日本の株主還元、15年度過去最高へ-マイナス金利が一段呼び水に

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自社株買いと配当を合わせた国内上場企業の株主還元が、2015年度に過去最高を更新する見通しだ。政府主導でコーポレートガバナンス(企業統治)改革の流れが加速し、資本効率の向上など企業に対する投資家の要求が強まっている。また、日本銀行のマイナス金利導入で潤沢なキャッシュを内部留保する合理性が一段と薄れそうで、株主還元強化の呼び水になる可能性もある。

  ゴールドマン・サックス証券の予測では、15年度の株主還元総額は前年度比26%増の17.9兆円と過去最高の見込み。16年度は20.7兆円、17年度は23.5兆円へさらに増加するとみる。自社株買いは今年度が39%増の5.9兆円、来年度は27%増の7.5兆円と予想。年明け以降、世界経済の不透明感から株価が大きく下げた影響もあり、大規模な自社株買い実施の表明も相次ぐ。

  NTTドコモは1月29日に5000億円上限の自社株取得枠を設定、ソフトバンクグループは今月15日に同社では過去最大となる上限5000億円の自社株買い実施を発表した。26日には、日産自動車が最大4000億円の自社株取得を発表。カルロス・ゴーン社長は、株主還元は経営戦略の主な柱の一つとした上で、「現状の財務状況や今後の潤沢なキャッシュフローを継続できる見通しを鑑みて、今回の決定をした」と説明している。

  英運用会社のアーカス・インベストメントの共同設立者、ピーター・タスカ氏は「安倍政権は企業に株主還元を高めさせる雰囲気をつくってきた。それこそが大変な時に投資家がほしいものだ」と言う。

  安倍晋三首相は12年末の政権復帰以来、成長戦略の中で企業の持続的成長を目指す姿勢を鮮明にしており、14年に投資家との対話を促すスチュワードシップ・コード、昨年はコーポレートガバナンス・コードが導入された。東証1部企業の資本効率を示す株主資本利益率(ROE)は、12年7ー9月期の4%を底に15年4ー6月期には8.6%まで高まった。

東証1部銘柄のROE推移

自社株実施比率94%に上昇

  自社株買いの増加はROEの向上に大きな役割を果たしており、東京証券取引所公表の投資部門別売買動向によると、自社株買いの動きを含む事業法人は15年に2兆9632億円買い越し、買越額は9年ぶりに過去最高を更新した。ゴールドマン証の調べでは、自社株取得枠総額に対する取得額実績の割合を示す実施比率は94%と、05ー14年の平均61%から大幅に上昇している。

  一方、原油市況や中国経済、米追加利上げの不透明感、為替の円高などが嫌気された日本株は年始から下落基調を強め、TOPIXの年初来騰落率は26日まででマイナス15%。ギリシャや中国、イタリアに次ぐワースト上位国だ。

  大和証券の鈴木政博シニアクオンツアナリストは、「株価がこれほど下がったことはここ数年なく、自社株買いをやる気があった企業にとってはやりやすくなった」と指摘。UBS証券ウェルス・マネジメント本部の居林通日本株リサーチヘッドは、円高の影響などで17年3月期企業収益の落ち込みが懸念されており、「自社株買いは来期のEPS(1株利益)とROEを上昇させる数少ない戦略の一つ」と話す。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、東証1部企業の配当総額も15年度に9.9兆円と過去最高に達するもようだ。古川真シニアポートフォリオストラテジストは、「日本企業の株主還元に対する意識は高い。業績の雲行きは怪しくても、還元は後退していない」とみる。

  生命保険協会が昨年3月に公表した上場1074社、機関投資家159社が対象の株主価値向上に関する調査によれば、株主還元の目標値として公表が望ましい指標として「配当性向」が7割と最も高く、68%の「総還元性向」が続く。9割以上の投資家が投資に際し配当を重視し、自社株買いについては「より積極的に実施すべき」との回答が76%となっている。

キャッシュリッチ企業の動きに期待感

  日銀が16日から金融機関の一部当座預金に対し0.1%のマイナス金利を適用し始めたことも、今後企業が株主還元の強化に動くきっかけになりそうだ。SMBC日興証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストは、「マイナス金利政策がある程度の期間続いたり、日銀がマイナス幅の拡大に踏み切る場合、企業に対しマイナスの預金金利が適用される事態は十分に想定される」とし、余剰資金の活用を検討せざるを得なくなると予想。キャッシュリッチ企業の株主還元強化に期待感を示す。日銀の資金循環統計によると、昨年9月末の民間非金融法人の現預金は247兆円。

  世界との比較感でも、日本企業の自社株買いは低水準にとどまる。ゴールドマン証の調べでは、過去12カ月の自社株取得額を期初の時価総額で除した「自社株利回り」は米国が2.8%、日本はわずか0.9%だ。いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は、「マイナス利回りなので、資本を縮めようとするだろう。株主還元率が上がれば、これまで日本株をアンダーウエートしていたグローバル投資家にとっても日本株の魅力はアップする」としている。

東証1部企業の配当性向推移

(3段落に日産自動車の自社株買い情報を追記します.)
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