GPIFは「今まで通りで良いのか」、マイナス金利で変わる投資環境

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  • 予想株価収益率は13.7倍と約3年ぶり水準まで低下
  • メリルリンチ日本証は日本株で6兆円程度の増加余地と試算

日本の債券利回りのマイナス化と株価収益率の大幅な割安化が、世界最大の公的年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のポートフォリオを大きく変えてしまうかもしれない。市場関係者は国内債の削減と日本株などリスク資産の積み増しをさらに進める余地が広がったとみている。

  日本銀行が1月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決めたのをきっかけに、国債市場では10年物利回りが初のマイナスを記録。一方、株価急落に伴い、東証一部に上場している企業の予想株価収益率は13.7倍と、2012年11月以来の水準まで低下した。

  クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、GPIFは時価変動に伴う資産保有割合の調整だけでなく、国債利回りのマイナス化を受けて「今まで通りで良いのかという話になり、さらに国債の構成比を引き下げ、株式・外貨建て資産の買い増しを積極化していく」と分析。「今後マイナス金利が拡大すれば、国内債の目標値35%を割り込んで下限の25%に近づけていく可能性は十分にある」と読む。

  第2次安倍晋三内閣が発足した12年末から昨年9月末にかけて、GPIFは国内債の保有額を約13兆円減らし、運用資産全体は約23兆円増やした。ただ、収益のけん引役だった日本株や外貨建て資産が昨夏の世界的な金融市場の混乱で大幅減に転じ、7-9月期の運用収益はマイナス7.9兆円と過去最悪を記録。安倍首相は5日の衆院予算委員会で、公的年金の運用成績は株価と単純に連動するわけではないと釈明に追われた。 

  14年10月末の資産構成見直しでGPIFは、国内債の目標値を60%から35%に下げ、内外株式はそれぞれ12%から25%に、外債は11%から15%へ引き上げた。デフレに強い国内債への偏重から、株式と債券が半分ずつで国内6割・外貨建て4割という分散型に変えた。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、債券・株式・円相場などの変動による評価額の変化を把握するため、昨年9月末から売買がなかったと仮定して12日時点の資産構成割合を試算。GPIFの運用資産は約6兆円目減りし、構成割合は国内債が42.45%、国内株は18.99%、外債13.66%、外株20.23%、短期資産4.68%となった。同証の推計によると、GPIFのリスク資産の増加余地は12兆円近くに上る。

  大崎氏はGPIFが短期資産を除いて35、25、15、25%の資産構成を目指す前提で、国内債の削減余地がまだ約11.7兆円あり、国内株に6.2兆円、外債に0.8兆円、外株に4.6兆円程度、振り向ける余地があるとみている。

「30%台前半」説も

  日銀は先月末、金融機関の当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用する追加緩和を決定した。原油安や新興国・資源国経済の減速、市場の混乱を受け、企業信頼感の改善や人々のデフレ心理の転換が遅れ、物価の基調に悪影響が及びかねないと判断したためだ。イールドカーブの起点を押し下げ、巨額の国債購入とともに、金利全般により強い下押し圧力を加え、必要に応じて追加利下げもあり得るとした。

  メリルリンチ日本証の大崎氏は、GPIFは国債利回りのマイナス化を受け、「償還分の再投資は金利がプラスでないと買わないといった新たな方針の下で国内債を減らしていく可能性はある」と指摘。資産構成の目標値の上下にある「乖離(かいり)許容幅を使って国内債を減らし、国内株などの買い支えなどに動く可能性はある。十の位が変わらないという心理的な観点もあり、30%台前半までなら十分あり得る」と読む。

  日本証券業協会の統計によると、公的年金の売買動向を映す信託銀行は昨年後半に利付国債を合計9352億円売り越した。日本株の買越額は1月に6076億円。12月は7427億円で、09年3月以来の高水準を記録した9月に続いた。

  日銀は2%の物価目標を達成するため、マネタリーベースを積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。14年10月末の追加緩和では国債保有増を年80兆円に拡大し、15年12月には買い入れの平均残存期間を7-12年程度に長期化するなどの補完措置も加えた。ETFやJ-REITの買い入れも含む量的・質的緩和は今後もマイナス金利と併用していく方針だ。

  マイナス金利の国債を購入すると、償還時に損失が発生するため、より深いマイナス金利で転売できる見通しがないと大規模な新規買い入れや償還分の再投資は難しい。クレディ・アグリコル証の尾形氏は、日銀が巨額の国債購入を続けるには売り手が必要だとし、GPIFなどのポートフォリオ・リバランスが加速すれば「日銀にとって好ましい動きだ」と言う。

ゆうちょ銀は見直し

  しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用部長は、GPIFが乖離許容幅の範囲内で国内債を減らして株式を増やせば、需給面でプラスの効果があると指摘。「もう動いているだろう」と言い、足元までの金利低下と株安・円高による評価額の変化に対応した「リバランスもある。どちらにしろ、株にはいい話だ」と語った。 

  GPIFは公的年金制度が持続可能となるよう、名目賃金上昇率を1.7ポイント上回る運用利回りを長期的に確保する責務を負う。賃金が2.8%上がる経済中位ケースの名目期待収益率は国内債2.6%、国内株6%、外債3.7%、外株6.4%。一方、価格変動を示す標準偏差は国内債4.7%、国内株25.1%、外債12.6%、外株27.3%だ。資産構成全体では12.8%と全額を国内債で運用する場合の3倍弱も収益が振れやすい半面、目標達成の可能性は高まる計算だ。

  日本国債の保有額がGPIFを上回るゆうちょ銀行は、利回りのマイナス化を受けて運用方針の見直しを検討する。同行の昨年末の運用資産は205.5兆円。内訳は、国債が41%、外国証券が21%、日銀当座預金を含む預け金・短期運用資産等が27%など。昨年3月末に46兆円だったリスク資産を3年間で60兆円に増やす計画だが、12月末には早くも59兆円に達した。  

  ゆうちょ銀を傘下に持つ日本郵政の市倉昇常務は12日の記者会見で、超低金利下での「資産運用、ポートフォリオのあり方などを検討していきたい」と表明。保有国債が償還を迎えたら、マイナス金利での再投資はせず、他の資産に振り向ける。適切なリスク管理の下で「金銭信託や外債にバランス良く」配分すると語った。  

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