日本国債の7割が水没、マイナス金利策で先行のドイツ国債に追い付く

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  • 10年債利回りはG7で初めてゼロ%割れ、マイナス0.035%まで低下
  • 目先どこが底か読めなくなってきている-三菱UFJ国際投信

日本銀行の黒田東彦総裁がマイナス金利政策の導入を決めてから2週間足らずで、その効果が日本国債市場に広がっている。国債発行残高の約7割は利回りがゼロ%を下回っており、同政策で先行するユーロ圏のドイツ国債に早くも肩を並べた格好だ。

  長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは9日、主要7カ国(G7)で初めてゼロ%を割り込み、マイナス0.035%まで低下した。世界的な景気減速を背景とした市場の混乱に加え、黒田総裁の「金利全般により強い下押し圧力を加えていく」という市場へのメッセージが浸透しつつある。欧州中央銀行(ECB)が日銀より約19カ月前にマイナス金利政策を導入した独国債市場では、10年物利回りが0.2%前後とプラスで推移している。

  三菱UFJ国際投信債券運用部の小口正之チーフファンドマネジャーは、日本の10年債利回りがマイナスに転じたのは「象徴的な動きだ」と指摘。「過熱感とレベル感以外には売り材料が見当たらない。金利がどこまで下がるかを試す投機的な資金も入ってきており、目先どこまで行くか読めなくなっている」と話す。

  黒田総裁とECBのドラギ総裁はともに、金利の押し下げに成功している。日本の10年債はマイナス金利政策発表前の0.225%から、わずか7営業日で26ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)も低下。実際の適用は16日以降だが、新発2年債はマイナス0.25%、5年債はマイナス0.265%、20年債も0.705%と、すでに過去最低を更新している。独10年債も昨年4月には0.049%と過去最低を付け、9日にも一時0.2%を割り込んだ。

  東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジストは、残存10年までの国債利回りがゼロ%を割り込んだことで、なおさら「国債を売らない人が増える」と予想。次の購入時には「デュレーション(年限)を相当長くしないと買えなくなる」からだと言う。ECBも追加緩和でマイナス金利の幅を深め、資産買い入れを拡大する方向だと分析。独10年債の利回りも「いずれマイナスになる」と読む。

  佐野氏は今月初め、10年債利回りがゼロ%を割り込むと予測。この4年間で同利回りが0.5%、0.25%、0.1%に低下するとの見通しを示し、いずれも的中させた。金融緩和は日本経済の立て直しには効かないとみており、人口政策や規制緩和、税制改革が必要だと主張する。

  日銀は先月末、金融機関の当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用する追加緩和を決定。原油安や新興国・資源国経済の減速、市場の混乱を受け、企業信頼感の改善や人々のデフレ心理の転換が遅れ、物価の基調に悪影響が及びかねないと説明した。イールドカーブの起点を押し下げ、巨額の国債購入とともに、金利全般により強い下押し圧力を加えるとし、必要に応じて追加利下げもあり得るとした。

  ECBは2014年6月に中銀預金金利をマイナス圏に引き下げ、昨年3月には量的緩和策を導入。12月には同金利をマイナス0.3%に下げた。ドラギ総裁は先月の記者会見で3月以降の追加緩和を示唆し、責務の範囲内なら政策手段に「制限はない」と言明した。

むしろ「デフレの追認」

  ただ、両中銀の金融緩和は、昨年夏や年初来のように投資家がリスク回避に走る局面では、株価急落や通貨高の抑止効果を挙げていない。米連邦準備制度理事会(FRB)による3月の追加利上げ観測がゼロ%まで後退したのを受け、円の対ドル相場は9日に1ドル=114円21銭と日銀の追加緩和直後の14年11月以来の水準に上昇。TOPIXは昨年来安値を更新した。株安や円高は2%の物価目標の早期達成には逆風だ。

  三菱UFJ国際投信の小口氏は、昨夏の「チャイナショック時は金融市場が主導した混乱にとどまったが、今回は実体経済への懸念が強く、根が深い」と分析。「時間をかけて織り込みが進むため、金利が反転する展開は想像しにくい」とみる。マイナス金利が実体経済にどう効くかは時間をかけた検証が必要だが、円高・株安を抑える意味での金融緩和は「限界に来ている」と指摘。市場はもはや「日銀に過剰な期待をすべきではない」と言う。

  日銀は2%の物価目標を達成するため、マネタリーベースを積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。翌年10月末の追加緩和で国債保有増を年80兆円に拡大し、昨年12月には買い入れの平均残存期間を7-12年程度に長期化するなどの補完措置も加えた。指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買い入れも含む量的・質的緩和は今後もマイナス金利と併用していく方針だ。

  ただ、全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は原油安を背景に約1年間も前年比ゼロ%前後で低迷。日銀は先月末に公表した景気・物価見通しで、16年度のコアCPIを0.8%に引き下げ、物価目標の達成時期も「17年度前半ごろ」に先送りした。10年物の固定利付国債と物価連動債の利回り格差が示す市場の予想インフレ率は9日に0.244%と、13年10月の発行再開以降で最低を記録した。

  富国生命投資顧問の奥本郷司社長は、日銀はマイナス金利の導入で「何をターゲットに金融緩和をしていくのかが曖昧になってしまい、今後の政策動向が非常に分かりづらい」と指摘。物価目標は堅持しているが、量的・質的緩和とマイナス金利の併用という「方向性の定まらない」手段のせいで、むしろ量的緩和の限界と「デフレの追認」を印象付けてしまったとみる。

日商会頭も苦言

  マイナス金利政策導入の影響は金融市場以外にも波及している。みずほ銀行は9日、企業への長期貸し出しの基準金利となる長期プライムレート(最優遇貸出金利)を過去最低の年1%に引き下げ、同日から適用すると発表。あおぞら銀行も追随した。一方、金融機関の当座預金残高に占めるマイナス金利の適用部分が徐々に拡大していけば、金融機関の収益を圧迫し、貸し出しを通じた信用創造をかえって損なうとの懸念も出ている。

  日本商工会議所の三村明夫会頭は9日の記者会見で、10年債利回りのゼロ%割れや株価急落は、マイナス金利政策が「非常に分かりにくいことによるマーケットの動揺もあった。狙いや意図を日銀は明快に説明してもらいたい」と発言。地方銀行や信用金庫などが収益面で影響を受ける可能性を指摘し、こうした地域金融機関から借り入れている中小企業にも影響が及ぶ「心配は若干ある」と語った。

  みずほ証券の末広徹シニアマーケットエコノミストは、世界的な株安と円高の「根底にあるのは世界的な経済不安と米利上げ見送りの催促だ。市場はイエレン議長がどれだけ柔軟性を発揮するかを試している」と指摘。「日銀が何をやってもグローバルな負の流れに打ち勝つのは難しいと、この数日で証明されてしまった」とみる。

  長期金利がマイナスに転じるという異例の事態には、個人投資家の関心も高い。静岡県でミニトマト農家を営む山本義久さん(63)は「数年前から金利が全然ない。銀行に預けるのはばかばかしい」として金融資産の大半を投資に回しており、預金は「3%未満しかない」と言う。一方、学校法人で講師などを務める野村和孝さん(41)は、8割を普通預金口座に置いている。「日本人自体がマイナス金利に不慣れな状況で、世の中に対する影響が大きいところまで政府・日銀が冒険をするかは分からない。個人の銀行預金への影響は全く感じていない」と話した。

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