日銀当座預金、来週からマイナス金利導入-「10兆円」の動きを注視

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  • 政策金利残高、3カ月後には最大30兆円程度まで膨らむ見通し
  • 無担保コール翌日物はマイナス0.05-0.06%前後で推移との見方

金融機関が日本で最も安全な運用のより所としていた日本銀行の当座預金。その一部に対し、いよいよマイナス金利が来週16日から適用される。日銀の推計によると、当初は約10兆円が対象となる見込みだが、金融機関同士が日々の資金を無担保で貸し借りするコール市場にどのように流れるのか不透明な部分が多く、さまざまな観測が出ている。

  日銀がマイナス金利政策の導入を決めた目的は、市場金利全般に一段の下げ圧力を加えることだ。黒田東彦総裁は、金利を短い期間の順に並べた利回り曲線(イールドカーブ)の起点を引き下げることで効果が出るとみている。

  日銀当座預金のうち、0.1%のマイナス金利が実際に適用されるのは、金融機関がこれまでに積み上げた「基礎残高」や、所要準備額と貸出支援基金および被災地支援オペの残高にマクロ加算額を加えた「マクロ加算残高」を除いた部分。日銀によると、この「政策金利残高」は現在の金融政策運営が継続された場合、マクロ加算残高を見直さなければ、3カ月後には最大30兆円程度まで膨らむ見通しだ。

  当日から翌日にかけての資金を融通する無担保コール翌日物の金利は、市場利回り曲線の代表的な起点。市場関係者の大半は、同翌日物の取引で、資金の出し手が借り手に利息を支払うという事態が起きると想定しているものの、実際の水準がどう推移するかについては見方が分かれている。

  東短リサーチの飯田潔上席研究員は、無担保コール翌日物は16日以降、日銀当座預金との金利取引の裁定が働き、マイナス0.05ー0.06%前後で取引される可能性があるとみている。政策金利残高を抱える金融機関がマイナス0.1%より有利な運用の場合に資金をコール市場に流し、運用不利とみた場合には日銀当座預金に滞留するとみているためだ。

  一方で、無担保コール翌日物金利のマイナス圏への単純な移行には懐疑的な見方もある。日銀当座預金のマイナス0.1%適用の部分まで余剰資金を抱える金融機関と、そうでない金融機関では金利取引の裁定可能な水準が異なる上、法的に定められている月ごとの準備預金の積み上げ期間の前半と後半では、金融機関によって資金の余剰度合いも変わってくるためだ。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは、「どのくらいのボラティリティが生じ、各金融機関がどういった行動を取るか予想しづらい」と指摘。「金利があまり下がらないと何のためにマイナス金利を導入したのか分からないが、イールドカーブの起点があまり振れ過ぎると短期セクターの国債利回りにも影響する」とみている。

  東短リサーチの飯田氏も、「対象となる約10兆円の部分にマイナス金利でも運用したい人はいるはずだが、さまざまな制約もあり、思った通り動くか分からない」と指摘。「マイナスが出ることが分かっていながら資金を運用する仕組みになっていない」と言い、一部の金融機関はマイナス金利を取引するシステムの構築ができずにいると話す。

マイナス金利の効果

  速水優氏や福井俊彦氏が日銀総裁だった2001-2006年の量的緩和下のコール市場では、外国銀行が為替取引などで調達した割安な円資金を日銀当座預金に積む代わりにマイナス金利で運用した経緯がある。一方、国内銀行が同様にマイナス金利で資金を運用したとの報告はなかった。

  市場関係者は、日銀が金融機関に対する収益圧迫要因となる政策金利残高の適用を限定的にしながら、無担保コール翌日物をマイナス金利に誘導し、品薄状態になりつつある長期国債の買い入れも継続しなければならない難題へ直面するとみている。

  日銀出身で岡三証券の愛宕伸康チーフエコノミストは、「量のターゲットを温存しつつ限界的なレートコントロールもチャレンジする非常に高度な金融政策だ」と指摘する。

  長期金利の指標となる新発10年国債利回りは9日にマイナス0.035%を付け、主要7カ国(G7)の国債では初めてマイナス金利を記録した。富国生命投資顧問の奥本郷司社長は、「日本であっという間にここまで深く長期の年限までマイナスが広がったのは、日銀が量的緩和を先行させそれを維持しつつマイナス金利を導入したところが大きい」と言う。

追加利下げ

  日銀がマイナス金利導入の追加緩和を発表して2週間が経過した。発表直後にいったんは年初来の円安値を付けていたドル・円相場は一時1ドル=111円台割れ、日経平均株価は1万7000円台から1万5000円台割れへと、16カ月ぶりの水準にまで円高・株安が進んだ。

  バークレイズ証券の福永顕人チーフ債券ストラテジストは、日銀が描くシナリオは、必要に応じて実施するとしている追加利下げになじまないと指摘する。一部の日銀当座預金への付利がマイナス0.5%やマイナス1.0%へと引き下げられると、それに伴って無担保コール翌日物の金利の振れ幅も大きくなり、金融機関同士の安定的な資金融通の場である短期金融市場の機能が壊れると言う。

  日銀が市場への資金供給を一段と増やしていけば、金融機関が抱えるマイナス金利適用の当座預金残高も膨らむ可能性が高まる。また、ある金融機関がコール取引を通じて残高を減らせば、取引の相手方の金融機関の残高が増えることも想定され、みずほ証券の丹治倫敦シニア債券ストラテジストは、「当座預金の押し付け合いのような状況が発生する可能性がある」

  富国生命投資顧問の奥本社長は、マイナス金利の導入によって「すでにMMF(マネー・マネージメント・ファンド)など短期運用がほぼ不可能になっている上、有担保コール取引も担保のネガティブキャリーがコストとなって商品として成立しなくなるだろう」と指摘する。

  多くの短期金融商品がマイナス金利化したことで、深刻な運用難に直面しているMMFの運用会社は、新規の投資資金の受け入れを相次いで停止している。投資信託協会はマネー・リザーブ・ファンド(MRF)資金のマイナス金利の適用緩和を日銀に申し入れた。

  有担保コール取引では短資会社などによる担保の確保が難しくなっている。担保となる国債の利回り自体も大幅なマイナスになり、取引高が急激に減少。レポ市場では銘柄を特定したスペシャル取引(SCレポ)で特定の債券を借りることが困難となりマイナス金利が拡大する背景となっている。 

(第13段落以降を追加して更新します.)
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