【コラム】市場には聞き心地よかったイエレン議長講演-エラリアン

米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が29日に行った講演に対し、市場は速やかに予想通りの反応を示した。市場は発言内容について、米金融当局の考えをめぐる比較的ハト派的なシグナルと解釈した。

  議長発言が伝わるとすぐに、リスク資産が値上がりして米国債利回りは低下、ドル安となり、ボラティリティ指数(VIX)も低下した。こうした基調を維持するには、世界の経済環境が比較的安定的に推移するとの想定の下、短期と長期の二つの政策のシグナルが必要となろう。

  大いに注目されたニューヨークのエコノミッククラブでの講演でイエレン議長は、米経済について注意深く慎重な分析を示すとともに、米金融当局者が保持しなければならない微妙なバランスについても説明した。議長は総じて強弱入り交じる年初来の米経済の現状に、労働市場の改善持続といった心強い兆候が見られる点を認めた。

  その一方で、世界的な景気鈍化傾向やドル相場、中国の通貨政策に対する市場の反応など、「対外」リスクの存在も強調。成長への一部の構造的な逆風の影響や、インフレ見通しをめぐる異例の不確実性への認識も示した。

  イエレン議長はこのように慎重な経済分析と共に、最大限の雇用と物価安定の実現というFRBの二つの責務の一環として、米金融当局が一段の成長促進のためにできることに関しても、慎重な評価を示した。

  議長は米金融当局の政策手段が尽きていないと指摘するとともに、全般に慎重なアプローチの下、政策面で注意深い漸進主義を取る必要性を強調した。これは金融当局が金融のボラティリティを抑制し、資産価格を押し上げることに慣れっことなった市場には聞き心地がよいコメントだった。

長短双方の要件

  しかし、イエレン議長は金融当局が効果的であり続けることには限界があるとも警告。日本銀行や欧州の中央銀行による導入が契機となったマイナス金利についての議論にも、立ち入らなかった。

  講演直後の反応から判断する限り、市場は議長のメッセージを金融当局からのサポート継続を示唆するものと受け止めて気に入ったようだ。リスク資産全般の上昇の中で、株価と社債相場は上昇。政策金利の将来の道筋をめぐる見通しをトレーダーが引き下げたことで米国債利回りは低下した。VIXは低下しドルが下落した。

  短期的にこうした動きを維持するには、イエレン議長のメッセージに同僚の当局者が向こう数日間にわたり支持を表明することが求められるが、それは確実ではない。異例の金融政策への過度の依存が続いて引き起こされる市場や経済への打撃への懸念と相まって、経済をめぐるまちまちなシグナルを背景に、一部の当局者は先週、一層慎重なメッセージを発するようになった。4月の利上げが現実にあり得ると示唆しているように受け止められる当局者もいる。

  長期的には、新たな局面が課題の列に加わる。米金融当局が景気刺激策として市場への異例の支援を続ける意向であっても、この手法の効果は決して確実ではない。そしてこれは、誰の予想よりもずっと長い間実施されてきた政策の効果が薄れるという問題に限られない。今後の金融の安定性への含意も含め、米金融当局だけが景気刺激の任に当たっている実態からの予期せぬ影響への懸念も高まっている。

  最後に、米国と世界の経済双方の安寧にとって恐らく最も重要なのは、イエレン議長の講演で最大の注目点は議長自身がカバーした特定の問題に限定されない可能性があることだ。議長の発言とその文脈は、金融当局にはコントロールできない理由によって、当局自体の信認と政治的自主性を損ないかねない三つの力にますます左右されるようになっている状況を示唆すると理解できるかもしれない。その三つの力とは次の通りだ。

  • 金融当局が稼いだ時間をうまく活用できずにいる政治家たちが挙げられる。彼らは米経済の循環的および構造的課題への必要かつ包括的な政策を講じず、国際的な政策協調で指導的役割を果たす米国の能力を制限している
  • 構造的および循環的な逆風が重なり、欧州や一部新興市場の政治的文脈がさらに複雑化する中、世界経済は緩慢ながらも持ちこたえてきた成長の勢いを失いつつある
  • 経済および企業の基調的ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)とは無関係に、米金融当局に無理強いできると感じている金融市場も指摘できよう

(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)

原題:Yellen Tells Markets What They Want to Hear: Mohamed A. El-Erian(抜粋)

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