秋に大統領選挙を控えた米国で、有権者の間でまったく現実味が感じられないフレーズの一つに、経済は順調だという言い方がある。

  オバマ大統領が1月の一般教書で使ったように、このフレーズを使いたければそれを裏付ける統計のヘッドラインを見つけることは可能だ。しかしながら党候補者指名争いたけなわの現在、共和党の主流派をドナルド・トランプ氏が脅かし、断然有利だったはずのクリントン氏に対してバーニー・サンダース上院議員が予想以上に健闘している背景には、米経済は順調などではないと嫌気が差している国民がいる。そしてヘッドラインの裏に潜む数字に目を向けると、国民の怒りも納得が行く。

  失業率は8年ぶりの低水準なのだろうか。確かにそうだが、生産年齢人口全体をカバーする指標の大半は弱く、労働参加率は下降トレンドをたどってきた。経済は失速することなく6年以上も成長してきたのだろうか。確かに先進国の大半よりは良い状況だが、このペースでは生産ギャップを埋めるのはどんなに早くても2026年以降になりそうだ。賃金の伸びはようやく上向き始めたのか。全体の数字としてはその可能性もあるが、その度合いは大きくない。そもそも、誰の賃金が伸びたと言うのか。

  コップが半分空っぽになっていることを示すこうした統計は、2009年に終息したリセッション(景気後退)がいまだに大統領選挙の行方に影を落としている理由を説明している。ゆがんだ富の配分を批判するサンダース氏。貿易の影響で雇用が失われると猛烈に攻撃するトランプ氏。いずれも米国の政治においては目新しい主張ではない。しかし、大恐慌以降で最悪の不況とそれを受けた最も弱々しい回復を目の当たりにして、全米の有権者はこの主張に積極的に耳を傾けるようになった。

  かつて米議会予算局(CBO)局長を務め、現在は中道右派のアメリカン・アクション・フォーラムの社長を務めるダグ・ホルツエアキン氏は、「『景気後退は終わり経済は回復し、良いことずくめだ』と言うが、『ちょっと待てよ。うちは回復どころか、むしろ悪くなっている』というのが一般世帯の反応だろう」と語る。「日常生活において目に見える現実と、耳にする話の間に大きな矛盾がある。それで国民は怒っているのだ」と続けた。

  2018年までの米経済について、ブルームバーグがまとめたエコノミスト調査では、景気後退以降の平均である2.1%成長を大きく上回るペースは予想されていない。

  欧州や日本からみればうらやましい数字かもしれない。しかし、米国の有権者が主流派を敬遠し始めた理由をこうした数字は物語っていると、ウェルズ・ファーゴ・セキュリティーズ(ノースカロライナ州シャーロット)のチーフエコノミスト、ジョン・シルビア氏は説明する。

  「有権者は自分たちの現状と主流派の候補者らを結びつけて考えている」とシルビア氏。「現状はあまり良くないというのが彼らの見方だ。成長率は今後7年も2-2.5%程度なのか。それではアメリカンドリームは多くにとってかなわぬ夢で終わる」と述べた。

原題:Angry Americans: How the 2008 Crash Fueled a Political Rebellion(抜粋)

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