買い入れ拡大にも極めて慎重な対応が必要だとの見解を示した。

  白井氏は8日、退任後初のインタビューに応じた。白井氏はマイナス金利政策について「現時点では効果と副作用をしっかり見極める時ではないか」と指摘。「新しい枠組みなのであまり性急な判断をせず、じっくり見極めた方がいい」と主張し、マイナス金利の拡大は「今は全く考えるべきではない」と述べた。

  大規模な長期国債の買い入れに関しても、マイナス金利の導入で量的・質的緩和の持続性が変化したと指摘する。日銀が金利下限を設けずどんな価格でも買う姿勢をみせていることから、「ある程度の期間はできるかもしれない」としながらも、黒田総裁の残り任期である2年間にわたって「継続することが難しくなる可能性がある」と買い入れの持続性に疑問を呈し、拡大には「非常に慎重さが必要だ」と語った。

  欧州中央銀行(ECB)は3月10日、マイナス金利を0.4%に拡大した。日銀はマイナス金利の「Q&A」でスイスは0.75%、スウェーデンは1.1%、デンマークは0.65%など「大きめのマイナス金利が適用されている」と紹介。黒田総裁は3月16日に日銀のマイナス金利は0.5%近辺への下げも「理論的な可能性として余地はある」と発言している。元日銀副総裁の岩田一政日本経済研究センター理事長はインタビューで、下げ幅は1%が最終的に1つのめどになるとの見方を示した。

  白井氏はマイナス金利の下限について「1%というのは否定はしないが、それほど下げ余地が大きいとは思わない」と述べた。デンマークなど欧州の国は「キャッシュレス社会なので現金へのシフトが起きにくく、下げ余地も大きい」一方、「日本はもともと欧州より現金需要が強く、それほど電子取引も進んでいないので、現金シフトがもっと早く起こる可能性がある」という。

追加緩和

  日銀は1月に0.1%のマイナス金利導入を決定。声明文で「今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる」と表明した。3月の決定会合では政策を維持したが、4月27、28の両日に次の金融政策決定会合が迫っている。ドル円相場は7日の海外市場で一時、1年5カ月ぶりとなる1ドル=107円台まで円高が進行。2014年10月の追加緩和後に進んだ円安が帳消しとなった。市場には日銀が早くも追加緩和に追い込まれるとの見方が広がり始めている。

  追加緩和期待の高まりに対して白井氏は、「今、急速な円高の進行で厳しいのは事実だが、追加緩和をしてもそういった状況がなくなるとは限らない」と述べ、追加緩和をすれば「催促相場に入ってしまう可能性もある。新しい投機の動きも呼ぶだろう」と指摘、そうした事態は「避けるべきだ」と語った。

  黒田総裁の就任後、量的・質的緩和を導入して3年が経過したが、生鮮食品を除くコア消費者物価(CPI)の前年比は足元で0%近傍で推移しており、2%の物価目標の達成のめどは立っていない。月末の会合では経済・物価情勢の展望(展望リポート)をまとめ、新たな物価見通しを示すが、2%達成時期は「17年度前半ごろ」から再度先送りされるとの見方もある。

テーパリング

  白井氏は、2%の物価目標の必要性の理解が国民に深まっていない中で、マイナス金利は「感覚的にも良いイメージを与えなかった」と指摘。「ここは一歩引いて、なぜ2%が必要なのか、どうして量的・質的金融緩和をやったのか、それによってどういう効果が出て何が課題なのか、もう少し国民目線に立って冷静に発信していく時ではないか」と指摘した。

  さらに、黒田執行部の任期が残り2年となった中で、2%目標を達成できるのか、達成できないとすればその背景は何か、「原点に戻り、行動の前に日銀が何をやっているのかを国民に伝えることに最善の努力をすべきだ」と主張。「それをしないと、政策を打っても国民に理解されなければ効果は落ちてしまう」と語った。

  今後の政策の方向性として、単なるテーパリング(長期国債の買い入れの縮小)を行うと「非常にマイナスの影響があるので注意深い準備は必要だが、そろそろそんな時期だと思う」と述べた。仮にマイナス金利を拡大するとしても、「たとえば資産買い入れで調整するといった組み合わせもあり得るだろう」と指摘、そのためにも「マイナス金利の効果と副作用をしっかり見極める必要がある」と述べた。

  白井委員は3月31日で任期満了になり、桜井真サクライ・アソシエイト国際金融研究センター元代表が4月1日付で日銀審議委員に就任した。白井氏は13年4月の量的・質的金融緩和の導入、14年10月の追加緩和に賛成したが、1月29日の金融政策決定会合で決定したマイナス金利政策には反対票を投じた。審議委員ではマイナス金利に反対した石田浩二も6月29日に任期満了を迎える。

  審議委員は、昨年6月に退任した森本宜久審議委員の後任にトヨタ自動車相談役の布野幸利氏、昨年3月に退任した宮尾龍蔵前審議委員の後任にリフレ派エコノミストの原田泰元早稲田大学教授がそれぞれ就任。布野、原田両委員と黒田東彦総裁、岩田規久男、中曽宏両副総裁がマイナス金利に賛成した。1月の会合でマイナス金利に反対したのは白井氏と石田氏のほか、木内登英、佐藤健裕各委員だった。

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