米サンフランシスコ北部にあるワイン産地、ナパバレーでは、ブドウの木が芽を出す5月ごろから大きなタンクを背負った労働者が畑を歩き害虫駆除を始める。雨が降った翌日は特に丁寧な手入れが必要となるが、山の斜面につくられた畑は滑りやすく、人が農薬を浴びるのを避けるための装備をまとった作業は重労働だ。

  秋にかけて繰り返されるこの風景を今年、ヤマハ発動機が変えるかもしれない。昨年12月、ヤマハの無人ヘリコプターは、全米で初めて連邦航空局(FAA)から農業用散布事業のライセンス取得した。3月をめどにカリフォルニア州の最終許可が得られれば、今年のブドウのシーズンには労働者でなく、無人ヘリが畑を飛び回る姿を見ることになる。

  無人ヘリの米国進出は、ヤマハに新たな収益源をもたらす可能性がある。ヘリコプタービジネスを3年間統括してきたUMS事業推進部の石岡修部長は、米国には注文を受けて農薬散布作業を行うサービスモデルを持ち込む予定で、5年後には利益率25%、その後は30%を超えるビジネスを確立できるとみている。

  5年前、二輪車事業が営業利益の8割を稼ぐオートバイメーカーだったヤマハは、新たな収益源となるビジネスの構築を続けている。2015年度は二輪の営業利益に占める割合が26%だったのに対し、マリンは50%となり、さらに無人ヘリコプターを含む特機事業が利益を伸ばしてきている。

無人ヘリコプター

  ナパバレーの多くの畑では、20ー30ヘクタール(ha)程度の斜面にシャルドネやカベルネ品種を植え、季節ごとにブドウの芽、葉、実につく害虫を駆除する。平均的な労働賃金は1ha当たり1人200ドルで、2人が丸1日かけて2週間に1度の頻度で散布する。無人ヘリでの作業時間は1ha当たり約15分。石岡氏は1ha当たりの単価を約250ドルとすることで、これまで2人分400ドルで丸一日かかっていた作業の効率化とコスト低減を提案する。既に3社が契約に前向きな姿勢を示しており、さらに4、5社との契約を視野に入れているという。

  米カリフォルニア大学デービス校の教授で、農薬による人体被害について研究しているケン・ガイルズ氏は、ヤマハの技術が「非常に信頼が置ける」と評価している。農薬散布作業は装備を背負って歩き回るか、トラクターを使うかのどちらかで、「いずれの場合も農薬にさらされる心配が大きいが、無人ヘリであれば遠隔コントロールができる」と電話取材に語った。

  ガイルズ氏は「ヘリが使えれば雨上がりのぬかるみも問題にならないし、短い作業時間も業者には魅力的」と述べた。需要については、ヘリを使った作業がどういうものか見極めたいという業者も多く、この1年間の成果を見た上で徐々に需要が増えるのだろうという見方を示した。

米国から始まる需要拡大

  米国の小麦畑などでは有人ヘリコプターを使って農薬を散布するのが一般的だが、狭い土地につくられたブドウ畑での農薬散布は技術的に難しく人の力に頼っていた。国土が狭い日本で発展させた技術を、知名度のあるナパバレーで確立させることで今後、東海岸や海外への展開も期待できると石岡氏はみている。

  初年度である16年は、約2000haをカバーすることで売上高4、5億円を見込んでおり、20年前後には10億-20億円規模に伸ばしたいと石岡氏は語った。米国を含めた世界機体販売は19年に年間500機程度となり、売上高はサービスモデルを含め現在の50億円から倍近くを見込む。海外でのサービスモデル普及により21年に売上高約100億円を達成し、この時点での利益率を約25%と予想している。

  米国の物流需要を中心にドローン(小型無人機)の普及は進んでいるが、バッテリーとモーターで動くドローンは10キログラムの荷重で15分程度しか飛行できないものが多い。ヤマハのヘリは動力がエンジンのため、30キロの荷物を搭載して1時間の飛行が可能であることから石岡氏は、現在普及しているドローンとは農薬散布の分野で競合しないという考えを示した。

日本のコメ作りを変える

  ヤマハのヘリ事業は1983年、農水省の委託を受けて始まった。オートバイ事業で培ったエンジンやトランスミッション技術を強みに、農家が軽トラックに積んで運べるサイズの無人ヘリを開発した結果、現在は約2700機が農業に使われ、国内水稲面積の4割近くをカバーしている。

  石岡氏は、環太平洋連携協定(TPP)発効に向け、日本の水稲農業コスト低減にもヘリが寄与すると述べた。日本では現在、あらかじめ作った苗を田んぼに移植する育苗という作業をしているが、海外のように直まきで苗を育成すれば、種まきから水やり、肥料やりまで全ての作業がヘリででき、コスト全体を4割下げることが可能になるという。すでに東北地方では直まきが実践されている。

  稲作農業のシステムが日本と似ている韓国でもヤマハ製ヘリは230機が使われており、市場占拠率は9割以上となっている。就農人口の減少や高齢化は世界的に進みつつあり、国が補助金を出して効率化を図る分野でもある。石岡氏は、この分野で無人技術を生かすことが事業の拡大を推し進めるとみている。

原発と火山

  国内では、福島県内で原子力発電所事故後の線量モニタリングや、鹿児島県の桜島や口之永良部島など火山の地震測定などにもヤマハのヘリは使われている。あらかじめプログラミングした経路をGPSを使って飛ばし、火山では河口付近に設置された地震計を回収し、新たなものに置き換える作業をしている。石岡氏は、「売り上げは大きくないが、災害に備えるという意味で社会的な意義がある」と語った。

  ヤマハは18年までの中期計画で、売上高2兆円(15年実績1兆6154億円)、営業利益1800億円(同1204億円)を目指しており、既存事業を効率化し、新しい成長戦略に 1300 億円を投入する。UMS事業戦略では「個性的ビジネスモデルを創る」ことで「売上高100億円のビジネスモデル」構築を掲げている。

  ヤマハは戦後間もない1955年に楽器メーカーからオートバイ部門を独立させて設立。数年後にはエンジン技術を生かして船外機生産を開始してマリン事業を拡大。65年にはトヨタ自動車との技術提携でスポーツカー「トヨタ2000GT」の開発協力をするなど、エンジン技術を多方面に生かす事業展開をしてきた。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE