元スパイが確率を予測、テロや核実験-資産価格や中銀政策にも応用へ

ジェームズ・シン氏は10年余り前、東アジア担当の上級幹部として米中央情報局(CIA)で働いていた。その頃は気象予報士がうらやましかった。北朝鮮が1カ月以内にミサイルを試射する確率を、例えば明日の降水確率のように予測できたらいいと思った。もちろんそれは夢だった、最近までは-。

  シン氏と14人のチームはプリデータという会社で、政治的ボラティティやリスクを数値化するソフトウエアを開発した。オンラインでの会話やコメントから大量のデータを集めて過去のパターンと比較し、確率を弾き出す。シン氏はこれを、マイケル・ルイス氏の小説「マネーボール」に出てくるセイバーメトリクス(野球においてデータを客観的に分析して選手の評価や戦略を考える手法)のようなものだという。過去のパフォーマンスに関するデータを大量に集めることで「チームの大勢の選手についてどんな打撃や投球をするか予測できる」と同氏は野球にたとえて説明した。

  プリデータは毎日、約1000件のツイッター投稿と1万ページのウィキペディア、5万本のユーチューブ動画、約200カ国からの新聞・雑誌数十紙をモニターする。個別企業のニュースや英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる議論、世界の中銀の金利決定など300ほどのトピックをカバーする。

  最も重要になるのは過去のデータだ。例えば、今年3月22日に起きたブリュッセルでのテロは予測できなかった。過去にベルギーでのテロ事件がほとんどないからだ。一方、フランスについては昨年11月13日のテロの前に13件の類似事件があった。これに基づきプリデータのモデルは事件の1カ月前に、少なくとも61%のテロ発生確率を示唆した。昨年12月27日には北朝鮮が45日以内に大量破壊兵器をめぐり何らかの行動をとる確率を68%と算出。約2週間後の今年1月6日に同国は核実験を実施した。

  シン氏はCIAを経て米国防省で東アジア担当の次官補を務めた。2014年にはプリデータで使っているテクノロジーの開発を始めた。母校のプリンストン大学で教えながら、投資管理のための分析ソフトを開発するケンショー・テクノロジーズの諮問委員会のメンバーになった。

  ケンショーのダニエル・ナドラー最高経営責任者(CEO)とともに実験を重ね、南アフリカ共和国の労働組合員のオンライン会話をモニターする試作品を作った。ウィキペディアのページなどでの会話が活発になると、その後に鉱山ストが起こることが分かった。ストの後には金とプラチナ価格が高騰した。シン氏はさらに洗練されたアルゴリズムを開発するため、教えていた学生の1人、アンドルー・チョイ氏をリクルートした。

  ソーシャルメディアやインターネット上の会話をモニターして暴動や抗議行動の兆候を発見し顧客に警告する企業は幾つかあるが、アルゴリズムに基づいて発生確率を出すのは今のところプリデータだけだ。同社は既に、この方法を株価指数や為替、商品相場、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドなどに応用し始めている。すると、集めたデータが発するシグナルとさまざまな資産価格に相関性があることが分かった。中銀総裁の記者会見の動画についてのやり取りもモニターし、金利決定の予測に役立てているという。

原題:Ex-Spy Aims to Predict the Future With Web-Decoding Algorithm(抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・マーケッツ」誌に掲載.)
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