シャープを勝ち取った鴻海・郭会長の飽くなき執念

  • 積極姿勢と抜け目ない戦略で産業革新機構を下す
  • 負債が多く、容易でないシャープ再建

鴻海精密工業が日本の政府系ファンド、産業革新機構を下してシャープ買収を実現した背景には、鴻海を創業した郭台銘(テリー・ゴウ)会長の執念ともいえる強烈な意志があった。

  鴻海は米アップルの「iPhone(アイフォーン)」やソニーの「プレイステーション(PS)4」などを受託生産する世界最大の電子機器受託製造会社で、4年前からシャープへの出資に意欲を見せていた。今回のシャープ買収をめぐっては、一時は政府系の機構が有利とみられていたが、逆転に成功。ここ1カ月間はシャープの偶発債務問題や業績悪化を材料に減額を求めるしたたかな交渉ぶりを見せた。

  買収交渉が佳境に入った1月末、郭会長は日本に飛んでシャープ幹部や主力銀行に買収計画を自ら説明、買収提示額を6000億円から6600億円に引き上げた。シャープは2月4日の取締役会で鴻海案と機構案を検討した上で、1カ月をめどに契約締結できるよう協議するとした。

  翌5日、郭会長は急きょ、シャープの大阪本社を訪れ、高橋興三社長らと面会した。スーツの下には真っ赤なセーターと、中国ではめでたい色とされる金色のスカーフをまとっていた。面会後、「正式調印したかったが、多くの法的手続きがあり今日は完成しなかった」と述べ、シャープから優先交渉権を得たと語った。

  シャープは郭会長の発言の直後、優先交渉権を与えたことを否定。だが郭会長は「必ず成功する。90パーセントは乗り越えた」と強調し、シャープとの交渉の主導権を握った。

銀行を説得

  主力銀行である三菱東京UFJ銀行みずほ銀行に対しては1月末、両行が保有するシャープの優先株を買い取ると持ちかけた。機構案では、銀行に優先株の消却を求めていた。積極的な交渉術により流れは徐々に鴻海に傾いていった。

  社団法人・会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ代表理事は「テーブルの上にもっとよい提案があるのに、機構が税金を使うことになれば、外国の投資家にも国内の有権者にも悪いメッセージを送ってしまうということに誰かが気付いたのではないか」と話す。

  2010年のブルームバーグ・ビジネスウィークによると、郭会長は母親から7500ドルの借金をして台北郊外で会社を興した。郭氏は母の資金で白黒テレビ用のプラスチック製チャンネル製造機を2台購入した。

  飛躍のきっかけは1980年、ゲームメーカーの米アタリ向けにジョイスティックケーブルとゲーム機をつなぐコネクターを供給したことだった。郭会長は部品の供給に加えて開発技術の特許を申請し、ケーブル製造など新たな分野に進出していった。

液晶

  郭会長は当初から、シャープの技術を評価していた。2月5日には記者団に「シャープの若いエンジニアは素晴らしく、彼らから学ぶことは多い」と述べた。ただ、シャープが強みとしている液晶技術について「かつては最先端だったが、ここ2-3年は韓国勢が優勢になってきた」と分析した。

  サンフォード・C・バーンスティーンのアナリスト、アルベルト・モエル氏は、シャープの根本的な問題は成長を液晶事業に頼り過ぎた点にあると指摘する。三重県亀山市と大阪府堺市に液晶工場を建設、投資額は1兆円に及んだ。液晶価格が下落し、円高が戦後最高水準まで進むにつれて投資が収益を圧迫した。

  12年3月期から15年3月期までの4年間にシャープは1兆1300億円の損失を計上した。主要取引銀行が融資などで支えたが、成長資金にこと欠く状態となった。

  鴻海と並んでシャープの買収に乗り出した産業革新機構は「官頼みの企業再生」という批判を浴びた。日本の成長を促す投資をするのが本来の役割だが、不振を極めるシャープを買収することは革新ではなく救済というイメージを拭い去ることができなかった。

形勢逆転

  事情に詳しい複数の関係者によると、機構の提案はシャープ本体に注入する3000億円のほか、資産の売却や銀行からの金融支援などで構成されていた。1月半ばの時点では機構案が銀行を含め支持を得ていたという。

  機構が優勢と言われるなか、鴻海は関係者の説得に動いた。事情を知る関係者によると、郭氏は銀行に優先株の買い取りを提案したほか、日本の政府当局者1人に鴻海案を売り込んだ。みずほフィナンシャグループの佐藤康博社長の理解を得たことも奏功した可能性がある。

  潮目が変わったのは1月30日。郭会長は大阪本社でシャープの取締役らと面会し、増額した提案内容を説明した。事情を直接知る関係者によると、機構からは谷山浩一郎執行役員が説明に当たったが、シャープの社外取締役の住田昌弘氏と齋藤進一氏らが計画の実現可能性について問題視し、銀行が優先株の消却や融資の株式化に応じるつもりがあるのかどうかを質したという。

  郭会長の戦略的な交渉が功を奏し、ようやくシャープの買収が決まった。郭会長は30日に発表した英文の共同発表資料の中で、シャープのみなさんと働くことを楽しみにしているとし、シャープの潜在力を引き出せると確信していると記した。だがシャープを再建し、本当の意味で買収を成功させることは簡単ではない。ブルームバーグデータによると、シャープの昨年末時点の有利子負債は7930億円と、現金や換金可能な資産の3倍以上になる。

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