民泊に「6泊7日」の壁、逆に規制強化との見方もー東京五輪へ宿題

  • 経済効果は10兆円超、受け入れ可能客数は2500万人との試算
  • 訪日客数は過去最高、都市部で深刻な宿泊施設不足

国家戦略特区制度に基づく全国初の合法民泊が東京都内に誕生した。白と茶色を基調とした内装の一軒家。リビング、キッチン、バルコニーに畳部屋も備え、丸太を使った梁(はり)が特徴だ。値段は4人で1泊2万円だが、最低6泊することが滞在の条件となっている。

  訪日外国客が急増する中、安倍晋三政権は2020年東京五輪を見据え、宿泊施設不足を解消しようと一般の民家や空き室などを観光客に開放する民泊に目をつけた。これまで民泊は旅館業法上の許可を得ないまま営業されることが多かったが、政府は一部の要件を緩和した新たな特区制度を導入し、合法化を目指すことを決定。その際、既存のホテル・旅館業界の反発を抑えるために設けたのが「6泊7日以上滞在」を条件とする規制だ。

 「民泊を合法化すると言っても、最低滞在日数の規制を設けるのであれば、状況は今よりも悪くなるだけ」と語るのはアイリーン・ジェフリーさん(26)。ロンドンで不動産アナリストなどをしていたが、日本人男性と婚約し2年前に来日。これまでの経験を生かし、訪日客の増加が見込まれる東京で民泊事業を始めようとしている。最初の物件として、スカイツリーのそばに7階建てのマンションを建築中だが、早くも壁に直面している。

  当初はマンションのほとんどの部屋を民泊用に貸し出すはずだったが、滞在日数規制を前に、その半分以上を通常の賃貸用に切り替えた。「本気で宿泊施設不足を解消したいなら、政府は民泊事業者にこんな足かせをつけるべきではない」と訴える。

受け皿  

  円安効果や訪日ビザの要件緩和の影響で、訪日外国人客は増加を続けている。日本政府観光局によると、15年の訪日外国人客数は前年比47.1%増の1974万人。3年連続で過去最高を更新し、前年比では統計を取り始めた1964年以降で最大の伸び率を記録した。

  一方、宿泊施設不足は深刻だ。国土交通省の15年版観光白書によると、14年の客室稼働率は全国平均では60%に届かないが、東京都と大阪府に限ると既に80%を超えている。みずほ総合研究所の試算では、訪日客が20年に2500万人まで増加すると仮定した場合、都市部を中心に4万1000室分が不足する。

ルール

  民泊は宿泊施設不足の新たな受け皿になるとして期待する声が上がった。民間団体「新経済連盟」は15年10月、民泊の必要性などをまとめた提言を菅義偉官房長官らに提出。民泊の解禁による訪日客増加により、インバウンド消費を含む経済効果は10兆円台、受け入れ可能な外国人旅行者数は約2500万人に上ると試算した。しかし、民泊の在り方を定めた法律がない状況で、これまで民泊はグレーゾーンの中で営業されてきた。

  自民党の平将明衆院議員は、「ルールがないのが1番の問題だ」と話す。一部の地域で民泊を解禁する国家戦略特別区域法の制度設計に、内閣府副大臣として関わってきた。特区法で定めた方針について「規制緩和で民泊を解禁するといっても、今までグレーゾーンの中でやっていた人からするとものすごい規制強化だ」と説明。ルールを明確化したことで「トラブルは減る」と特区制度導入の意義を語る。

特区法

  特区法施行令は、民泊として部屋を貸し出す際、「7日から10日」以上の最低滞在日数を設けるよう定めている。平氏はこの狙いについて「ホテル旅館業界からの慎重論が多かったため、競合しにくい日数を設定した」と説明した。

  民泊仲介業の米「Airbnb」の日本法人「Airbnb Japan」代表取締役、田邉泰之氏は電子メールでの取材に回答し、同社のサービスを利用した日本へのゲスト数はこの1年間で521%増加しており、成長率は世界トップと紹介。ゲストの平均宿泊数は3.8泊であることから、6泊以上と定める特区制度は「ゲストのニーズとの乖離(かいり)がある」として、日数制限の緩和・撤廃を求めた。

  平氏は、特区制度のもとで試験的に運営していく中で制度を改善していくつもりだと話し、「7日を5日にするとか、3日にするという方法もある」と期間短縮の可能性に言及した。

  財団法人「宿泊施設活性化機構」の伊藤泰斗事務局長も、特区を1年間試行して6泊以上の規制が訪日客のニーズに合っていないことが分かれば、「5泊上限、3泊上限にしようという話になる」と予想する。ホテルは、スプリンクラーの設置など「莫大(ばくだい)な設備投資が必要」と話し、民泊を解禁する際は「不公平感の是正」に留意してほしいと求めた。

近隣住民

  近隣住民の理解も課題だ。新宿区は1月、政府の検討会に資料を提出し、管理者が敷地内に常駐することなどを定めるよう要望。区内では無許可の民泊が横行しているとして、騒音や盗難などの苦情が寄せられていると訴えた。

  東京湾に面する高級分譲マンション「ブリリアマーレ有明」では14年、民泊の禁止を管理規約に新たに盛り込むことを住民総会で決めた。管理組合の星川太輔理事長は「共有部が荒らされてしまうし、セキュリティー面でも心配だ」と指摘。民泊をめぐっては、「分譲、賃貸、戸建て、それぞれの事情に合わせた制度が必要。分譲では、管理組合の許可が必要な仕組みに変えるべき」だと話した。

  民泊サイト運営会社「とまれる」で広報担当を務める川村宅哉さんは、民泊事業には大きなビジネスチャンスがあるとし、「日本の第一人者として進めていきたい」と意気込む。2月12日に自社が手掛ける2物件が東京都大田区から全国で初めて合法民泊の認定を受けたことに関しては「安心安全な民泊を進めていくきっかけになる。非常にうれしい」と語った。最低滞在日数の規制については「ない方が良いが、超えていかなければいけないもの」と話した。

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