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【コラム】米金融当局「緩やかな正常化」で自縄自縛も-コチャラコタ

米金融当局者は向こう3年間程度の金融政策の方針を要約する際、「gradual normalization(緩やかな正常化)」の2語をよく使う。これは金利がゆっくりと上昇していくことを意味する。だが、それとは違う対応を必要とする経済状況になった場合、この文言が問題の種となる。

  米金融当局者は公的な発言や経済予測の中で、緩やかな正常化とは今後3年間の各年について、政策金利を1ポイント未満の幅で引き上げることだとの考えを示唆してきた。市場の信頼醸成につながるガイダンスを提供するのが当局者の狙いだが、この戦略が有効に機能するのは、米経済が当局者の予想通りの軌道をたどった場合のみだ。

  来年にかけてインフレ圧力が予想よりも高まったケースを想像してほしい。原則としては、米金融当局は政策金利の誘導目標を十分に速いペースで引き上げることでインフレを抑制することができる。しかし実際には、ここでジレンマに直面する。ゆっくり行動するという約束と、インフレ率を2%近くに維持するという約束のいずれかを破らなければならなくなるためで、どちらにしても信認喪失につながる。

  米金融当局の予想よりも景気の勢いが弱まるという、さらに悪いケースを想定してみよう(私個人としてインフレ高進シナリオよりも深刻と考えるマイナスのショックだ)。バーナンキ前連邦準備制度理事会(FRB)議長による先の説明の通り、金融当局はマイナス金利導入で対応することもできる。ただここでもコミュニケーションが障害となる。

  米金融当局は、政策正常化に向けた強い選好を表明することで、投資家に対して利下げの可能性を無視しても大丈夫だと伝えてきた(イエレンFRB議長は16日の記者会見の締めくくりに当たり、当局が追加緩和の可能性について協議さえしていないと強調した)。このため、マイナスのショックに適切に対処しようとすれば、米金融当局は自身の暗黙の約束に背かねばならなくなる。

  皮肉なことに、利下げはしないと米金融当局が約束したと受け止められていることで、当局は現実には、利上げに二の足を踏む可能性がある。政策金利の誘導目標が引き上げられれば、市場はそのたびに新たな目標を下限と見なし、当局の行動の余地が一段と狭まることになる。従って、当局者が下振れリスクを心配し、柔軟性を確保したいと望めば、そもそも利上げ見送りを選ぶかもしれない。そうすることで当局者は、政策正常化の約束を破らざるを得なくなるリスクを小さくすることになるというわけだ。

  では、米金融当局はどのような方針を伝えるべきなのだろうか。一つには、他の全ての予想と同様、自分たちの経済予測も外れる可能性があることを当局者が認める必要がある。その結果、当局者は金融政策の大幅かつ急激な変更に動く意欲があることをもっと明確にできるだろう。当局者は緩やかな正常化と言う代わりに、雇用情勢の改善とインフレ率を目標に近づけるため「必要なら何でも」する用意があると強調すべきなのだ。

(ナラヤナ・コチャラコタ氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストで、2009-15年に米ミネアポリス連銀総裁を務めた。このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)

原題:The Federal Reserve’s Credibility Dilemma: Narayana Kocherlakota(抜粋)

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