公的債務が主要国で最悪の状況にある安倍晋三内閣がマイナス金利の恩恵を受けている。2014年10月以降に生じたマイナス金利の国債入札で政府に入ったお金は、借入額と利払いの合計を520億円を上回り、今後さらに拡大する見通しだ。

  政府が発行する国債等の大半はプライマリーディーラー(国債市場特別参加者)22社との入札で落札価格と利回りが決まる。借入額と利払いの合計を上回る値段が付けば、落札利回りはマイナスとなる。国庫短期証券(TB)入札では14年10月に3カ月物の平均落札利回りが初めてマイナスとなった。利付国債では2年債入札に続いて、今月には5年債入札が初めてマイナスとなった。今日の2年債入札でも平均・最高落札利回りが過去最低のマイナス水準となった。

  黒田東彦総裁率いる日銀が2%の物価目標を達成するために導入した大規模な国債購入を背景に利回りは低下。1月末のマイナス金利政策の決定を受け、足元で償還10年までの流通利回りがゼロ%を下回り、発行残高の約7割に及ぶ。ブルームバーグの試算では、政府がマイナス利回りの入札で得た超過収入は約1年4カ月で524億円程度に上っている。

  SMBC日興証券の末沢豪謙金融財政アナリストは、落札利回りがマイナスだと「政府は利息は払うが、発行で得る金額の方が結果的に多くなる。目先の財政にはプラス」とみる。ただ、国の借金が減るわけではないとし、「増えるペースが少しだけ鈍化するにすぎない。入札結果の背後にある世界経済の低迷や金融市場の混乱は税収減の要因となる恐れが強い」と指摘。「財政は慎重にみていく必要がある」と話した。

  財務省が18日実施した2.5兆円規模の5年利付国債の入札では、落札利回りが平均マイナス0.138%、最高マイナス0.12%と、ともに初のゼロ%割れとなった。額面100円に対する表面利率は年0.1%。リオープン発行のため、償還まで保有すると48.3銭の利息を得られる計算だ。落札価格は平均101円16銭、最低101円07銭だった。

  政府が証券会社や銀行から借り入れた額は、割引現在価値に基づく調整などを考慮しないで単純計算すれば、約5年後の償還額とその間の利払いの合計を68銭程度上回り、お金をもらって借金できた計算になる。募入決定額はプライマリーディラー向けの非価格競争入札分を含めて2兆5340億円なので、約172億円の超過収入になる。

  借入額と利払いの合計を上回る超過収入は、税収の上振れなどとともに前倒債に算入される。前倒債は翌年度に見込まれる借換債の一部を先行して発行し、供給額の振れをならして安定的な発行を支える仕組みだ。14年度に発行した今年度分は28兆8341億円と直近10年間で最高。今年度当初計画では上限が32兆円だったが、補正予算で44兆円に引き上げられ、来年度予算案では48兆円となった。

  日銀は先月末、金融機関の日銀当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用する追加緩和を決定。今月16日からの準備預金積み期間から実施している。企業信頼感の改善や人々のデフレ心理の転換が遅れ、物価の基調に悪影響が及びかねないとの懸念が背景。イールドカーブの起点を押し下げ、巨額の国債購入とともに、金利全般により強い下押し圧力を加え、必要に応じて追加利下げもあり得るとしている。

  新発2年債利回りは9日にマイナス0.25%、5年債は10日にマイナス0.265%と過去最低を記録。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは9日に初めてゼロ%を割り込み、25日にはマイナス0.065%まで下げた。20年債は0.54%、30年債は0.84%、40年債は0.975%といずれも最低を更新した。

  JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは、マイナス金利政策の導入でイールドカーブ全体が約0.2%ポイント低下したと指摘。国債とTBに対する軽減効果は来年度に5000億-6000億円程度に上ると試算する。「利下げは借り手に有利、貸し手には不利に働く所得再分配の効果がある。日本で最大の借金主は国なので、家計から銀行を経由した政府への所得移転を意味する」と言う。

ECBからも追い風

  国債・借入金・TBを合わせた国の債務残高は今年度末に1087.3兆円と1年前より34兆円増える見通しだ。国際通貨基金(IMF)は日本の政府債務残高が今年、名目国内総生産(GDP)の247.8%に達すると予測。少なくとも20年の251.7%までは最悪を更新し続けると見込む

  財務省の試算によれば、消費税率を予定通り10%に引き上げ、3%の名目成長と歳出の効率化を実現しても、予算総額から国債費を除いた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字は来年度予算案の10.8兆円から20年度に5.8兆円までしか縮小しない。目標とする同年度のPB黒字化には一段の対策が必要な情勢だ。

  日銀は2%の物価目標を達成するため、マネタリーベースを積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入した。翌年10月末の追加緩和で国債保有増を年80兆円に拡大し、15年12月には買い入れの平均残存期間を7-12年程度に長期化するなどの補完措置を追加。金利低下を促し、結果的に債務残高や利払い負担の増加を抑制してきた。

  流通市場や入札で利回りがマイナス化したのは、欧州中央銀行(ECB)が14年6月にマイナス金利政策を導入した影響もある。ユーロ圏からの資金流入などを背景に、TBは同年9月に流通市場でゼロ%を下回り、10月23日の3カ月物の入札では平均落札利回りがマイナスとなった。翌週30日の同入札では最高落札利回りもマイナス圏に低下。以後、ゼロ%割れが恒常化している。ECBは来月にも追加緩和する可能性がある。

  JPモルガン証の菅野氏は、マイナス利回りの入札で得た超過収入を「償還に充てるか、景気対策に使うかは財政政策の判断になる」と指摘。国の借金をどうするかは「国会で十分に審議し、責任を持って判断していかないと、財政規律がさらに緩みかねない」と懸念する。

上振れ期に「貯金」を

  安倍政権は14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げたが、それに伴って国内景気が落ち込んだため、昨年10月の予定だった10%への再増税を17年4月に延期した。リーマンショックや大震災のような重大事態が生じない限り、再延期はしない考えを示す一方、任期中に10%超への追加引き上げは想定していないと24日にもあらためて言明した。

  来年度予算案の総額は過去最大だが、税収が25年ぶりの高水準になると見込み、新規財源債を08年度当初以来の水準に抑制。借換債も7兆円超減るため、国債発行総額は162.2兆円と8兆円近く少ない。うち、機関投資家に競争入札で販売する市中発行額は非価格競争入札なども含めて152.2兆円に減る。

  ただ、世界経済の減速と資源安を背景とした株価急落で、内外の株式時価総額は年初から約8.6兆ドル減少。市場の混乱を受けた投資家のリスク回避を受け、円相場は11日に1ドル=110円99銭と日銀が追加緩和した14年10月末以来の高値を付け、日経平均株価は翌日に約1年4カ月ぶりに1万5000円を割り込んだ。

  SMBC日興証の末沢氏が過去40年間の一般会計税収を当初予算と決算で比較したところ、決算が当初予算を23回も上回ったが、上振れ分の累積額は下振れ分より19.5兆円少なかった。「財政健全化を念頭に置いた上振れ期の『貯金』が足りないので、下振れ局面で食いつぶされてしまう」と説明。世界経済は長期間拡大してきたので「もうそろそろ危ない時期に入っていく可能性がある」と語った。

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