2015年の年の瀬。スマートフォンゲーム「グランブルーファンタジー」の新しい広告がテレビや雑誌をにぎわせていた。同ゲームは当時すでに700万人以上がダウンロードしており、プレーヤーは巨大な飛行船を操縦したり、悪の帝国と剣と魔法を使って闘ったりしていた。同ゲームを開発、運営しているサイゲームスは年末に、期間限定で幾つかのキャラクターの出現率が上がるキャンペーンを打ち出した。そのキャラクターの一つが「アンチラ」だった。

  アンチラは、金髪で治癒能力を持つ出現率が低い人気キャラクター。プレーヤーは、一つ300円の宝晶石を購入し使用することで、彼女を出現させることができる。こうした宝晶石は、ガチャによってアンチラのような貴重なキャラクターになることがあれば、武器などになることもある。サイゲームスは、通常は3%のアンチラの出現率が、キャンペーン期間中は倍増すると説明していた。

Gamers pursue characters like Anchira
Gamers pursue characters like Anchira
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  キャンペーン効果は絶大だった。数百万人単位の新しいプレーヤーがグランブルーをダウンロードした。全国各地でプレーヤーは何時間もかけて広告されていたキャラクターを追い求めた。

  そのうちの一人、ハンドルネーム「タステ」氏は、15年12月31日の午後9時頃に同ゲームを始め、動画サイトでその様子を同時配信した。アンチラを求め同氏は何時間も資金を投じ続けた。観客は初め数人程度だったが年が変わる頃には1万人余りに増え、同氏は気づけば約30万円を費やしてもまだアンチラは出現していないという事態に陥っていた。動画サイト上のコメントはあざけりから哀れみに変わり、クレジットカード会社から使用を止められるのではないかとの指摘もみられた。しかしタステ氏はその後も続行。16年1月1日の午前3時頃、2276回目の挑戦でついにアンチラが出現した。観客は興奮状態となった。最終的に同氏は68万2800円を使っていた。

  タステ氏の高額課金を記録したこの動画は、その後拡散。サイバーエージェントの子会社サイゲームスやその他の国内ゲーム会社に対する反発を引き起こすこととなった。グランブルーで遊びながら何十万円という資金をつぎ込んだプレーヤーは他にもおり、ブルームバーグが取材した一人の男性は今回のキャンペーン中に約81万円を使ったと話した。同キャンペーン中に約10万円を使った片岡大樹氏は、怒りから運営会社に対する規制を求め約2000人分の抗議署名を集めた。「もっと根本的な部分から変えない限り、この状態は続く」と語った。

  これに対し、サイゲームスは先月謝罪を発表し、顧客にゲーム内通貨の配布を行った。またイベント開催期間中にガチャを300回したら、好きな装備品を獲得できる機能を追加し、課金可能上限を9万円とする。また装備品別の出現確率も表記を始める。

  今後、問題は拡大する可能性もある。サイゲームスが配布を行った日、国内のスマートフォン・ゲーム開発会社各社の株価は急落し、時価総額ベースで10億ドル(約1130億円)以上が失われた。

  こうしたゲーム利用者の反発は利益率の高い業界を変化させる可能性もある。国内のゲーム会社は、大きなヒット商品を生み出し、長く他国の同業界から羨望(せんぼう)のまなざしを向けられてきた。だが今回の件で多額の課金を生む手法に議論が高まり、変化を促す圧力がかかりつつある。国内スマートフォン・ゲームの市場調査やコンサルティングなどを行うカンタンゲームズ株式会社のセルカン・トト代表取締役は「国内のスマートフォン・ゲーム業界の反対派にとって完璧な批判材料」と話す。「これらの動画は業界が搾取的で貪欲だと批判する人に弾薬を与えているようなものだ」とした。広告代理店大広のスマホアプリ利用実態調査によると、ゲームを無料で楽しむユーザーは8割以上を占める。

  グランブルーの世界では、プレーヤーは田舎町出身の青少年となり悪の帝国と闘う。基本のゲームは無料だが、資金を投じることによってより多くの武器やキャラクターを得ることができ、より早く進むこともできる。

Players travel between floating islands using airships they control via a tablet
Players travel between floating islands using airships they control via a tablet
Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  ガチャは、種類によって規制がかけられ禁じられている物もある。グランブルーは禁じられているガチャ手法は用いていないが、昨年12月31日に放映されたタステ氏の動画では法的に問題のないガチャでもある程度の影響があることを示した。ブルームバーグの取材依頼に応じなかったタステ氏は、宝晶石を数秒に一度購入していた。ゲームの主な魅力であるストーリーやバトルにも参加せず、何時間もかけてアンチラをガチャを通して求めていた。

  プレーヤーによっては、大金を費やしたにもかかわらず、アンチラを取得できないケースもあった。ブルームバーグが取材した片岡氏は約10万円を投じたが、アンチラが出現することはなかった。片岡氏はタステ氏の動画や他の怒れるプレーヤーたちに触発され、約2000人分の署名を集め、消費者庁に提出。サイゲームスに景品表示法違反の疑いがあるとし、消費者庁による立ち入り検査を求める署名だ。

  「今までのピックアップガチャに関しては3万円前後で手に入る事が多かったので、その時点で確率に疑問を抱いた」と片岡氏。動画を見て「疑問が強い疑惑に変わり、私の方でもガチャ履歴によるモニタリングを行った」と話した。片岡氏によると、消費者庁からの返事はまだきていない。サイバーエージェント広報室の宮川園子氏は、「基本的にグランブルーファンタジー内において何かしら運用に問題があるという認識はない」と話す。

  マッコーリー証券のアナリスト、デービッド・ギブソン氏は、問題がグランブルー以外に広がらず、子供が標的とならない限り、当局が規制強化に動く可能性は低いとみる。12年と「状況は違う。業界の規制強化があるとすれば、出現率をもっと分かりやすく誤解を生じさせないように表示する程度にとどまるだろう」と語った。

  ただ、サイゲームスは子供の間で人気の週刊漫画誌の裏表紙に広告を出しており標的にしているのは明確だと、片岡氏は指摘する。昨年12月から流れ始めたテレビCMには、高校生役と10歳程度とみられるその弟役も登場している。

  12年の業界に対する規制強化を受け、国内ゲーム会社はソーシャルゲームに対する自主規制などを行う一般社団法人日本ソーシャルゲーム協会を設立。ただ同協会は昨年に解散、自主規制責任の一部は各社に戻され、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会に集約された部分もあった。

Gamers use smartphones to interact with characters like Katalina
Gamers use smartphones to interact with characters like Katalina
Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  規制が強化されてからも、各社は新しいガチャ戦略を展開し収益を拡大し続けてきた。マッコーリー証券によると、業界規模は12年から約70%拡大し昨年は8000億円規模になっている。

  片岡氏は「消費者にとっては何も変わっていない」と話し、今後も引き続き消費者庁に働き掛けていくつもりだと話した。規制上禁止されている行為に近いことも「見過ごされている」と述べた。