家庭用エアコンやテレビも手掛ける総合電機メーカーの三菱電機が、自動運転に向けた車両制御システムの開発で競合他社を急速に追い上げている。地上を走る車に必要なデータを宇宙から送る人工衛星も自社製造するなど他社にない強みをアピールし、既に一部のシステムで受注を獲得。2020年以降の本格的な自動運転普及に向け、態勢を整えている。

  兵庫県赤穂市にある三菱電機のテストコースで3月18日、各種センサーやレーダー、カメラなど自社製の計測機器を搭載した開発車両がデモ走行した。発進から時速40キロメートル前後まで加速、白線で一時停止など一連の動作にはドライバーが関与せず、直角カーブを含む狭い道を左右に設置されたコーンを倒すことなく走り抜けた。

  三菱電機が自動運転技術の開発を本格的に始めたのは今から2年ほど前。昨秋の東京モーターショーでコンセプトカーの出展にこぎ着けた。自動車機器事業本部で開発を統括する足立克己技師長によると、車線維持システムと自動ブレーキシステムで自動車メーカーから受注を得ており、17年度から量産を始める予定だと明らかにした。顧客の社名は明らかにしなかった。より高度な自動運転システムについては自動車メーカーが対応車種を投入する20年ごろの納入を目指すとした。

  誘導ミサイルなど軍事用途で培われたミリ波レーダーをはじめとする高精度センシング技術、機械の操舵でもなめらかで自然な乗り心地を可能にする電動パワーステアリングシステムなど、自動運転に必要な要素技術が社内にあり、それらを組み合わせることて「大変速いタイミングで開発できた」と足立氏は話した。

  足立氏によると、軍事や宇宙関連部門の社内の技術者とも頻繁に会って情報交換をしているといい、三菱電機について「一つの会社の中でいろんな事業を持ったシームレスな技術をうまく流用できる環境を持つ数少ない企業」と指摘。現行GPSより高い位置から地上の情報を取得して車両に送信する準天頂人工衛星も三菱電機製となることから、他社にできない品質の車両制御システムをつくる自信があると話した。

  調査会社のIHSオートモーティブの棚町悟郎アナリストは、三菱電機が強い航空・宇宙分野は自動車よりも高い技術が求められるのは確かとする一方で、コスト面の要求水準は車向けの方がはるかに厳しいと指摘。「普及車用に落とし込むぐらいまでコストを下げられるかはクエスチョンがつく」と話した。

国内はアイサイト先行

  トヨタ自動車など国内自動車メーカーの多くは東京五輪が開催される20年をめどに高速道路上での完全自動運転の実現を目指している。それに先立ち、自動運転の要素の一部を含んだ先進運転支援システム(ADAS)を製品化する大手部品メーカーも出ている。

  国内では富士重工業と日立オートモティブシステムズが共同開発し、08年に投入したアイサイトが先鞭をつけた分野で、デンソーも昨年発売のトヨタの新型プリウスに採用された予防安全パッケージの基幹部品を開発。トヨタ向け限定の技術ではなく、他メーカーへの販売も進めるとしていた。海外では独ボッシュやコンチネンタルなども同様の製品を投入している。

  既に完成品を市場投入している競合他社に対して、足立氏は自社が「少し出遅れている感はあるかもしれない」と前置いた上で、ベースとなる技術は持っており、商品投入のタイミングでは他社と比べても正確性や信頼性など「技術力としては勝るものが世に出せる」と話した。IHSオートモーティブは自動運転の先駆けとなる高度運転支援システムの世界市場が21年までに170億ドル規模(2兆円程度)になると予測している。

  内閣府などのウェブサイトによると、準天頂衛星システムは衛星からの電波によって位置情報を計算する日本版GPSとも呼ばれる衛星測位システムで10年度に初号機が打ち上げられた。16、17年度にかけてさらに3基の衛星の打ち上げ後、18年度から正式なサービスが開始される予定。約3万6000キロメートル上空の軌道上を周回し、米国のGPSより高い位置で、衛星が常に日本の真上にあるようになり、全国をほぼ100%カバーして山やビルなどに影響されない高精度の衛星測位サービスの提供が可能になるとしている。

長期的には事業の柱に

  三菱電機の足立氏によると、準天頂衛星は地殻変動による地形の変化なども含めて約1秒ごとに更新データを送る。GPSの位置把握は10メートルほどの誤差が生じることもあるが、準天頂衛星は「センチメートル級、ほぼ10センチぐらいの精度」になるとしている。

  政府は23年度までにさらに3基を打ち上げる計画で、計7基すべてが自社製になる見通しとした上で、「地上でそれを使うのも先行してやるべきであろうということが会社の意思」でそれを踏まえて準天頂をうまく活用した自動運転に取り組むことを決めたと話した。

  準天頂衛星からのデータを利用して自動運転用の日本地図を作成する取り組みも進められており、昨年10月、内閣府の「ダイナミックマップ」構築に向けた調査検討業務を関連企業7社で構成する企業連合が受託。三菱電機はゼンリンなど主に地図メーカーで構成されるこのコンソーシアムの代表を務めている。

  三菱電機の決算書によると、自動車事業の売上高は産業メカトロニクス部門に含まれるが、内訳は非公表。足立氏によると、そのうち自動車関連が部門全体の売上高(15年3月期で1兆2827億円)に占める割合は約半分とした上で、自動運転関連の製品について長期的にはオルタネータなどの回転機や電動パワステなど現在の主力製品と「ほぼ互角になるぐらいにもっていきたい」と話した。

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