バリュートラップの日本株、下落上位に低PBR業種-収益リスク直撃

年初来の日本株は銀行、海外景気に敏感な海運や鉄鋼など株価純資産倍率(PBR)が低い業種ほど下落率が大きい。世界経済の先行き不安や日本銀行による国内初のマイナス金利策導入などから、企業収益の悪化リスクがより警戒されているためだ。世界的な安全志向で株式自体にも買いが入りにくい中、割安状態が一向に解消されない「バリュートラップ」に陥りつつある。

  年初から9日までにTOPIXは16%下落した。欧州のギリシャやイタリア、ドイツ、中国上海には及ばなかったが、世界の主要株式93指数の中でワースト10位。東証1部33業種は全て安く、下落率トップが銀行の32%、保険(27.2%)、海運(27.1%)、電機(22%)、鉄鋼(21%)などがこれに続く。PBRを比較すると、TOPIXの1.09倍に対し銀行は0.47倍、保険は0.67倍、海運は0.42倍、鉄鋼は0.57倍と1倍割れの業種が下落率上位を占める。

  大和証券投資戦略部の高橋卓也シニアストラテジストは、年初来の株式市場は「為替が円高になり、外部環境が荒れている中でディフェンシブ株の値持ちがもともと良かったが、9日の円高でより一層加速した」と指摘。一方で投資家は、「売られていた銘柄はさらに悪材料が強化されたことで下げており、為替反応度の高いものは回避されている」とみる。

  下落率の小さかった業種の上位はトップの食料品(2.2%)をはじめ、陸運(4.5%)、情報・通信(5.8%)、水産・農林(6.4%)、電気・ガス(7.8%)、医薬品(8.7%)など収益安定性の高いいわゆるディフェンシブセクターで、これらのPBRは食料品が2.16倍、陸運は1.09倍、水産・農林は1.45倍、医薬品が2.05倍など1倍を上回るものばかりだ。 

  PBRで割安な業種が一段と売り込まれ、割高な業種が相対的に堅調とバリュー戦略が効かない背景には日本株を取り巻く投資環境の悪化がまず挙げられる。原油価格の長期下落、中国経済の減速などから世界景気に対する懸念が強まっており、米国やドイツの長期金利が大きく低下したように、世界の投資マネーは安全資産に向かっている。日本の長期金利も9日、史上初めてマイナスとなった。為替市場では1ドル=114円台と1年3カ月ぶりの円高水準に振れた。

減益主役の海運・鉄鋼、銀行はマイナス金利に不安

  ちばぎんアセットマネジメントの奥村義弘調査部長は、日本株は「割安感のある水準だが、リスク要因を考えると投資意欲は削がれる環境」と言う。ボラティリティが世界的に高まっており、「投資家は長期戦を覚悟している。思い切った動きは出づらい」とも話した。

  割安業種がさらに割安に押しやられる状況は、該当業種が置かれた独自の要素にも起因する。3月決算企業の業績開示がピークを越え、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のまとめでは、2015年10ー12月期の経常利益(金融除く東証1部全産業、発表率68.9%)は前年同期比マイナス0.6%と減益に陥った。特に海運、鉄鋼はともに6割を超す減益と落ち込みがきつい。

  年初来下落率トップの銀行については、日銀が1月29日の金融政策決定会合で当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を適用することを決め、収益に今後悪影響が及ぶとの警戒感が直撃している。9日の取引では三菱UFJフィナンシャル・グループ三井住友フィナンシャルグループみずほフィナンシャルグループのメガバンク3社がそろって52週安値を更新。MUFGは、アベノミクス相場が始まって間もない13年1月以来、500円を割り込んだ

  ピクテ投信投資顧問の松元浩常務執行役員は銀行株の下げについて、「貸し出しの利ざやがほとんどないし、投資先も非常に限られる。収益機会はじり貧になってしまう」と指摘。銀行株の弱い国の「経済が活性化するとは思えない。マイナス金利政策は非常時の政策で、日銀も意図について市場とコミュニケートした方がいい」と厳しい視線を送る。

健全米国、割高株から売られる

  一方、米国株はS&P500種株価指数が年初来で9.4%下落と世界的株安の影響は受けているものの、バリュートラップの状況には陥っていない。ラッセル1000指数の中で最も割高な100銘柄は5日、8日の2営業日で割安企業に比べ2倍の早さで急落しており、バリュエーションの高い企業ほど売られる健全な動きを見せている。

  野村証券投資情報部の村山誠エクイティ・マーケット・ストラテジストは、「PER77倍のようなテクノロジー系銘柄が売られている。そういった銘柄は株式市場が非常に良い状態でリスクをとれる時でないと買われない銘柄。今売られているのは当然」と話す。そうした銘柄は上場から日が浅いものの有望で、結果的にPERが高くなったケースが多く、リスクオフの流れの中で「換金の動きが出ている」との認識を示した。

  大和証券の壁谷洋和チーフグローバルストラテジストは、米国株と対照的な状況にある日本株について「バリュエーションで説明できないくらい割安なところまで売り込まれているが、反転のきっかけになり得るものがない。どこかの市場が止まらないと難しいだろう」と分析。バリュー戦略が有効になるには、海外市場の落ち着きが先決としている。

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