性的指向タブーじゃない、日本企業に広がるLGBT受け入れ (訂正)

  • 野村はリーマンから企業文化継承、きめ細かい研修展開
  • 人材確保に不可欠-世代間にはなお残るギャップ、制度も未整備

「アライになろう」-。野村証券は、性的指向などが異なる同僚に理解を示す社員を「アライ」(味方)と呼び、パンフレットやポスターで啓発活動を実施、新卒や管理職など幅広い階層の社員研修にLGBTの内容を取り込んでいる。

  レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取ったLGBTへの取り組みが、日本企業で急速に進んでいる。野村証は、2008年の米リーマン・ブラザーズの事業一部継承に伴い、多様性の概念とLGBTの社員ネットワークを引き継いだ。倫理規定に性的指向などで差別しない項目を10年に追加。15年からは履歴書の性別と見かけが違う学生を「偏見を持たずに評価する」など、具体例による面接官への指導も始めている。

  「安心してカムアウトできた」。15年3月に野村証に中途入社した北村裕介さん(33)は、民間非営利団体(NPO)などが開いた企業人事担当者ら向けセミナーでこう話した。LGBTの啓発活動や多様性の理解が社内で進んでいたことから、初めて職場で周囲にゲイであることを公言したという。以前の職場では一部の人にしか打ち明けていなかったため、「週末の話や家族や恋人についての話は、知らない間に避けるようになりストレスになっていた」という。公言してからは「頑張っていこうと、忠誠心が芽生えた」と話す。

  性別や世代、文化を超えた人材活用を調査・研究している米の非営利機関、センター・フォー・タレント・イノベーションの調査によると、LGBTを支援している企業には、社員の意欲を向上させ離職を防ぐというメリットがあり、LGBTの当事者と支援者の多くはLGBTを支援する企業から商品を購入したい傾向にあるという。

  野村証の人材開発部兼人事部の東由紀エグゼクティブ・ディレクターは「当事者に働きやすい職場となることで、優秀な人材に継続的に働いてもらえる。多様な社員が増えてきているので、女性、男性、人種、国籍など多様性を理解しなければ、一緒に働きながら成果を出していくのは難しい」と取り組みの背景を話した。

新宿2丁目

  ゲイやレズビアンが集まる東京・新宿2丁目。ここで聞こえて来るのは、変化は一部の企業のみという声だ。よく飲みに来るという加藤さん(38)は匿名を条件に取材に応じ、「ここで会った人で本当の名前を知っている人は1人だけ。みんなあだ名で呼んでいるから」と言う。職場では若い同僚3人ほどに話したが、「自分と同じ世代の人や年上の人にはカミングアウトできない」と話した。

  米国の調査機関ピュー・リサーチ・センターの13年の調査によると、同性愛を受け入れるべきだと回答した日本人は18-29歳では83%と、米国(70%)や英国(79%)、フランス(81%)を上回ったものの、50歳代以上では39%と低かった。

  上智大学の三浦まり教授は「日本はまだまだカミングアウトしにくい社会」と言う。日本社会は同調圧力が強く、「セクシュアリティーに限らず、人と少し違うと言うことはポジティブに評価されない。ありとあらゆる面で人と同じようであることを求められているからだろう」と話す。

外資系

  日本での企業の対応は外資系が先行してきた。日本IBMは12年、NPOと共同で任意団体「ワーク・ウイズ・プライド」を立ち上げ、企業の人事担当者らを対象にLGBTに関するマネジメントの促進や定着のためのセミナーを開催。12年は50人ほどだった出席者が15年には400人を超えた。当事者らが講演し、野村証の北村さんも壇上に立った。野村証のほかゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券、ドイツ銀行グループなど外資系企業が多く参加する任意団体「LGBTファイナンス」では、LGBTの学生のための金融業界セミナーなども開いている。

  東京都渋谷区は昨年、同性パートナーにパートナーシップ証明書の発行を決めた。第一生命保険は証明書を生命保険の受取人確認に使用すると発表。日本生命も同様の方針を決めた。NTTドコモKDDIは家族を条件とする割引サービス「家族割」を、証明書の提示で同性カップルにも利用可能とした。

  日本航空はマイレージを家族などで共有するサービスについて、同性カップルも利用できるようにした。JAL広報担当の下口拓也氏は「1月から対応を始めている。関係性を示す公的証明書が書類があれば家族間の共有と同様の措置を取るようにしている」という。全日空では「養子縁組などと同じように、公的な書類があり申請があれば柔軟に対応するようにしている」と広報担当の伊藤真帆氏が話した。

  福利厚生などの拡充に取り組む企業も出てきた。ソニーは今年、パートナーであると認定された同性カップルに、異性婚の配偶者に認めている福利厚生の適用を始めた。パナソニックも事実婚または同性婚で配偶者に準ずる者を含めることを検討している。

顧客にも株主にも

  第一生命は昨年12月に首都圏の管理職約1300人を対象に研修を実施した。社員向けの相談窓口を設置、それまで法的な配偶者のみに認めていた休暇制度や社宅貸与基準を同性パートナーに原則認めた。濱田崇人事企画課長は経営に直結するという意識もあると述べ、LGBTの当事者は「顧客にも株主にもいらっしゃる。当たり前だという認識を持ちたい」と話す。

  欧米企業を対象に日本ビジネスのコンサルティングなどを行うジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングのロッシェル・カップ社長は、LGBTは日本社会で長く「タブー」になっていたと指摘した上で、「違う考えを活用することは、単に同種の人の集団よりも、より創造的になりアイデアが出るようになる」と多様性の利点を語る。

Koyuki Higashi, left, and Hiroko Matsuhara in Shibuya

Photographer: Christopher Jue/Getty Images

   渋谷区が同性カップルに発行したパートナーシップ証明書は2月23日現在で7件。パートナーシップ宣言書の発行を始めた世田谷区では18件。東京ディズニーリゾートでパートナーと結婚式を挙げ、渋谷区で証明書第1号を受けた増原裕子さん(38)は証明書発行はLGBTを多くの方に知ってもらう大きな意義はあったが、「婚姻とは違うし、相続権や税金の控除など解決されない課題がある。まだまだ通過点」と話す。

  那覇市では昨年7月、城間幹子市長が性の多様性を尊重する都市を目指すと宣言。LGBTについて学ぶ講座なども開いている。国会では民主や自民など超党派による議員連盟がLGBTに対する差別禁止をうたった法案の策定を目指している。民主党の細野豪志政策調査会長は、生命保険会社による保険金の支払いなどの動きなどがすでに出ていることに触れ、「差別解消が法的にも明確になれば、実際は現実が先に行くような気がする」と述べ、そうした動きをしっかりサポートする形で法律でもパートナーシップを認めていく方向にするのが望ましいとの考えを示した。

(2月25日配信の記事で第3段落の北村氏の名前を訂正します.)
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